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第15話 イベント部屋


――晴町はれまちダンジョン イベント部屋――


気がつくと、私とご主人様は広いスタジアムのような場所にいた。壁や客席は白石で造られ、見た目は古代ローマの闘技場っぽい。内装はボロボロにちており、観客席には人ひとりいない。


「うーん、やっぱり【モンスターハウス】かな? やるしかないけど運がないなー」


銀色のイベントキューブは2分の1の確率でモンスターハウスにつながっている。大量のモンスターと戦う可能性が高いため銀キューブに触ることを嫌う探索者も多い。


『気づけばキミたちは辺鄙へんぴな場所にいた』


『朽ち果てて今にも崩れそうな建物だ』


ん? なんか頭の中でメッセージが流れているのだが? まさか【テキストメッセージ】かこれ?


『ここは王都の外れにあるコロシアムである』


「はあ? 王都ってなに?」


『現在、この場所は魔物達の住処すみかとなっている』


『魔物はここを拠点に王国に攻め入るつもりなのだ』


返事がない。イベント部屋のテキストメッセージはたれ流し方式のようで、こちらの発言は一切考慮(こうりょ)されないようだ。


『賢者は国を守るため、魔法によって勇者を召喚した』


へー、勇者なんているんだ。


『キミたちのことである』


私達のことだったー!?


『王国の人々を救うため、キミたちはコロシアムに巣食う魔物の軍勢を倒さなければならない』


なんで私達がやるの? 王国に騎士団とかいるんじゃないの? そっちにやらせろよー。


『さあ、キミたちの勇姿を見せてくれ!』


『人々の平和を守るのだ!』


『イベントNo.035・魔物の住処すみか、コロシアム編』


「えーー!? 結局ただのモンスターハウスでしょ!? ふつうに初めてくれー!! ゲームじゃないんだからテキストメッセージなんていらないって!!」


臨場感りんじょうかんを高めるための『テキストメッセージ』なんだろうけど、某RRGみたいでゲームっぽくなっちゃうんよ。逆効果なんよ。こっちは命がけだからね? マジメにしよ?


「な、ななな、なんてことっす! 王国が大変っす! モンスターを倒すっす!!」


めっちゃノリノリじゃないか、このご主人様は。


好感度が上がるしかない。



ゴーン!! ゴゴゴゴゴ…………!!


大きな地響きが起こる。

コロシアムの端、私達の正面にある大きな扉が開いた。


扉をくぐってゾロゾロとモンスター達が姿を現す。


ゴブリン。ゴブリン。


ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、

ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、

ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、

ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、

ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ごぶり、


「ゴブリンしかいねぇーーーっ!!!」


これじゃモンスターハウスじゃなくて、ゴブリンハウスだよー! たしかに第01階層のイベント部屋だけども! もっと混ぜてこな! 第05階層くらい上の混ぜてこな!


そしてこの時点で分かった。

このイベントの報酬はきっと……しょぼい!


「うわー。ゴブリンだらけっすねー。これなら変身しなくても余裕そうっす」


「余裕だろうけど、においがね……」


ゴブリンの血はくさい。これだけ大量のゴブリンである、返り血を完全に避けるのは不可避だろう。


「できるだけ血がかからないようにガンバルっす! そうだ先輩、けをしないっすか?」


「賭け?」


「そうっす! 先輩とウチ、どちらが多くゴブリンを倒せるか勝負するっす! もし先輩がウチに勝てたら、先輩のお願いをひとつ『なんでも』聞くっす!」


なん……だと……?


ごしゅ、ごしゅ、ご主人様が『なんでも』聞いてくれるだとー!? エッ! エッ! エッーー!?


「ご主人様、ちなみにそれは『かなえる』という意味の『聞く』であって、『はい、聞いたー!』って願いが耳に入るって意味の『聞く』じゃないよね?」


「なに言ってすか? よく分かんないっす」


しまった。動揺どうようして変なことを聞いてしまった。


「ちなみにウチが勝ったら先輩にお願いを聞いてもらうっす!」


そんなん、私にデメリットないじゃん!?

そもそもがご主人様のお願いを断れないんだし!!


「その賭けのった! 景品が魅力的すぎて断る理由も見つからないし! 久々に『全力』を出させてもらうよ!」


ご主人様は絶対に自分が勝つと思っているのだろう。


ふつうに考えてその予測は正しい。私とご主人様では戦闘力に圧倒的差があるからだ。私がゴブリン1匹を倒す間に、ご主人様はゴブリンを5匹は倒すことができる。


「うっす! 先輩の本気楽しみっす!」


笑っていられるのも今のウチだぜ、ご主人様。


「それじゃあ、」


ゴブリンの軍勢がこちらに向けてゾロゾロと動き出した。数は500匹ほどだろうか? 1匹1匹はチビで弱そうだが、この数が一斉に動き出すとさすがに圧を感じる。


「戦闘開始っす!!」


ご主人様の掛け声で私達二人は走り出した。


私は走りながら、腰に着けたポシェットからあるアイテムを取り出す。【爆火弾】である。


―――――魔道具―――――

【爆火弾】≪消費≫

魔力を込めて投げると爆発する爆弾。

威力が高く爆風によるダメージも強い。

――――――――――


1発20万円である。

ゴブリンごときに使って良い代物ではない。


大赤字になるだろう。


しかし私の今の相手はゴブリンではない!

