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第01話 犬山ツカサ


今日もダンジョンで日銭を稼ぐ――。



私は高校入学と同時に【探索者試験】を受けた。


【探索者】はダンジョンに入ってモンスターを狩り、そのドロップアイテムを持ち帰るのが仕事である。


探索者はとにかく儲かる。

半端なく儲かる。

高校生としては破格の稼ぎになる。


戦闘を行う関係上、つねに死の危険が付きまとうが、それを加味したとしても最高の仕事だと私は思っている。


臭い、汚い、危険の3K仕事?

若い頃にしかできない?

早死する?


それが何か問題ですか?


私にはお金がいるのだ。


私は現在、妹と二人暮らしである。

学費と生活費を二人分稼がなくてはならない。


私は大学に進学する気はないが、妹にはぜひ良い大学に行ってほしい。私なんかよりもはるかに賢く可愛い妹には、絶対に幸せになってもらいたいのだ。


妹は私みたいな底辺女子高生とは違う。


私が町中でゴミを漁るカラスなら、妹は大空を羽ばたく白鳥である。いや、可愛らしさから例えるとシマエナガだろうか? 小さくて美しいとなるとハチドリとか? まあとにかく妹には華があるのだ。可愛いのだ。


私の愛する妹を、イモウト・オブ・ザ・イヤーにするためには、幸せにするためには、とにかく私がマネーを稼がなくてはならないのだ。


塾に行くのもお金がいる。交通費にもお金がいる。参考書も買って、可愛い服も買って、コスメやエステや、ネイルサロン。ジムや習い事、エトセトラエトセトラ。とにかく妹が「お姉ちゃん、コレやりたい! コレ欲しい!」と言ってきた時のために、私はお金を貯めなければならないのだ。


まあ妹がコレ欲しい、あれ欲しい、って言ってきたコトないんですけどー。塾に行かなくても学年1位だし。エステに行かなくてもお肌ピッカピカである。髪もいつもキラキラしている。


万年髪カッサカサのすす汚れてる私とは、なんか存在自体が違うのである。だかそこが良い!


ふつうに考えると私みたいな女子高生が学費や生活費(しかも二人分)を稼ぐのは難しいだろう。バイトしてもたかが知れている。


しかし、探索者なら私みたいなちんちくりんの女子高生でもビッグマネーを稼ぐことができるのだ。


日に2〜3時間探索するだけで月収ん百万円も夢ではない。そう、探索者ならね。


ちょっと平均死亡率が50%を上回ってるけど気にしてはいけない。考えたらそこで探索終了である。


私は高校入学と同時に【探索者試験】を受けた。


そして、私は【合格】した。


……

………


あれからニ年が経った――、


現在、私が主に探索しているのは【晴町はれまちダンジョン】の【第01階層】である。


ダンジョン名には基本的に地名が採用される。晴町にあるダンジョンなので『晴町ダンジョン』である。深い意味はない。


ダンジョン入口の石碑から転移して、まず最初に着くのがこのダンジョン第01階層だ。


晴町ダンジョンは【地下迷路ダンジョン】となっており、周囲を石造りの壁に囲まれた、道幅5mほどの広い迷路空間で構成されている。


罠もなく、出現するモンスターも1種類しかいない、ザ初心者向けのチュートリアルステージ、それがダンジョン第01階層である。


私は二年間探索者を続け、いまだに第01階層にて探索を行っているのだ。


この二年間決してサボっていたワケではない。

何なら毎日ダンジョンには通っていた。


1度だけ第02階層に行ってみたが、敵がヤバすぎたので引き返したのだ(逃げ帰ったとも言う)。ケガを負うわけにはいかない。傷を治す回復薬は高額である。


一番安い錠剤タイプの回復薬でも20万円はする。

大赤字になってしまう。


傷つく痛みは怖くない、ふところが痛むのが怖いのだ。


そんなわけで、私はダンジョン第01階層にて、今日も今日とて1人ちまちまゴブリンを狩っているのである。


角を曲がると通路の先に緑色をした小型の人影を発見する。


ゴブリンだ。


数は3匹。


こちらにはまだ気づいていない。

先制攻撃のチャンスである。


私はゴブリン3匹までなら無傷で討伐できる。


第01階層に出現するゴブリンは1〜5匹の編成で徘徊している。武器を持ってる個体もいる。武器持ち5匹の群れは本当にヤバい。初心者なら軽く死ねる。


私は4匹以上の群れに出くわした場合は即逃げる事にしている。戦っても負けないが、ケガをすると治療費が痛手になってしまうからだ。


ゴブリン達はまだ気づかない。一度呼吸を調える。


私の武器は片手斧。


それを両手に一本づつ持っている。

二丁斧スタイルである。


ダッシュで一気にゴブリン3匹との距離を詰める。


「斧投げっ! から〜の、ダッシュ蹴り! から〜の、トドメっ!!」


ザグッ! ドガッ! ザグッ! ブッシャーー!!


