第11話 脇ノ浦カナデ
――朝――
――晴天女子高等学校 3年3組教室――
ご主人様と買い物に行って一週間が経った。
あれから毎日二人でダンジョンに潜っている。もっぱら第02階層での狩り(稼ぎ)がメインだ。第02階層より先に進まないのは単に行き帰りの移動時間を取れないためである。
第01階層から第02階層まで走って30分。
第02階層から第03階層まで走って1時間。
放課後探索者の私達には、行き帰り往復3時間もの時間を抽出することは不可能なのだ。
ダンジョン探索においてダンジョン内の移動ほどツライ制限はない。階層選択のシステムがデフォで用意されていないため、ダンジョンに入るたびに第01階層からやり直しになるのだ。移動ホントツライ。
もちろんデフォで用意されていないだけで、そういうシステム自体は存在する。
例えば【転移石】。使用すれば自分が行ったことのある階層を選択して瞬時に移動できる。名前はシンプルだが、かなりのレアアイテムである。消費アイテムながら1個4000万円以上する。
他にも、好きな階層へ移動できる【ワープ】のジョブスキルがある。希少職のひとつが覚えるのだが、効果が有用すぎて、使い手は国家ぐるみで保護されている。これは他国がその探索者の身柄を狙ってくるためである。
攫われたり命を狙われたり、優秀すぎるジョブというのも考えものなのだ。
そんなこんなでゴールデンウィークに向けて、私とご主人様は(金稼ぎをかねて)せっせこレベル上げに励んでいる。まあミノタウロス戦以降まったくレベル上がってないけどね。
私は机に向かってこっそりとステータスボードを開く。
―――――ステータス―――――
探索ネーム≫イヌヤマ ツカサ
探索ジョブ≫忠犬
Lv.22 LP ―/―
現在地≫晴天女子高等学校
―――――ジョブスキル―――――
◇主従契約《発動》
主従契約を行う。他者を主人と定める。
主人【星熊ヤクモ】
◆忠義ノ者《常時》
主人の命令を断れない。
主人が死亡した場合、自分も死亡する。
◆忠犬ハ死ナズ《常時》
主人生存中【不死】を得る。
◆主従丿絆《常時》
主人と『絆』するほど全ての補正値が上昇する。
絆がマイナスになるとマイナス補正される。
絆ポイント【1040】
―――――サブスキル―――――
【加速】【蹴力】【投擲】【忍耐】
【逆境】【痛覚耐性】
――――――――――
はふ〜〜♪♪ 『主人【星熊ヤクモ】』の項目を見ると幸せでホワホワした気分になる。私も忠犬が板についてきたなー。
なんなら『主人の命令を断れない』『主人が死亡した場合、自分も死亡する』ってのも、悪くないにゃ〜〜って思い始めている。重症だ。にゃ〜は猫だし。
絆ポイントも『1000』を超えた。
いや、1000超えるんかーい!
増え過ぎである。実際どーいう仕組みなのかコレは。
言っておくが私はとくに何もしていない。
契約した次の日の朝にはもう『300』になっていた。
おそらくだが絆ポイント上昇はご主人様の気持ちに関係あるんだと思う。たぶん。
「おはよ~、ツカサさん」
「おはよー、ワキさん」
今日もおっとりした感じでワキさんが登校してきた。
「あれ? ステータスボード見てるの? 見せて見せて!」
私がこっそり展開していたステータスボードに気づいたようだ。他人のステータスを見たがるのは探索者としてマナー違反だがワキさんは探索者でないので問題ない。
「うん、いいよ。見て見て」
ワキさんにボード見せてあげる。
ステータスボードは表示したい項目を任意に設定できる。迷宮山荘で出会ったオッサンのように名前や所属部分だけを表示して自己証明として使うこともできる。
まあ私は見られて困る情報もないのでワキさんにはフルオープンで見せるけどな。
さあ見なさい、私の情報を!
そしてご主人様の名をその目に焼きつけるのです!
「すごいすごい! すっごくレベル上がってるね〜!」
私のレベルアップを自分のコトのように喜んでくれるワキさん。これぞ友人である。
「それに、本当に契約したんだ…………ツカサさん、大丈夫だった?」
真剣な様子で聞いてくるワキさん。
え? なにが? なんか問題あったか?
