第09話 晴町ダンジョン
私達が現在探索している、晴町ダンジョンは【Cランク】ダンジョンである。
ダンジョンにはC〜Sまでのランクがあり、それぞれ階層の深さが違う。
Cランク→第10階層
Bランク→第30階層
Aランク→第50階層
Sランク→第99階層
日本では現在のところCランク54個、Bランク13個、Aランク4個、Sランク1個のダンジョンが発見されている。ダンジョンの数を【個】と数えるのは、単純にダンジョンの見た目が石碑になっているからである。
探索者は【ダンジョン石碑】に触れることで、ダンジョン内へ転移することができる。石碑のサイズに対して明らかにダンジョンの空間が広すぎるため『探索者達は異世界にでも飛ばされているのではないか?』と噂されている。
ダンジョン石碑は10年前、世界中に突然出現した。人類はダンジョン石碑の周りを建物で囲み、その建物を【ダンジョンセンター】と名づけた。『世界、ダンジョンの歴史』より抜粋。
日本ではランクの高いダンジョンを囲むダンジョンセンターほど、豪華な造りになっている。
Cランクの晴町ダンジョンセンターは町の体育館ほどの敷地しかないが、Aランクダンジョンを有する隣町の【曇山ダンジョンセンター】は、ショッピングモールほどのデカさがある。駐車場もめちゃ広い。
曇山ダンジョンセンターには買取所はもちろんのこと、武器屋、防具屋、道具屋、素材屋、スキルショップ、ジム&スパ、ブティックなど各種店舗が勢揃いしている。大きなホテルも併設されており、屋上には展望プールまで完備されている。
ちなみに晴町のダンジョンセンターには買取所と謎のハンバーガーショップしかない。
設備が圧倒的に豪華な曇山ダンジョンと電車で一駅しか離れていないため、わざわざ晴町ダンジョンを選ぶ探索者は少ないのである。常に閑散としている。
そんなこんなで、ダンジョン内が混み合うということもなく、いつも平穏、そんな晴町ダンジョンが私は好きである。何より家から近いからね。徒歩3分で着くのは大きいよ。
――午後10時15分――
――晴町ダンジョン 第02階層――
「それじゃあ、当面の目標は晴町ダンジョンの攻略ってことで良いっすか? 第10階層のボスを倒せば『LPポーション』が手に入るんっすよね?」
「そう。どこのダンジョンでも第10階層のボスからはLPポーションが確定でドロップする。ボスを安定して倒せるようになれば、気持ち的にかなり楽になると思うよ」
ダンジョンでは10階層ごとにボス部屋が用意されており、ボスを倒さなければ次の階層に進めないようになっている。
そして、第10階層のボスは確定でLPポーションをひとつ落とすのだ。これはすべてのダンジョンで同じらしい。晴町でも曇山でも第10階層のボスはLPポーションを確定でドロップする。
なんかこういうトコもダンジョンの作為を感じるんだよなー。
・探索者に必須のLPポーションを最初のボスが落とす。
・第01階層〜第10階層までは1日では進みきれない。
・よって必ず途中で野営を挟むことになる。
・ダンジョン攻略に必要な野営の練習してね。
「ミノタウロスを倒せるんだから10階層のボス自体は余裕で倒せると思うよ。問題は道中をどれだけ素早く移動できるかだね。少なくとも1泊はすることになるだろうし、テントとかの準備も必要になるね」
「1泊っすか……!! せ、先輩と二人で……!?」
「そうだけど? 平日はムリだから挑戦は週末になると思うけど……ご主人様なにか心配あるの?」
確かに女子二人での野営は不安かもしれない。
まあ、他の探索者がほとんどいない晴町ダンジョンである、交代で眠りながら見張りをすればモンスターの襲撃が合っても大丈夫なハズだ。
低層なのでそんなに強いモンスターもいないし、不意討ちにさえ気をつければ問題ない。
「え……? いや、心配事はないっすけど……二人で宿泊って……しかもテントって……密着が……ごにょごにょ」
ん? あれ?