この間8秒。


――完璧。


あとは倒れて痙攣しているゴブリンの脳天にトドメを打ち込んでいくだけだ。返り血を大量に浴びるが雨合羽レインコートを着ているので問題はない。


ドガッ! ドガッ!(処理音)


私のゴブリン≪3匹群れ≫への対応は完全に仕上がっている。


まずゴブリンAに斧を投げる(ヒットorミス)→


ヒット→


ダッシュしてゴブリンBを蹴り飛ばす→


残りのゴブリンCを1対1で素早く殺す→


瀕死のゴブリンAとBにトドメを刺す→コンプリート!


もしも、最初のゴブリンAへの投擲とうてきが外れたとしても、Aを蹴り飛ばした後にBとCを正面から倒すだけである。


ゴブリン相手なら2対1でもノーダメでいける。


3匹までの群れなら、このパターンで完勝できるのだ。

4匹以上の群れは難易度が上がるのでパス。


死んで動かなくなったゴブリンの身体が黒い霧になって消え、それぞれ消えた場所にドングリくらいの光る小石が現れる。


「魔石4個、しめて7200円なり(合掌)」


モンスターの落とす魔石は1個1800円で売却できる。


税金とか諸々を引かれての1800円である。


戦闘時間8秒で7200円ですよ?


やはり探索者は素晴らしい仕事である。


ゴブリンの返り血で血まみれになって目茶苦茶臭い事を除けば、本当に素晴らしい仕事である。


殺したゴブリンの身体や持っていた武器は黒い霧になって消滅してしまうのだが、返り血だけはなぜか消えないのだ。対策として雨合羽を着ているが、ニオイだけはどうしようもない。


まあ、ダンジョンの外に出れば【洗浄】スキル持ちの係員さんが格安で衣服をキレイにしてくれるんだけどね。血まみれで家に帰って妹にドン引きされる事態にもならない。助かります。


「ノルマの20匹は超えたし、今日は帰ろうかな」


現在の時刻19時36分。


普段は20時すぎまでゴブリン狩りをしているが、今日はゴブリンの発見頻度も良く、すでに22匹討伐している。


「魔石22個で39600円って、相変わらずウハすぎる」


放課後17時から2時間半の探索で40000円弱の稼ぎである。もしかしなくても、私ってかなりの高給取りなのではないだろうか。ちなみにこの二年で800万貯めた。このペースで行けば妹の学費は余裕だろう。


「医大でも芸大でも海外留学でも、好きなところに行かせてやれるね。えへへ……」


妹の事を考えて、ついつい気持ち悪いニヤけ方をしてしまった。順調な時ほど油断禁物である。


探索者は新規登録からおよそ1年以内に半数が死ぬ。レベルとスキルという強力な力を手に入れて、気が大きくなって(無理をして)モンスターに殺されるそうだ。


ダンジョンの第02階層、第03階層と、上の階層へ行くほど収入は跳ね上がる。これも探索者が無理をする要因の一つである。なるべく上層へ行って効率良く稼ぎたくなるのは人間のさがだろう。


私も将来的には第01階層より上へ挑戦したいとは思っている。いつになるか分からないけども。


「パーティーさえ組めればなあ……」


他の探索者とパーティーを組めば、戦力的にも安全面的にも強化され、もっと気軽に上層を目指せる。


そもそもダンジョン探索はパーティーで行うのが前提となっている。経験値や収入は人数割で減ってしまうが、それを補って余りあるメリットがあるのだ。


まずダンジョンの罠や地形のギミックは専門のジョブが対応した方が安全である。専門家がパーティーにいるだけで探索はかなり楽になる。さらに奥の階層へ進むにはダンジョン内での宿泊も必要になってくるだろう。一人では見張りもままならない。


