51.メイドのもとに手紙が届く! 喜んだのもつかの間、ぺろりをする!
「お師匠様、お手紙が届きました!」
砦ちゃんに宿屋の看板を取り付けた直後のことである。
ポイナの護衛として外に出ていたメイメイが声を張り上げる。
見やれば彼女の手には手紙が握られていた。
手紙の差出人はウィンドル商会。
どこかで聞いたことのあるような気もする商会である。
「あぁ、あの入り口で追い払われたところですよ! 大きい商館の!」
マツは記憶力がいいらしく、ウィンドル商会が何であったかをすぐに思い出した。
確か、私たちのことを貧乏男爵とか言って追い返してくれた人たちだっけ。
あぁ、思い出しただけでも腹が立つ。
そんな連中が私に何の用だろうか?
溜息を吐きながら読み進めていくと、そこにはこんなことが書かれていた。
『先日は部下が失礼した。我が商会は男爵様の才覚とその領地の将来性を最大限評価している。お詫びに無担保で男爵様の領地に投資がしたい。手始めに1000万ゴールドほど用意しているが、関心はあるだろうか?』
「ほ、本当に……!?」
手紙を持った手が震えるのが分かる。
まさに青天の霹靂。
思わぬところから救いの手が伸びてきたのだ。
くふふ、なるほどなるほど、あの時の対応を悔やんでいるというわけね。
私だってプライドはあるけれど、領地経営が最優先だ。
ここはあちらの顔を立ててあげようかしら。
「これ……千載一遇のチャンスですよっ! 一千万あればアレが買えます!」
手紙を受け取ったマツも大喜びだ。
もっとも彼女に予算は触らせないつもりだけど。
「話が早すぎるっ! すっごい優秀なんだけどっ!」
私は手紙に契約書が同封されていることに気づく。
こちらにサインを入れれば、投資の準備をしてくれるというものらしい。
文面を読む限り、無担保というのは本当の話らしく、商会の長であるマニース・ウィンドルの署名はすでにしてあった。
早い話がこちらにサインするだけで、私たちの手元に一千万入るのである。
やばいよね、これ。
こんなのサインするほかないじゃん!
豪華なソファセットが買えるし、窓の鉄格子も魔法ガラスに変えられるっ!
私とマツは手を叩いて盛り上がり、メイメイはぴょんぴょん飛び跳ねるのだった
「くんくん……、ぬぬヌ、そのお手紙、いいにおいがしますネェ? ちょっト、触らせてくださイ!」
しかし、ここで不可解なムーブをする女が一人。
それはご存じ、我らが領地の新入り、ポイナである。
彼女はニタニタしながら近づいてきて、私たちの周囲を嗅ぎまわり始める。
「ひぃいい、毒なんか持ってないよ!?」
「いいエ! これはまさしク、お毒様の香りでス! 私の鼻はごまかせませンッ!」
くんすかくんすか鼻を鳴らしながら、部屋中を嗅ぎまわる。
顔はいいのに、まるで犬みたいなやつである。
それにしても、毒に敬語をつける人間を初めて見た。
「こ、これでス! これ、危険物デス! 有毒物質!」
そして、やつが手に取ったのは先ほどの契約書だった。
書類に鼻を近づけて、くんすかくんすかうるさい。
「ひぃいいい、ダメだよ! ポイナ! それはすっごく大事なものなんだからっ!」
契約書とは信用の証である。
それを粗末に扱うことは許されない。
私はポイナから契約書を奪い取る。
「男爵様、これは明らかに毒ですっ! 普通のインクは植物から出来たインクを使うのですが、ほら、ここの部分とか……こ、これは、青酸カリスマ毒!」
やつはそれでも飽き足らず、あろうことか契約書の一部をぺろりと舐めた。
はしたなさすぎる!