一人づつ交代で夜番するつもりだったんだけど?
いっしょにテントを使うコトはないと思うけど?
ご主人様って私といっしょに寝るつもりだったの?
え? え? え?
確かにウチには白餡がいるから夜の見張りを任せられないコトはないと思うけど……
うーむ…………………………………………、(長考)
…………それでいこう。
「夜は白餡に見張らせとけば大丈夫だと思います」
白餡は犠牲になったのだ。
確かに戦力であるご主人様と私がちゃんと休んだ方がダンジョン攻略においてベターかも知れない。やましい心は一切ない。できればご主人様が眠っている間に……自主規制。
白餡はサポーターなんだから夜に寝なくても何とかなるだろう。ゴーストだし夜行性だと思うコトとする。
「テントなどの道具もぜんぶ白餡のアイテムボックスに入れられるし、本当に優秀なサポーターだと思うよ。さすがご主人様の使い魔だね」
探索道具をぜんぶアイテムボックスに収納し、モンスターを索敵、オートマッピングによるナビゲーション、返り血の洗浄、ホームランにもなれる。この働きで給金が一切出ないなんてすごく理不尽に思える。
ちなみにモンスターからドロップした魔石も片っぱしからアイテムボックスに回収してくれている。
よし、今度なんか美味しいケーキでも買ってきてやるとするか。白餡については完。
「あとは移動っすね。たしか探索者の中にはバイクとか車でダンジョン内を移動する人達もいるんすよね?」
「それは第10層のボスをひたすら倒し続ける【周回組】だね。通路の仕組み的にこのダンジョンで乗り物を使うのは難しいと思うよ。曲がり角多いし」
周回組とはダンジョン第10階層のボスをひたすら倒し続けてLPポーションを回収しまくる探索者達のことである。高速で周回することに命を賭け、とにかく手段を選ばず、ダンジョン内を自動車やバイクで爆走し、最効率化された道筋と手順をひたすら繰り返す。ランクCの平原ダンジョンはたいていこの人達に占領されている。
しかし彼らの卸す大量のLPポーションは、探索者の命を確かに繋いでくれているワケであり、自分達の代わりにしんどい周回を延々と繰り返してくれる周回組に対し、探索者は感謝の念を抱いている。周回組は意外と人気があるのだ。解説終わり。
「っす。なら用意するものはテントとお布団と焚き火用の薪、あとは食料っすね」
焚き火っている? めっちゃキャンプする気やん。
あと寝具は寝袋で良くない? なんでお布団なの?
「そこら辺は明日の放課後にでも曇山のダンジョンセンターに買いに行こうよ。あそこなら探索に必要なモノはなんでも揃ってるし」
「わかったっす! 明日の放課後、校門前に集合っす!」
放課後に待ち合わせして買い出しとか、青春感あるね……
妹に「お姉ちゃんも青春しろ!」と叱られた過去を思い出した。私はようやくぼっちだった暗黒期を乗り越え、青春を謳歌し始めたのかも知れない。
これもすべてご主人様のお陰である。好き。
「よーしっす! 最後は出口まで全力ダッシュで走るっすよー! 競争っす! 負けた方はジュースを奢るっす!」
え……?
それってかなりキツくない? 距離けっこうあるよ?
「よーーーい、ドンっす!」
「ええ!? ちょっと待ってー!!」
――ダンジョンを駈ける二人の少女。
その顔は徐々に真剣になる。
第02階層から第01階層にあるダンジョン出口までを、
少女達はわずか20分で走り抜いた。
距離にして約10km。
晴町ダンジョンセンターに戻った時、
二人は滝のように汗を流し、半死半生であった。
大きい方の少女は満面の笑顔で笑い。
小さい方の少女は、
こんな青春なら……いらない…………と言った。
★の応援&ブクマよろしくお願いします!
★★★(^∇^)ノ♪★★☆