55.メイド男爵、新たなる人材をリクルートするよっ!
「サラ・クマサーン男爵様、お届けものでーす!」
悪徳商人のごたごたも片付いたので、砦に戻った私たちである。
砦ちゃんを再び地中から出して、さぁて宿屋を頑張っちゃうぞと気合を入れ直した時のことだ。
大きな荷物を積んだ荷馬車が砦にやってきた。
通常、荷馬車と言うものは馬が一頭か二頭ぐらいだが、今回のはそもそも馬じゃない。
でっかい牛みたいなのが運んでいるようだ。
私宛の荷物というが、はて、こんなもの買った覚えはないよ。
「おぉおおおおっ! ついに来ましたねっ! メイド男爵、ついに、ついに待ち望んでいたものが来ましたよっ!」
嬉しそうに駆け込んでくるのはマツである。
ここで私は合点がいく。
そう、これってマツが購入したとか言う、まどうナントカっていう機械である。
1千万ゴールドの大金を費やして買ったと聞いた時には詐欺にやられたと思っていたが、一応、ちゃんとしたところだったらしい。
とはいえ、私は全然待ち望んではいなかったのだけど。
「男爵様、素晴らしいものをお求めになられましたなぁ。こいつはすげぇですぞ」
「最新魔導技術を大胆にアレンジした優れもんですわ。ちょっと暴れ馬な部分がありますが」
運び人のおじさんたちは荷解きをしながら、がっはがっはと笑う。
目の前に現れるのは、機械の山。
何が何だかわかんないが、全部、魔導機関とやららしい。
「……あのぉ、マツさん、これって何のために使うの?」
おびただしい機械の山を見ながら、私はマツに恐る恐る尋ねる。
彼女はこれを何のために購入したのか。
購入してどんな良いことがあるのか。
お願いだから、「そこに魔導機械があったから」みたいな答えじゃありませんように!
するとマツは軽く息を吐いてから、こう答えた。
「嫌ですねぇ、男爵。良い魔導機械があったら買っちゃう、人生ってそんなもんじゃないですか!」
「そんなもんじゃねぇわぁあああ!」
「何するんですか!? 痛い、いひゃいっ!?」
マツのふざけ過ぎた言葉に思わずほっぺたをつねってしまう私である。
この女、領地のお金を何だと思ってるのよ!?
そもそも、この機械を導入して何が起こるって言うわけ!?
「あ、それ聞いちゃいます?」
私の猛抗議を前にしても、マツの態度は変わらない。
話したくてうずうずしているといった雰囲気がこれまたウザイ所ではある。
マツは良い子なんだけど、癖が強いんだよなぁ。
「この魔導機関を入れると冷暖房設備がついて寒い冬も暑い夏もへっちゃらになります! 次に砦の防御力もアップします! そして、そして、砦が自由に動くようになります! 歩けますよっ、たぶん!」
「あ、歩く!?」
冷暖房設備がくっつくのはいい。
防御力が上がるって言うのもウェルカムだ。
だけど、最後の歩くって言うのがわけがわからない。
いったい何のために砦を歩かせなきゃいけないのか。
「なぁに言ってるんですか! せっかくの超古代要塞ですよ!? 歩かなきゃ意味ないじゃないですかっ! さぁ、やるぞ、きゃっほぉおおおお!」
マツは奇声をあげて仕分けをしているおじさんたちの間に入っていく。
ダメだ、アレに何を言っても聞いてもらえる気がしない。
「たはハー、完全にいっちゃってますネェー。ポイナも引きまスヨ」
ポイナは私の隣で苦笑する。
いや、あんたも似た部類なんだけどねとも言えず、私は沸き上がる無力感を噛みしめるのだった。
いったい、全体、どんなことが起こるんだろうか。
「でもでも、見てくださイ。マツのやツ、すごくいい顔してますヨ? きっといい仕事、してくれるに違いないでス」
ふぅむ、確かにいい笑顔である。
きらっきらである。
だけど、果たして何ができるのか、そもそも、あの摩訶不思議な砦に本当に取り入れられるのか、私の頭の中は疑問でいっぱいなのだった。
◇
「メイド男爵、結論が出ましたっ!」
魔導機械が届いた次の日のこと、マツは真剣な顔をして私を叩き起こす。
朝焼けの太陽が目に染みる。
ふぁああ、もっと眠っていたいのに。
「今のままじゃ無理ですっ! このままではガラクタですっ!」
「は?」
ぼーっとしていた頭はまだ働かない。
マツがとんでもないことを言ったような気がするのは確かだけど。
「いやぁ、私一人でも組めるかなって思ってたんですが意外と難しくてですね、しかもあれって出どころの分からない機械なんでちょいちょい配線がおかしくて、えへへ、いいものであることは確かなんですが、そもそも重いし」
マツは早口で何事かをまくし立てる。
徐々に覚醒し始める私の頭脳。
「え、えーと、一千万が無駄になるってこと?」
「そうです、簡単に言えば!」
マツの言いたいことの半分も分からなかったけれど、結論は正しかったようだ。
すなわち、このままではせっかくの投資が無駄になるってことである。
私たちがドラゴンを狩って手に入れた1千万ゴールドが!
「どうすんのよ!? 返品交換不可って言ってたよね!?」
「大丈夫です! 手伝ってくれる人が万事解決ですからっ!」
焦りで嫌な汗をかく私とは異なり、マツはまだ落ち着いていた。
彼女いわく、組み立て作業を手伝ってくれる人がいれば問題ないとのこと。
とはいえ、私にはそんな知り合いはいない。
魔導機械とやらはそもそもトルカ王国にはほとんど導入されていない。
魔導文明の進んだ栄光国あたりなら詳しい人もいるかもしれないけど。
「そこで私の実家にお願いしてみます! こう見えて、私の実家、ちょっとは有名な魔道具屋なんです!」
「実家に……」
ここでマツが出した提案はなかなか現実的なものだった。
彼女の実家に戻って手伝ってくれる人を連れてくるというものだ。
なかなかどうしてグッドアイデアである。
そもそも、こんな機械を床に置いていたら宿屋どころではないわけで。
「そんなわけで、私、ひとっ走り行ってきます!」
「ちょおっと待った!」
荷物を背負って駆け出しそうになるマツを慌てて引き留める。
嫌な予感がするのだ。
この女を一人で爆走させるのは得策じゃない気がする。
「わ、私も行くよ! えーと、マツには世話になってるし、ご実家の人たちにも挨拶をしたいって思ってるし」
「そ、そうですか!? それはそれで嬉しいですけどっ! えへへ、メイド男爵もそんなに感謝してるなら言ってくれればいいのに。ツンデレさんですねぇ!」
マツはえへえへ言いながら私をばしばし叩いてくる。
照れているらしい。
「べ、別にあんたのためじゃないからねっ!? あんたが無用なトラブルを起こさないか、心配なだけだしっ!」
マツを調子に乗せるのは本意ではないので、私は敢えて本当のことを言う。
そう、私は心配なのだ。
この女が実家を爆破したりとか、そういう犯罪行為を行わないかを。
「もぉ、完全にベッタベタじゃないですかぁ!」
マツはなおもバシバシ私を叩く。
この女、私の心配を全くわかってないらしい。
「メイメイも行きますよっ!」
「私もお供しまス! 癒しの神の使徒としテ!」
メイメイもポイナも私たちに同行するという。
まぁ、この二人をほったらかしにするつもりはなかったので、どのみち連れて行こうとは思っていたけどね。
それじゃあ、出発!
マツのご実家に行ってみよう!
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