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第13話 命令と武器と告白


「うう、ごめんなさいっす……本当にウチ……先輩に命令するつもりはないんっす……グスッ……グスッ……」


ご主人様はまだ泣いている。


無意識にでも私に命令したことが(しかも内容がヤバい)ショックだったようだ。


「気にしなくて良いよ。私のご主人様なのは確かなんだし、少しくらいなら命令してくれても……」


少しくらいなら命令してくれても、嬉しい!!


じつはさっきも少し興奮していた。

忠犬スキル恐るべし!


「いや、もう二度と命令はしないっす。先輩には自分の意志で、自由に生きてほしいっす!!」


ご主人様がどっかの哲学者みたいなことを言った。私のことをそこまで考えてくれてるなんて……感激である。でも多少は命令されたいという私の意思も尊重して欲しい。言わないけど。


まあご主人様は今後もふつうにミスって命令すると思うので、そこまでの心配はしていない。


ちなみに、出会ってすぐに「私の命令は先輩の好きなように断ってくれて良いっす!」とご主人様が『命令』してくれたが、なぜかその命令は無効となった。


『ご主人様と呼ばないで』の命令が無効になったのと同じように、システム的に何かこだわりのプログラムが組まれているのかも知れない。知らんけど。


「まあ、動画は消したし。あとはご主人様が忘れてくれたら私は気にしないよ。あれは夢だったんだよ。お互いキレイさっぱり忘れよう。私達は何も見なかった」


「……イヤっす。絶対忘れないっす」


あの後、カメラからSDカードを取り出してそれを焼却した。データを消去するだけでは編集担当ネムに復元される可能性があるからだ。用心に用心を重ねる。これで私の痴態ちたいは完全に灰となったハズである。


ん? てか、なんか断られた? 聞き間違いだよね?


「とりあえず、なにか戦闘の動画でも撮影してみようか? 武器が金属バットと手斧だからイロモノ系探索動画に組分けされるかもだけど」


探索動画を扱う動画サイト【シカチューブ】にはたくさんのカテゴリーがある。


王道であるモンスターとの戦闘動画、

トラップ解除や戦いの技法などを教える攻略動画、

ダンジョン内でさまざまなコトを試す検証動画、

発見した宝箱を開けるドキドキの開封動画、

ちょっと対象年齢の高いお色気動画、

ネタに走ったイロモノ動画、


他にも散財系とか料理系とか無数にある。


ちなみに私は『モンスターピタころスイッチさん』のチャンネルをよく視聴している。チャンネル登録済だ。


「バットと斧って人気ないっすからねー。動画でも使ってる人見たことないっす」


「ぶっちゃけ武器として不完全だからね」


金属バットを使うなら『鋼の棍棒』の方が強いし、手斧は単純にリーチが短すぎる。


そもそも本来『バット』は野球の道具であり、『斧』は木を切るための道具である。そこに武器としての性能を求められても彼らが可哀想だ。


「先輩ってどうして斧を使ってるんっすか?」


「え? 安いから」


それ以外に理由があるとでも?


斧、とくに『片手斧』は目茶苦茶人気がない。


『日本の探索者3000人にきいた! 人気武器種ランキング!』では、


1位『カタナ系』

2位『ショットガン』

3位『片手剣系』


となっている。


カタナが人気1位とか日本の探索者は厨二病しかいないのか!? と勘違いされそうだが、ダンジョン産のカタナは実際かなり強い。


強度が通常の日本刀の比ではなく、簡単には折れないし、魔力を通すことで斬れ味が上昇する性質も持っている。


上位の探索者は鉄のゴーレムだろうが硬いカメゴンだろうが、カタナ1本でスッパスパ斬っていくのだ。


2位にショットガンが入っているのは補助系の探索者が主に使用するためである。生産職やヒーラーなど腕力に自信がないジョブの人はショットガンを装備するコトが多い。欠点はダンジョン産の弾丸を使用する必要があるため、弾代が目茶苦茶かかる点である。


補足ではあるが、ダンジョン産(ドロップもしくは生産職の作ったもの)以外の武器や道具でモンスターを倒しても経験値やドロップアイテムは手に入らない。逆に言うとそれらを考慮こうりょしないで倒すだけで良いのなら、モンスターを殺す裏ワザはいくらでも存在する。


3位の片手剣系は言わずもがなファンタジーの王道武器種である。攻撃と守りのバランスがよい。


斧? 斧は人気ないなー。欠点が多すぎるね。


まず形状的に防御に使いづらい。先端が重いため攻撃力は高いが空振スカってしまうとスキが大きくなる。斧の刃を敵に確実に当てるには、かなりの集中力がいる。


ギンギンに集中して斧を使うくらいなら、剣でテキトーにブンブンしていた方がはるかにお手軽なのだ。


上記の理由で斧には人気がない。しかし斧にも優れた点がひとつある。人気がないから格安で販売されるのだ。私にとっては一番の魅力である。


私の使っている片手斧【硬斧こうふコバチ】は1本60万円で購入できるが、この斧と同じシリーズのカタナである【硬刀クロガネ】は価格が1本3000万円以上する。


格差がすごい!