上層へ行くほどモンスターとの戦闘も厳しくなるし、ソロでは戦闘中の治療も難しい。少しのケガでも致命傷に変わる。麻痺や毒でも死につながる。


本来ソロ探索なんて狂気の沙汰なのだ。

第01階層は除いては。


私だって好き好んでソロ探索なんてしたくないんだけどね。同時期に探索者になった知人は早々にパーティーを組んで、次は第10階層のボスに挑むぜーとか何とか言っていた。


うらやましい、ねたましい。


帰ってこなかったけど。


どちらにしろ私は他人とパーティーを組めない重大な理由を抱えているのだ。


パーティーとは結局のところ協力関係である。


お互いがお互いを助け合う関係でなくてはならない。


「ステータス」


指を立てて《ステータス》と唱えると、目の前に魔法の板が浮かび上がる。


漫画とかでよく見るアレだ。

半透明の板には、私の探索者情報が表示されている。



―――――ステータス―――――

探索ネーム≫イヌヤマ ツカサ

探索ジョブ≫忠犬

Lv.06 LP ―/―

現在地≫晴町ダンジョン C01/10階層


―――――ジョブスキル―――――

◇主従契約《発動》

 主従契約を行う。他者を主人と定める。

 主人【なし】


◆忠義ノ者《常時》

 主人の命令を断れない。

 主人が死亡した場合、自分も死亡する。


◆忠犬ハ死ナズ《常時》

 主人生存中【不死】を得る。


―――――サブスキル―――――

【加速】【蹴力】【投擲】【忍耐】

――――――――――



探索ジョブ【忠犬】。


コレが誰ともパーティーを組めない理由である。


私はとんでもないクソジョブの持ち主なのだ。


『職に貴賎きせんなし』といわれるが大ウソだ。貴賎は確かにココにある。


ジョブは探索者試験の合格時にランダムで授かるのだが、初めてステータス画面を見た時は戦慄せんりつした。人は混乱を極めると頭がまっ白になるというのは本当だった。貴重な体験であった。


ジョブスキルの項目を見て、さらに戦慄した。


―――――ジョブスキル―――――

◆忠義ノ者《常時》

 主人の命令を断れない。

 主人が死亡した場合、自分も死亡する。

――――――――――


主人の命令を断れないって何なの!?

一緒に死ぬって私の忠誠心高すぎない!?


さすが忠犬!!!


どうやら【忠犬】というジョブは他者を主人と定め、その人物を守りながら戦う探索スタイルのようだ。意味不明である(実際意味は解る)。


現状、私には【主従契約】を使ってご主人様にして良いと思える相手はいない。そもそも他人の命令に絶対服従なんて今の時代ありえない。


もし軽はずみで契約してしまったら、私の人生は完全に終了である。好き放題酷使され主人が死ぬまでボロ雑巾のように使われるのだ。考えるだけでも辛い。


妹となら安心して契約できるけど、妹はまだ中学生なので探索者資格を持っていない。そもそも妹に探索者なんて危険な仕事をさせる気もない。臭い汚い危険の3K仕事は私だけで十分だ。


確かに【忠犬ハ死ナズ】の効果は目茶苦茶強いですよ?

【不死】とか字面だけでヤバいのが分かるよ?


でも絶対服従とか無理なんですよね。


私の人権が死ぬ。


ちなみに探索者としてジョブを得ると、ジョブ毎に色々と身体能力に補正がかかるのだが、忠犬の身体能力補正は目茶苦茶低い。犬なのに。探索者ではない一般人とほとんど変わらない程度に弱い。


さらに、誰とも契約していない私のジョブスキルは『無し』に等しい。それも大きな弱みになっている。


探索者にとって【ジョブスキル】は命である。


技能を磨いたりスキルカードを使えば習得できる【サブスキル】とは違い、ジョブスキルの効果は破格なのだ。


例えば【戦士】というジョブで覚える【大斬り】というジョブスキルは斬撃の威力を10倍に高めてくれるスキルである。サブスキルにも【斬れ味】というスキルがあるが、こちらは斬撃の威力を1.2倍する程度だ。大斬りは発動型スキルで、斬れ味は常時スキルという違いはあるが、数値的にどうしようもない差がある。


もちろんジョブスキルとサブスキルを併用するのが一番強いので、どちらも大事といえば大事ではあるのだが、『サブスキル10個よりもジョブスキル1つの方がはるかに有能』と語られる現在の探索者事情で、ジョブスキルを使えない私はかなりの劣等者なのである。


身体補正もザコ。ジョブスキルも使えない。ザコザコザーコな私は弱すぎて誰ともパーティーを組んでもらえないのだ。


そもそも強いとか弱いとか以前に、パーティー組もうと持ちかけたら「パーティー組むなら代わりに契約してよ」って言ってくるアホばっかりですよ?


何もしない?

信じられるか。


絶対何もしない?

顔がキモいんじゃボケ。


女子高生を何だと思っとるんじゃい。アホー。


私のジョブを広めた【探索者協会】にもちょっとキレている。許さぬ。


この二年間で思ったが、探索者は頭がおかしい人間が多い気がする。命がけでお金を稼ごうなんて考えるのだから、どこかイカれているのだろう。もちろん私の頭は普通だ。すごくまともである。お金を求めるのもかわいい妹のためなのだ。妹サイコーなだけなのだ。


そんなこんなで、当然のように今日も私は一人である。


私は孤独ではない、孤高だ。


一人でもやれるヤツなのだ。


ちょっとジョブはクソだけど、今まで十分やってきた。


「パーティーが組めなくともお金は稼げてるし、問題なし。大丈夫、私はやれる子だ」


すべては妹のために……


すべては妹のために……


私はダンジョンの出口に向かいながら、一人つぶやくのであった。




応援&ブクマよろしくお願いします!


☆☆☆(^∇^)ノ♪☆☆☆

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