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58.マックス・レーディンガー様、ふたたび飛んで火にいる夏の虫



「マックス・レーディンガー、ただ今、戻りました!」


 ここは栄光国の国家戦略室。

 先日の砦での一件で意識不明の重体となっていたマックスはやっとのことで職場復帰を果たした。

 もっとも表向きは辺境のモンスターとの交戦による負傷ということになっており、彼の失態は公には咎められることはなかった。

 しかし、キノコの毒からの回復はなかなかに大変なものであった。

 突発的に笑ってしまいそうになる発作はまだ残っており、それを精神で抑えつけていた。


「よく戻った」


 戦略室の長官を務めるのはミミン・ミドガル・ミドガルドだ。

 彼女も先日の一件で被害を被った一人である。

 星神武装を独断で解禁し、しかも破壊されたため、修理に私財をなげうった。

 つまり、彼女の借金は倍増しているのである。


「ははっ」


 とはいえ、ミミンは相変わらず魅力的だった。

 特注の軍服に身を包んだ彼女は今日も部下たちを魅了する。

 マックスももちろん、その一人で、彼女のもとで働けることに無上の喜びを見出していた。

 先日の戦いは不幸な事故であり、今後は自分の考古学的知識を生かして活躍しようと決意するのだった。

 

「マックス君、君にはマツ・ド・サイエンの捜索を頼むことになった。至急、彼女の実家に向かってくれたまえ」


 しかし、彼を待っていたのは栄光ある職務ではなかった。

 研究職ですらなく、まして、貴族の子弟が行うような仕事でもなかった。

 あの砦にいた少女の捜索と身柄の確保という、平民の兵士にでも任せればいい仕事だった。


「ちょ、長官、これは!? 私はあの砦の謎を!」


「これは命令だ。いいね?」


「ははっ……」


 聞き間違いかと思い尋ねようとするも、ミミンはにっこりと微笑んで念押しをする。

 美しい笑顔ではあるが、その瞳はちっとも笑ってはいない。

 それはつまり、ミミンの言葉が嘘ではないことを示していた。


「マックス、君には期待してるよ。仕事を終えて、きちんとここに戻ってくるのだ」


「は、はいっ!」


 とはいえ、ミミンはできる上司である。

 左遷された部下の心のフォローもばっちりだ。

 マックスは浮き足立って、部屋を出ていくのだった。


「長官、例の魔物の手配は完了しました」


 マックスと入れ替わるようにして、数名の部下がミミンの部屋に入ってくる。

 彼らの表情は真剣そのもの。

 これから敵地に侵入するかのような面構えである。


「そうか。好きに暴れさせてやってくれたまえ。あの砦を完膚なきまでに叩き潰すのだ」


 ミミンは部屋に張り出された地図をぎりっと睨みつける。

 その視線の先には、サラの治める辺境地域があった。

 ミミンは忘れてはいない。

 自分に恥をかかせてくれて、なおかつ、借金を増やしてくれた、あの砦のことを。





「いいか、一刻もあの女を早く見つけ出し、栄光国に戻るぞ!」


 一方、マックス・レーディンガーはマツの実家のある国へと向かう。

 この国は栄光国の強い影響下にあり、栄光国の軍人であれば丁寧に対応してもらえる。


 訪問先は分かっている、マツ・ド・サイエン・ティーヌの実家である魔道具屋だ。

 その国では比較的有名な魔道具屋であり、規模も大きい。

 当然、栄光国との取引もあるので捜索はたやすく進むものだと考えていた。


「マツは勝手に家出しやがりまして、えぇ、家族の縁を切らせてもらいましたわ」


 しかし、彼女の実家は知らないの一点張りだ。

 口が堅いのか、いくら高圧的に接しても口を割ることはなかった。

 もっとも、本当に勘当していて知らないという可能性もある。


「マックス様、気になる情報が得られました」


 マックスの部下がマツの親族について調べると、意外な人物が浮かび上がった。

 それはマツの祖母、ティストの存在である。

 ティストはマツの親代わりをしていたこともあるほど、親密な関係だと分かる。


「このばばあの家に行くぞ、ぷひゃははっ!」


 マックスはにやりと笑う。

 