―――――武器―――――

【硬斧コバチ(片手斧)】

耐久度が高く、とにかく壊れにくい。

硬くて壊れないので手入れが楽。攻撃力中。

――――――――――


人気がない武器種では、例えダンジョンの上層で手に入れたとしても買い叩かれるのだ!


「武器って安さで選ぶものでしたっすかね? さすが先輩っす。カルチャーショックっす」


ややあきれ気味にご主人様が言う。待って! 呆れないで! この斧は確かに60万で買ったけど、本来なら3000万以上の価値がある可能性もあるんだよ! 手斧が大人気の世界線ならね!


「ご主人様だってノリで金属バット使ってるんでしょ? 女の子がバットって正直どうかと思うよ?」


「ノリって……このバットはネムちんが選んでくれたっすよ。変身が解けたあとに少しでも時間が稼げるようにって。本来は防御特化の武器っす」


―――――武器―――――

【星打ちのバット(棍棒)】

パリィの猶予ゆうよ時間に補正が入る。

相手の飛び道具を打ち返せる。攻撃力低。

――――――――――


ぼ、防御用だったーーー!!


衝撃の事実である。


ご主人様のジョブスキル『魔法少女変身』は変身中は強化状態に入れるが、3分経つと変身が解除され素の状態に戻ってしまう。もう一度魔法少女になるためには30分のクールタイムを待つ必要がある。


その30分を稼ぐために、まさかパリィに特化したバットを装備しているとは……! 全然ノリじゃなかった……


「変身しないとどうにもならない相手は基本逃げるっすけどね。最初のミノタウロスも3分じゃ倒しきれなかったっすから、とりあえず逃げたっす」


あー、あったね。運命の出会い。


「あの時は、苦労かけたねご主人様。私なんかのために戻ってきてくれて嬉しかった……でも判断を間違えた私の自己責任でもあったし、見捨ててくれても良かったと思うよ?」


正直、完全に死んだと諦めてたし。例えあのまま殺されたとしても、ご主人様を恨んではいなかっただろう。


もちろん助けてくれたことは、めちゃ嬉しいが。


「……ダメっす」


「え……?」


ご主人様……どしたの?


「ダメっす! 二度と『見捨てろ』なんて言わないっす!」


「えーと……?」


なんか地雷踏んだっぽい。


「あれはウチが助けたいと思ったから戻ったっす! そんなコト言わないで欲しいっす! 悲しいっす!」


か、悲しまれてしまった!? ごめん!!


「そもそも先輩はマジメすぎるっすよ! 探索者が自己責任だと教えられて、それに素直に従いすぎっす! あたま固すぎっす! まあ……(そこも可愛いトコっすけど)……とにかく、先輩はもっと柔軟な思考を持つっす! り固まりすぎっす!」


叱られたーー!!


軽い気持ちで言ったつもりだったが、説教されたー!

ご主人様ちょっと涙目になってるし、申し訳ない!!


そして、冒頭の宣言を一瞬で反故されての『命令』だった。

私の中の『忠犬』が走りたがっている……!!


柔軟な思考を持つ……うーむ。


私は本当に凝り固まっていたのだろうか?


たしかに私はこだわりが強かったかも知れない。


弱いからパーティーが組めないと思っていたが、そんなの気にせず、もっとお願いすれば良かったかも知れない。


他人に頼ることをヨシとしなかったが、プライドなど気にせず、もっと頼れば良かったかも知れない。


自己責任と言われても、図々しく、もっと探索者協会を利用すれば良かったかも知れない。


いろんな人に迷惑かけても良かったのかも知れない。


私は妹をひとりで養わなければというプレッシャーで完璧を求めすぎていたのかも知れない。


そうだ。


もっと自分の気持ちに素直に生きるべきだった。


「ご主人様……目が覚めたよ。私は変にこだわりすぎてた」


目が覚めた。さわやかな気分だ。


「今から私の本音の気持ちを伝えようと思う!」


「は、はいっす……!」


今までは『恥ずかしい』とか『断られたら』とか、いろいろと考えすぎしまっていたのだ。「考えても仕方ないことは考えるな」と炎の柱の人も言っていた。


誰にも未来は分からないのだ。素直な気持ちで、私がいま、一番・・ご主人様に伝えたい気持ちを伝えよう!!


私は、


ご主人様に、



「私と、結婚してください!!」



と言った。



「えええっーーーーーーーーーーーーー!!??」



ご主人様は驚いて大きな声を上げたあと、



「いや、今はムリっす」



と、私を振った。



ふつうに振られたーーーー!!


しかも、即答ーーーー!!!


哀しーーーーい!!!!


本気の本気、大真面目だったのにーーーー!!!泣


とりあえず「もちろん冗談だよ!(テヘペロ)」っとフォローしておいた。危ねー、気まずくなるとこだった。セーフ、セーフ。(言うほどセーフか?)


人はそう簡単には変われないようだ。


あーー、振られちゃったーー。なみだ!


※シカチューブ→探索者シーカーチューブの略

※この小説での『探索者』は→『たんさくしゃ』読みです


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☆★☆(^∇^)ノ♪☆★☆


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[一言] 忠犬ちゃん「『今は』ムリ」って部分に気づけていれば……っ!
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