第10話 キャンプ用品
一気に次の日の放課後である。
私はご主人様とともに曇山にあるダンジョンセンターにやってきた。ダンジョンで使うキャンプ用品を買いに来たのだ。
放課後そのまま来たので二人ともセーラー服である。これはもしかしなくとも【制服デート】というヤツではないだろうか? なんてこった!
ちなみに今日はご主人様の頭には『テニスボールくらいの白いお団子のアクセサリー』が付いている。白餡である。ふよふよ飛んでると目立つので、小さくなってお団子アクセサリーとして擬態しているのだ。
何でもできるねこの子。小さい状態ではスキルを使えないらしいが、ダンジョン内でないので問題ない。
「さすがに晴町に比べてでっかいっすねー。人もめちゃくちゃ多いっす!」
ご主人様が曇山ダンジョンセンターの施設の大きさに感動している。さすがにランクCの晴町と比べちゃいかん。晴町には晴町の良さもあるよ。人が少ないとことかね。
「キャンプ用品はこっちだね。ダンジョン用と一般用、両方売ってるみたい。あとは登山用品も売ってるね」
「お金はいっぱいあるから、なるべく良いのを買うっす!」
昨日も二人で50万近く稼いだ。ご主人様との狩りが楽しくてつい長居してしまったのだ。これでお金が足りないという事はないだろう。たぶん。
――迷宮山荘 曇山店――
曇山ダンジョンセンターに店舗を構える『迷宮山荘』という店に来た。もともと登山用品を主軸に売っていたようだが、昨今のキャンプブームの煽りを受けて販売物の3分の2がキャンプ用品となっている。
「最初はテントを見るっす! もちろんサイズは二人用で良いっすよね!?」
「一人用のテントもあるみたいだけど、さすがにテント2個はいらないかな? アイテムボックスに入れるから、かさ張るってコトもないけど」
さすがに一人用に二人で入るって意味ではないハズ。ハズ! 私達はダンジョン用と表記されているテント売り場を見てみた。
ダンジョン用テント → 最低価格400万。
なーるほど。
どうせだから一般用も見てみようかな。
一般用テント → 最低価格2万。
「ご主人様! 一般用テントを買うよ!!」
「はいっす!!」
ダンジョン価格ヤバすぎだろ!?
ボッタクリにもほどがある!!
「これダンジョン用買う人いるんっすか? ダンジョン用テントひとつで一般用テント200個買えるっすよ? テント200個もいらないっすけども!!」
ご主人様が混乱して変なことを言っている。私達の予算30万までだったからね。仕方ないね。
「上位の探索者は軽く億稼いでるらしいし。売れるからその価格なんだと思う。私達は探索者としてまだまだ駆け出しってことだね」
ダンジョン用と一般用の違いは単純に機能性にある。一般用のテントとは違い、ダンジョン用のテントは色々と不思議な機能がついてるのだ。
この店で一番高い8000万円のテント(現物のみ)は、中に【空間拡大】の効果が付与されており、テント内は3LDKの快適空間になっている。もちろん冷暖房完備、風呂トイレ付きである。
うちのアパートより豪華である。
1DKだぞこっちは。妹と二人暮らしで。
「アホらしいからとっとと一般用のテントを買って帰ろうご主人様。こんな店、2度とこないし」
完全に八つ当たりである。
「でも先輩、他にも焚き火の薪とか、お布団も買う予定っすよ。ご飯を炊くための飯盒も買うっす」
今時わざわざ飯盒炊爨しなくて良くない? パックご飯で良くない? レトルトカレーとパックご飯をいっしょに鍋で温めればキャンプ飯として十分だと思うし。
私がそんな堕落したことを考えていると、変なオッサンから話しかけられた。
「ハッハッハッハ! そんなことでは早死するぞー! ダンジョンを舐めない方が……イイ!」
ハッハッハー、と豪快に笑いながら満面の笑みを浮かべるオッサン。筋肉ムキムキで髭面、パイナップルみたいな髪型をしている。たぶん探索者だ。
「おっさん……なんすか?」
露骨にイヤそうな顔をするご主人様。初めての探索で最悪な経験をしているため、男性の探索者に悪い印象しか持っていないのだ。
私はご主人様を背中に隠すようにして男に話しかける。
「なんですかオジサン。私達忙しいのでナンパは止めてもらって良いですか?」
ナンパやめんかナンパは。女子高生ナンパすな。
え? つまりこれって初めてのナンパなのでは? ついに私もナンパされたの!? てか私の初体験こんなオッサンなの!?