「えっと……大丈夫ってなにが?」
「ほら……エッチな命令とかされてないかなって?」
「エッ……!!?」
ええーー!? なに言ってだこの子ーー!?
ストーレートすぎるだろこの女子は!? もっと遠回しに聞いてー!? 「イヤな命令されてない?」とか、「相談したいコトはない?」とか、色々言い方あるやろがーい! エッって! エッって!
「そ、そういうコトはされてないかな……」
私は動揺を隠しつつ、答える。
なぜ動揺を隠さねばならないかは不明だがっ!!
「そっか〜、でも『そう聞かれたらこう答えろ』って命令されてる可能性もあるよね?」
怖っ! ワキさん怖っ!
私のことを考えての発言だろうが怖すぎる。ひゃ~、いい友人を持ったぜ。
「ご主人様はそんな人じゃないから大丈夫だよ。優しいし、私のことを考えてくれてるし、むしろ全然命令してくれなくて拍子抜けしてるくらいだよ」
「拍子抜けって……んん?」
ワキさんがワケが分からないといった表情をしている。まー、ワキさんには分からないだろうね。今のはただの失言ですから!!
「なるほどね~、ツカサさんはついに運命の人を見つけたんだね。おめでとうって言って良いのかな?」
運命の人!? たしかにご主人様との出会いは運命的だったけども! 運命の人に……なるのかな? どうだろう? 正直、ご主人様が私のことをどう思ってるかイマイチよく分からない。友達か仲間かそれ以上の……
うーーーむ…………
「でも心配だなー。ツカサさん、なかなか本音を話してくれないし、自分に対しての周りの反応に鈍感だし、これは星熊さんもかなり苦労しそうだね〜」
本音を話さないのはある。たしかに。
ダンジョンに入り浸って2年……ひたすらソロで活動してきたのだ。『ひとり言』ならぬ『ひとり思考』をずーーーーっと行ってきた。
探索活動は自己責任である。簡単に他人に相談できるものでもない。私は問題を見つけては、ひとりでいろいろと検証し、試行錯誤を繰り返してきた。
報告、連絡、相談のホウレンソウではなく、確認、検証、討議のカクケントウである。なんじゃそら。
こんな感じで私は発言の3倍くらい物事を考えてしまうクセがあるのだ。そしていろいろ考えすぎているうちに、本音がどこかへ行ってしまい、結果的に無難な発言をしてしまうのである。
でも、ふつう人間って頭の中でコレくらい考えてるモノじゃないの? 私だけじゃないと思う。うん。
ワキさんはやっぱり私のことをよく分かってくれている。3年間も私との友人関係を保ったのだ、その優しさは伊達じゃない。
「ワキさん……応援してくれ!」
「お、今日はけっこう素直だね〜」
「つきましてはご主人様の学校での言動と素行を調査して欲しい!」
「え?」
「ほら、探索中って基本的に探索の話しかしないじゃん? 学年も違うし学校の話題ってしづらいんよ。私が他の1年生を捕まえて質問するって露骨でしょ? ワキさんならバレー部のキャプテンだし部員の1年生からいろいろ聞けるよね?」
「めっちゃ喋ったと思ったら、探偵まがいのことを頼まれた!?」
「上手くやってくれたら、ワキさんを私の親友に認定しようと思います」
「すごい! めっちゃ上から目線だ!?」
「ママと呼ばせてくれ!!」
「一気に1親等まで昇格したー!?」
なにも考えずに脊椎反射で喋ってみたけどやっぱり会話がおかしくなってしまう。反省。
その後、ワキさんはご主人様のコトをいろいろと調査してくれた。報告内容は以下である。
・明るくてクラスの人気者
・クマが好き
・頭はかなり良い
・教師受けもバツグン
・狙ってる子も多い
・最近ほぼ犬山先輩のことしか話さない
有益な情報やなー。
とくに最後の一文がサイコーである。
ありがとうエージェント・ワキさん!
私がんばる!
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☆☆☆(^∇^)ノ♪☆☆☆