 そして、彼は糸口を見つけ出す。

 マツの祖母は匿ってはいないと白を切ったものの、ドアを閉めたとたん家の中から悲鳴が上がったのだ。

 それは明らかに老女のものではなかった。


「誰かが中にいるぞ! お前達、確保するぞ!」


 マックスは同行している兵士たちに命令を下す。

 軍人とはいえ、彼は高級貴族家の人間である。

 兵士たちは彼の家の部下であり、手足のように動く人間だった。


「ははっ!」


 部下たちは器具を使って扉の鍵を壊そうとする。

 頑丈な扉であるが、これさえ空いてしまえば後は簡単だ。 

 細腕の少女など容易く捕まえられるだろう。


 ごきっと音がして、ドアの鍵が壊れる。


「よぉし、この私が捕まえてやる! 絶対に許すものか」


 マックスは勢いよくドアを開ける。

 そう、彼はマツに復讐をしなければならなかった。

 こんな閑職に追いやられたのも、無様な醜態をさらしたのも、どれもこれもあの女のせいなのだ。


 しかし、彼を待っていたのは少女の姿ではなかった。

 ドアの向こうからドロドロした液体が飛んできたのだ。


「ぐぉわらぁぁああ!?」


 もろにそれをかぶったマックスは絶叫する。

 口の中に入って来たソレは彼の舌にしびれるような感覚を彼にもたらした。

 ついで口の中がしゅわしゅわと音を立てる。


「マックス様!? ぬぉらっ!?」


 部下数名が慌てて駆け出すも、彼らはその液体に足を滑らせて見事に転ぶ。

 うち一人は完全に失神してしまうのだった。


「にゃははは! 愚か者め! 神罰じゃ!」


 するとどうしたことだろうか。

 ドアの向こうの真っ暗闇から笑い声がするではないか。

 それはまるで挑発するかのような物言いだが、同時になんとも気色の悪い響きだった。

 部下の数人は「ひ、ひぃ」と怯えるような声を出す。

 

「おのれぇええっ! 剣を抜けっ! 殺してやるっ!」


 しかし、マックスは怖じ気づくことなどない。

 彼は口の中のものをべべっと吐き出すと、目をひん剥いて指示を出す。

 

 相手のマツ・ド・サイエン・ティーヌは小柄な少女のはず。

 自分にかなうはずがないのだ。


「お、おう!」


 マックスの部下たちは混乱から立ち直り、気合をいれるかのように大声を出す。

 彼らもやられっぱなしではいられないと腹をくくる。


 もっとも、いくら影響下であるとはいえ、他国民を殺害するのは普通に犯罪である。

 だが、激昂したマックスにそんな言葉は届きそうにもなかった。


「いくぞっ! ライト……はひゃっ!?」


 マックスは暗闇の中に光源魔法を叩き込む。

 相手がいくら暗くしたところで、一発で逆転できるのだ。

 愚か者めが、覚悟しろ、泣いても許さんぞ。


 そんなことを考えながらほくそ笑むマックスだったが、彼の表情はすぐに青ざめる。

 目の前からモップが飛んできたのだ。


「な、なんだぁああああ!?」


「ひ、ちょっ」


 こちらが攻撃を仕掛ける番だと思っていた矢先の出来事である。

 完全に虚を突かれたマックス及びその部下たちは次々にモップの襲撃を受ける。

 あるものは顔面をうち抜かれて昏倒し、あるものは大事な場所に当たって悶絶する。


「こんなところでやられるかぁあああっ!」


 しかし、マックスだけは違った。

 彼は飛んできたモップをどうにか回避し、そのまま扉の中へと侵入する。

 マツへの怒りと執念が紙一重での回避を可能にさせたのだった。

 

 ここにマックスVS謎の家の第二幕が始まる。

 マックス、頑張れっ!


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