ご主人様だ!


何としてもご主人様よりも多く、ゴブリンを討伐しなければならない! そのためなら手段は選ばない!


「赤字覚悟の大サービスじゃああいーー!!」


勝負に勝てば赤字にはならない! エッ! エッ!


これが私の全力だーー!!(予算的に)


私は走りながら爆火弾を投げる。ゴブリンの郡中ぐんちゅうで大きな爆発が巻き起こる。血肉を撒き散らしながら爆風で吹き飛ぶゴブリン達。密集しているのもあって効果はバツグンだ!


死んだゴブリンはきりとなって消えるため、正確な数は数えられないが、たぶん20〜30匹は殺れたハズである!


うふふふふ、爆火弾はあと5発あるんだよ。


覚悟しろゴブリン! 総額120万円の攻撃を味わうがいいー!! そして少しでも苦しんで死ねーー!!(八つ当たり)


「そおーい!」


ドカーン! ドカーン! ドカーン!


と、景気のいい音が、コロシアムに響く。


ゴブリンに接敵しながらの爆弾投射。早々に手持ちを投げ終わった私は、両の手に斧を装備して接近戦モードへ移行する。爆弾でかなり数を減らしたがゴブリンはまだまだ大量にいる。


爆弾はあくまでゴブリン本隊にたどり着くまでの先制攻撃である。ズルではない。


隣を走っているご主人様へ目線だけで合図を送る。いくらご主人様と狩り勝負を行っているとはいえ、そばを離れるワケにはいかない。私とご主人様は並んでゴブリンの群れに飛び込んだ。


ご主人様のバットは一振りで数体のゴブリンを吹き飛ばす。まるで暴風のようである。


私もゴブリンの頭部に正確に斧を撃ち込んでいく。脳天を断ち割られ、ゴブリンは黒い霧となって消えていく。


二人の少女はまるでダンスを踊るかのようにゴブリンを虐殺ぎゃくさつしていく。


ゴブリンの上げる悲鳴と、飛び散る血しぶきは、まるで舞台演出のように二人を際立たせる。


相手がゴブリンといえど、油断した様子はない。


背中合せでの戦いは信頼の証、意識は常にパートナーをとらえ、的確にフォローする。


その動きにはまよいもよどみもくもりもない!


少女達は晴れやかな笑顔で戦場を駆け回り、


モンスターを蹂躙じゅうりんした。


……

………


はーーーー! 楽しーーーー!!


ご主人様といっしょにゴブリン虐殺するのサイコーーー!!


と、やや異常者な感想を抱いてしまったが、実際そうなのだから仕方ない。楽しかった。乙です。


闘技場にいたゴブリン達はすでに全滅している。


ご主人様と私は二人とも血まみれである。血みどろでベッチャベチャになっている。もちろんゴブリンの返り血だ。途中までは返り血を気にして戦っていたが、中盤辺りからどうでも良くなってしまった。


どうせあとで、白餡しろあんに『洗浄』してもらえるし、ヨシ!


「ふー、さすがに疲れたっす。500匹はいたっすか? 先輩どのくらい倒したっすか?」


「うーん、正直覚えてないんだよね。そもそも最初にスタートダッシュのつもりで爆火弾を投げたけど『爆発で倒した数はまったくカウントできない』という事実に今さら気づいたよ」


「ええーー!? たしかにっす!! 実際アレはウチも『やられたー!?』って思ったっす! 負けられないから接近戦でケッコー本気だしたっす!」


「カウント出来てないからね。仕方ないね。この賭けは無効試合になります」


ウソである。爆殺数をテキトーに含めたとしても、どー考えてもご主人様が勝っている! しかも圧倒的に! 私は知っているのだ! なぜなら一番近く(・・・・)で見ていたから!


なんか、私が殺そうとしたゴブリンの頭がいきなり消えるんですよ……アレは完全にホラーでした。その後もゴブリンが突然消える事件が何度も起こるんです。足首だけ残して消えたゴブリンもいました。もちろん犯人はご主人様です。横槍ならぬ横バットで私の獲物はかなり横取りされているのです。これがこの戦いの真実です。


「そうっすか……残念っす……」


ご主人様が落ち込んでいる。

よほど賭けの賞品が欲しかったようだ。


どんなお願いをするつもりだったのか興味はあるが、全力勝負であるからには私も手は抜けない。そして全力で勝敗を捻じ曲げた結果の無効試合である! 実質私の勝ちだ!


『魔物達はキミたちの働きで全滅した』


『王国はキミたちに褒章を用意したようだ』


また、頭の中でメッセージが流れる。

王国がクリアー賞品をくれるらしい。


いや王国の気配なんか1ミリも感じなかったからな? そういうシナリオにしたいなら兵士が配置されてたり、弓の援護射撃がきたり、回復アイテム投げてくれたり、そういうギミックを用意しろな? 文字だけ出てきてもまったく伝わらないよ?


『さあ、受け取るがいい、勇者たちよ!』


そして、私達の目の前に【銀色の宝箱】がドスンと現れた。



※銀キューブに触るコトを嫌う探索者は多いが、『触らない』を選ぶ探索者はいない。


よろしければ、

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☆★☆(^∇^)ノ♪☆★☆


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