第14話 動画撮影
「じょうだん? 冗談……っす???」
ご主人様が先ほどの私の発言、「もちろん冗談だよ!(テヘペロ)」を受けて「冗談…冗談…?」と下を向いてブツブツ小声でつぶやいている。暗い……あまりにも。
私の冗談に乗せられたのがかなりショックだったみたいだ。気の毒ではあるがこちらも訂正のしようがない。
そもそも振られた私の方がショックが大きいハズである。ご主人様と恋人関係になれなかったし……くそう。仕方ないので今後はご主人様の犬として、忠犬関係を大切に磨いていこうと思う。私は前向きだ。
とりあえず手始めに語尾にワンとでも付けるか?
今度ご主人様に相談してみよう。
よーし、切り替えよ! ご主人様も切り替えて! そんなに腑抜けていてはモンスターにやられますぞ! 前を向きなされ! ご主人様ーー!!
「ご主人様、とりあえず『探索動画』に話を戻そう。キャメラは白餡が撮るとして、編集とか投稿は誰がする予定なの?」
9割9分9厘ネムが編集をやるのだろうが、ご主人様の意識を先ほどの告白事故(悲しい事故だったね)から反らすため質問しておく。
「あ……はいっす。 動画の編集やその他もろもろは全部ネムちんがやってくれるっす。ネムちんは引きこもりなだけあってパソコン関係には激強っす」
引きこもりだった!!
「ちなみに探索者に合格した当日、学校に退学届けを出したっす」
退学してたっ!!
怖っ!! 行動力怖っ!!
「たしかに【魔道具師】なら学校に行かなくても生きていけるかも知れないけどさー。ふつう辞める? 狂気なんだが?」
ネムのジョブは上級職の『魔道具師』である。
たしかにこのジョブを得たなら学校を辞めてもこの先人生は安泰であろう。魔道具師は科学では再現不可能な不思議アイテムをいろいろ作り出せるのだ。生産職の中でもかなり金銭を稼ぎやすいジョブである。
「ネムちんは身体を動かすのがキライなだけで行動力はあるっす! すごいっす!」
たしかにすごいけども。
進んで引きこもりになるコトを行動力と言えるのか?
学校は辞めない方が良いと思う。
とりあえず今は動画のコトを考えよう。最初の1本目の動画は重要である。定期的な投稿も大切だが、とにかく安定したクオリティを求めたい。1本目から手を抜くワケにはいかない。それがバズりに繋がるのだから。
「やっぱり最初の動画はカマした方がいいよね?」
「先輩……なにか良案があるっすか?」
ご主人様が真剣な表情で聞いてくる。
もちろん、我に策あり!
「とりあえず二人でダンスを踊る!」
「まさかの踊ってみた動画っす!?」
「ダンジョン内で音源がないから、ご主人様がアカペラで歌ってくれ!」
「ウチが歌担当ーー!???」
「あ、一発撮りでやるからね」
「初めてなのに『ファーストテイク』っすーー!?」
「やっぱり再生数を伸ばすにはペットも必要だな……よし、私のジョブ忠犬だからペット役やるよ」
「えーー!? 先輩がペットにっすーー!?」
「バウワウ」
「英語犬だったっすーー!!」
「ロボットダンスはこうやって踊るんだよ?」
「予想外にロボットダンスっすーー!! しかも上手い!! まるでア◯ボっす!!」
こうして、ご主人様とイチャつきながらも動画撮影は無事(?)終了した。ていうかこの動画本当に使えるのか? 歌も踊りもかなりヤバいぞ!? カオスすぎる!!
まあ編集担当がなんとかしてくれるだろう。
今流行りのずんだ餅ボイス解説でも入れれば、それなりに見れた動画になると思う。たぶん。
「うひょーっす! 恥ずかしいっすー! ついにウチの歌声がシカチューブで世界配信されてしまうっすー!」
「ご主人様なんで歌のチョイスが『蛍の光』だったの? あれだとエンディングで毎回使われるよ?」
ご主人様の歌う『蛍の光』をバックに「「チャンネル登録お願いします!!」」と女子高生二人がお願いする……アリだなっ!!
ダンジョン的な撮れ高がまったくない気もするが、楽しく撮れたから良いだろう。プロの配信者ってワケでもないし細かいことは気にしない。カオス方面ならかなりのクオリティだと思う。カオス方面なら。
これで再生数が上がってきたら、どうなるか分からないけどなー! 本気出しちゃうかもなー! 探索そっちのけで動画撮影に本気出しちゃうかもなー!
そんなことを考えていた帰り道、
私達の目の前に、
大きな『撮れ高』が現れたのだった。
…
……
………
――午後9時20分――
――晴町ダンジョン 第01階層――
ダンジョンから脱出しようと走っていた帰り道。
第01階層でソレは現れた。
通路の真ん中に『キューブ状の物体』がふわふわと浮かんでいる。どデカいルービックキューブみたいな見た目だが銀色に強く発光しているため、かなり神々しく見える。
「これは…………イベントキューブ!!」
なんてこった!? たしかに撮れ高を求めてはいたが、まさかココで【イベントキューブ】が現れるとは……!
「白餡、撮影お願い!」
「きゅぷるぅぅ!!」
私は白餡に撮影をお願いする。白餡はアイテムボックスから素早くビデオカメラを取り出して構えた。
「先輩……この四角いのなんっすか? イベントキューブって、なんか聞いたことある気もするっすけど……」
「イベントキューブは触れた探索者を【イベント部屋】に転送させる『ドア』みたいな存在だよ。イベント部屋では何かしらのイベントが用意されていて、探索者は様々な恩恵を受けられるんだ」
ダンジョンといえば『イベント部屋』である。
イベント部屋では様々な【イベント】が起こる。戦闘を必須とするイベントもあれば、『武器屋』や『回復の泉』など害のないイベントも存在する。イベント部屋に入るまでは、どんなイベントが起こるかは分からない。
現在確認されているイベントの種類は200種類を超える。イベントキューブは『銀色、金色、虹色』とレア度によって光の色が変わる。銀色がレア度が低く、虹が一番高い。レア度の高いイベントキューブほど大吉なイベント部屋に転送される。
イベント部屋にはパーティー全員で移動できる。
イベントキューブは触れなければ10分ほどで消える。
「たしか銀色のキューブは2分の1の確率で『モンスターハウス』なんだよねー。危険といえば危険かな? モンスターの数によって宝箱が増えるらしいけど。ご主人様どうする?」
「聞く必要ないっす! 行くっす!」
たしかに。例えモンスターハウスであっても私達が負けるとは思えない。イベント部屋の『イベント難易度』はキューブの出現した階層に依存する。ここは第01階層である。モンスターハウスであってもザコばかりだろう。そのぶん報酬もしょぼくなるだろうが……
でも第01階層でイベントキューブなんて聞いたことがない。こんな事もあるんだね。私達ってイレギュラーが起きやすいのかな? まあヨシ。
そして私とご主人様は、
初めてのイベント部屋に飛び込んだのだった。
※ア◯ボ→アイ◯
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