「ハッハッハー! すまん! すまん! ナンパではないぞー! 君達の話が耳に入ってね! アドバイスしてやろうと思っただけだ! 気に触ったなら謝る! すまん!」
ナンパではなかった。
一通り笑ったあと「ちなみに私はこういうものだ!」と言って、オッサンはステータスボードを私達に見せてくれた。
―――――ステータス―――――
探索ネーム≫サイモン ジロウ
探索ジョブ≫戦士
Lv.72 LP 336/2000
現在地≫迷宮山荘 曇山店
所属クラン≫曇天騎士団
――――――――――
「レベル72!? 高っ!!」
どうやらこのオッサンはかなり上位の探索者だったようだ。ダンジョンには【レベルアップ制限】があり、レベル70以上になるには第31階層以上のモンスターを倒さなければならない。
31階層以上で探索できるというコトは、ランクBのダンジョンをクリアできるというコトで、そこまで行ける探索者は全体の0.2%しかいない。
所属している【曇天騎士団】は曇山ダンジョンで活躍しているトップクランである。日本でも10指に入るほどの有名クランだ。ふつうにすごい。
まあどんな存在であろうと女子高生をナンパする気持ち悪いオッサンということに変りはないけどね。
「すごいっす! おっちゃんやるっすねー!」
「そうかい! ハッハッハー!」
オッサンが強者と知ってご主人様が一瞬で打ち解けた。
本当に戦闘関係好きだな、このご主人様は。
ご主人様が打ち解けたので私も打ち解けることにする。
話してみるとそんなに悪いオッサンでもなかった。
…
……
………
「つまり、ダンジョン用と呼ばれているテントには最低でも【硬化】と【警報】と【回復力上昇】の3つの効果が付与されているんだ! 値段を高いと思うかも知れないが、一般用のテントと比べて砦と犬小屋くらい差があるぞ!」
私がこれから寝泊まりする予定の一般用テントに対し、犬小屋とは言い得て妙である。
「あとは野営でオススメなのは【爆音地雷】だな! テントの周りに設置しておけば、モンスターや盗賊に対してかなりの牽制になるぞ! 値段も手頃だ! ちゃんと【維持】と【隠蔽】の効果が付与されているものを買うんだぞ!」
爆音地雷とは単純にすごい音のする地雷である。発動するとトンでもなくデカい音がする。圧力でなく動体センサーで発動するため、空中にも判定があり、踏まなくても発動する。もちろん警報としても使える。
【維持】は『ダンジョン内のモノは1時間で消失する』という制約を8時間に延長する効果である。【隠蔽】はその名の通り隠れて見えなくなる効果だ。
「モンスターに対してだけなら地雷だけでも十分だが、悲しいかなダンジョンには盗賊もいる! 命はひとつ! 安全第一だ! やはり交代で見張りを行った方が最善だろう!」
盗賊とは探索者を狙う探索者のコトである。人を襲うのは当然犯罪だが、ダンジョン内での取り締まりは難しいため、どうしても悪いことをするヤツが現れる。
盗賊対策としては【帰還石】というアイテムが最強である。使用するとダンジョン内からパーティー全員が一瞬で脱出できる。あとは盗賊を通報すれば一件落着である。
盗賊側も帰還石を使わせないように、とにかく闇討ちを狙ってくる。狙撃、不意打ち、寝込みを襲う、探索者にとってダンジョンでの敵はモンスターだけではないのだ。
ちなみに私もご主人様もまだ帰還石は持っていない。1個500万円の消耗アイテムを買う余裕はまだないのだ。もちろん将来的には購入する予定である。
「ありがとうっす! おっちゃん! 地雷買うっす!」
「ハッハッハ! 素直な嬢ちゃんだな! ガンバレよ! 死にさえしなけりゃ探索者には無限の可能性が広がってるからよ!」
そう言って、オッサンは去っていった。
私とご主人様は去りゆくオッサンに、二人で声を合わせてお礼を伝えた。
「「ありがとうございました〜!」っす!」
それを聞いたオッサンは「カーワイイなー! ハッハッハー!」と大声で笑っていた。
悪いオッサンではなかった。曇山で活動するクランに所属してるみたいだし、また会う機会もあるだろう。名前はたしか……サイモン? まあオッサンでいいか。
『犬小屋』とか『死にさえしなけりゃ無限の可能性』とか、ピンポイントで私を突いてくるオッサンだった。
「すごいおっちゃんだったっす! 声が大きかったっすー!」
そこ!? どうやらご主人様にとっては声の大きさが一番気になったらしい。素直で良い。
「それじゃあ、あとは薪と飯盒とお鍋とお布団っすね。全部キャンプ用品として売ってるみたいっす!」
「でも飯盒買ってもご飯の炊き方知らないよ?」
「大丈夫っす! ネットで調べながらやれば、どうとでもなるっす!」
…
……
………
その後、私達は一般用テントと地雷と薪と飯盒とお鍋とお布団を買って帰った。
お布団は一式しか買っていない。
「2セット買わなくても一式を二人でいっしょに使えば大丈夫っす! 白餡のア……アイテムボックスにも限界があるっす!」とご主人様が言ったからだ。
なにが大丈夫なのか一切分からなかったが、
私も『即』賛成した。
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