「あれ? 男爵、変色してますよ、そこ」
ここで怪訝そうな声をあげるのはマツだった。
彼女はポイナがなめたところを指さしているのだが、確かにこれまであった文字が掻き消えていた。
いや、それだけではない。
新たに文字が浮かび上がってきたのだ。
「な、な、ナニコレ!?」
「くふふ、私の唾液は弱い毒なら分解しますからネッ!」
ポイナは胸を張って、ふふんと鼻を鳴らす。
相変わらずの奇人変人ぶりだけど、問題はそこじゃない。
「これって……契約書の文章を差し替える奴なんじゃないですか!?」
マツは私と同じ事に気づいたようだ。
そう、あの無担保投資の契約書の内容は簡単に書き換えられてしまうものだったのだ。
「ポイナ、他にも毒のある所を確かめてくれる?」
「わっかりましたぁアア! ガザシーちゃんやっておしまイ!」
私がポイナの前に契約書を差し出すと、彼女のスライムは契約書をにゅるりと包み込む。
数秒後、うぃいいいんっとまるで魔導機械みたいな音を立てて、紙が排出されるのだった。
「こ、これは……!!」
「ひぇえええ、商会と契約するだけで一括で1億ゴールド!? 支払えない場合には領地を渡して、領民ともども、一生、ただ働き!?」
とんでもない内容だった。
不当な借金を抱えさせて、奴隷契約を結ばせようという極悪な契約書だったのである。
「あんのくそ商人、私をだまそうとしてたってこと!? 許せないんだけど!」
あんまりにも頭に来た私はどすどすと地団太を踏む。
品のないことだけどしょうがない。
善良な私たちを騙してお金や領地を巻き上げようなんて、許されるはずがない。
「なんだかよくわかんないけど、お師匠様の敵は私の敵! さっそく忍び込んで奴のタマをとってきますっ!」
私の怒りに感化されたのかメイメイも負けず劣らず拳を握りしめる。
その意気込みに感心して、「おぅ、行って来い。後始末はやっちゃるけぇのぉ」と言い出しそうになるが、はっと我に返る。
いくらなんでも暗殺なんかさせちゃダメである。
そもそもメイメイにはまともなメイド道を歩ませると約束したのだ。
アサシンなんかに育てるつもりはない。
「物理的に懲らしめるのはおいといて、このまま放置しとくのも癪ですね。私だって許せませんよ! 砦を奪おうなんて!」
怒っているのはマツも同じだ。
私たちはこの砦をモンスターの群れや強盗団から守ってきたのだ。
それを騙し取ろうなんて虫が良すぎる話である。
「ふぅむ、どうしたもんかねぇ? 相手が死なない範囲で仕返しでもしてやりたいもんだけど」
メイメイにボコらせる案は選ばないにしても、放置することはできない。
そもそも、私みたいな弱小貴族にふざけたことをしでかす商会である。
他にも被害者がいるに違いない。
契約書の内容を後から書き換えるなんて、普通に犯罪だと思うけど、役所につきだしたところでもみ消される可能性も大きい。
なんせ、相手は王都で一番大きい商会なのだ。
「わかりましたっ! こんな卑怯な噓つき野郎は性根がねじ曲がっているに違いありませんっ! 一度、殴ってますっぐにすべきです!」
メイメイは暴力以外の解決策を知らないらしく、ぴょんぴょん飛び跳ねながらバイオレンス宣言をする。
いや、それじゃダメなんだよ。
確かに打ちどころがよければ正直者になれるかもしれないけど、高確率で死ぬ。
「ん? 正直者になる……? これだよっ!」
しかし、である。
メイメイの言葉がきっかけで私の頭に素晴らしいアイデアが浮かんだ。
それは騙してくれた商人を正直ものにしちゃうことである。
どうやったら正直ものにできるのか、それが問題ではあるけれど。
「なぁるほど! 自白剤ってやつですね! ポイナなら作れるかもしれません!」
マツがぽんと手を叩いて、それっぽいものが世界にはあることを教えてくれる。
彼女が言うに、尋問のときなどに使う薬らしい。
まぁ、詳しい話は私にはわかんないけど。
「なんだか分かりませんガ、私、作りたいでスッ! ガザシーちゃん、頑張るデス!」
ここに私たちの悪徳商人お仕置き大作戦が始まったのだった。
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