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【完結】トリデンメイデン! ~砦に置き去りにされたメイド、超古代兵器を手に入れる~  作者: 海野アロイ
第6章 メイド男爵、順調に復讐を進めていく(偶然か、必然か)
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49.メイド男爵、商人とのコネクションを作るよっ! & ジュピター・ロンドの逆襲




「やっぱりうちの領地には商人が必要だって思うわけよ!」


 酒場での臨時バイトが終わって、私は会議を始めていた。

 議題はどんな人材が領地に必要かって言うことについて、である。


「商人ですか? それよりも職人を呼んで、どんどん砦を改築しましょうよっ!」


 マツは私の提案に渋い顔をする。

 彼女はどうしても砦を改造する方向に話をもっていきがちである。


 確かにモンスターも多いし、砦を頑丈にするのは大賛成である。

 砦が攻撃されたら私も痛いってことを知って以来、それはなおさらだ。


 しかし、しかし。


「もっともっとバイトをして、砦にクソでか武器をくっつけましょうよっ! お金は使うためにあるんですからっ!」


 マツの提案から見ても分かる通り、この子には貯蓄という考え方がないらしい。

 お金が手に入ったら全部、それを魔道具とかそういうのにぶち込むタイプ。

 早い話が、金銭感覚がヤバいのである。


「そんなことより、早く砦に行きましょウ。毒キノコ楽しみデス!」


「メイメイは王都でもっと悪者を張り倒したいですよっ!」


 ポイナとメイメイは自分の欲望のことしか考えてない。

 金銭感覚という概念すらなさそうだ。


「とにかく、王都にある商会を片っ端からあたって、うちの領地に来てくれそうな人を探すの!」


 とはいえ、領主の命令は絶対なのである。

 私たちは王都中を巡って、商会に声をかけるのだった。

 月に一回でもいいから定期的に来てくれる商人を探すために。

 できたら常駐してくれる人がいたら最高なんだけどね。

 ちなみにメイメイとポイナは宿屋でお手伝いを続行してもらっている。

 あの二人を制御しながら仕事するなんてほとんど不可能だから。


「上手くいったじゃん!」


 数時間後、私は笑みを浮かべていた。

 手ごたえがありまくりなのである。

 宿屋でメイド酒場をやったのが効を奏したのか、私たちのことは知れ渡っており、商人たちに快い返事をもらえたのだ。

 私たちの辺境に月に一回来てくれるだけでも、かなり助かる。


「……案外、上手くいきましたね」


 マツは意外そうな声をあげるが、これぞ人徳ってものだろうか。

 私はふふんと鼻息を鳴らすのだった。

 よぉし、これで領地に戻れるよ。

 ますます発展していくのを想像して、私は嬉しくなるのだった。



「申し訳ございませんが、昨日の話はなかったということで」


 話が変わったのはその次の日の、ちょうど領地に出発するタイミングでのことだった。

 昨日、快い返事をしてくれた商人たちがこぞって断りの連絡を入れてきたのだ。


「ひぇえええ!? なんで!? どうしてなんですか!?」


 いきなり鼻っ柱を折られた気分だ。

 昨日、あれだけ自慢していたのに、すっごく恥ずかしい。

 私は泣きつくように理由を尋ねる。


「すまんな、あんたたちに関わると、こっちにも危険が及ぶんでな」



 すると、商人のおじさんはそれだけ言って帰っていく。


「私たちに関わると危険ってどういうこと!?」


 身に覚えのないことを言われて大変ショックである。

 そりゃあ、マツは知っての通り頭のおかしい魔道具女だし、メイメイは隙あれば人を殴ろうとするし、ポイナはもはや説明不要で人畜有害だ。


 あわわわわ、心当たりがありすぎる。

 ひょっとして、あの子たちが何かしたってこと!?

 いや、ポイナはともかくとして私はマツとメイメイをきっちり見張っていたのだ。

 悪いことなどしてるはずもない。


 パパ上はいつも言っていた。

 領民は領主の鏡だって。

 領民の行いに領主の思いが反映されるのだって。


 領民を信じなくて何が領主だ。

 たぶん、きっと商人の人たちも偶然、忙しくなったに違いない。


「よぉし、とにかく領地に戻るよっ! 商人の件は何とかするから大丈夫!」


 私は不思議そうな顔をしている三人を前に精いっぱいの虚勢を張る。

 悪いことをしていないのなら胸を張ればいいのだ。

 それに悪いことだけが起こるわけじゃない。

 そう自分に言い聞かせながら。





◇ ロンド伯爵、ドラゴンちゃんが無残な姿で発見されてしまう

 


「伯爵様……、ドラゴン二体の皮が持ち込まれましたっ!」


 話は数日さかのぼる。

ここは王都にあるジュピター・ロンド伯爵の館。

 彼女のもとに部下が叫びながら駆け込んできた。

 それは信じがたい知らせだった。


「な、なんですってぇええええ!?」


 館の主である、ジュピター・ロンド伯爵は声を荒げる。

 その目は大きく見開かれており、怒りの感情がにじみ出ていた。

 そのドラゴンは彼女にとって政権奪取のための虎の子であるだけではなく、自身の権威を最大限に満足させるものだった。

 それを失ったと知った彼女は弔い合戦を行うとしたが、途中で穴に落ちて命からがら帰国したのであった。


「持ち込んだのは例のメイドだそうですっ!」


 部下は彼女の表情に一瞬だけひるんだが、続報を伝える。

 ドラゴンの皮を持ち込んだ人物は、ドラゴンの牙を持ち込んだ人物と同じだった。

 それは北にある砦を偶然手に入れたメイドである。

 ジュピターはぎりぎりと歯噛みをするのだった。


「メイド、メイドって、いったい、どこの誰のメイドなのよっ!? 後援している貴族ごとぶっ潰してやるわっ!」

 

 ジュピターは怒り心頭である。

 彼女はそのメイドがドラゴンを狩ったとはみじんも思っていなかった。

 おそらくは有力貴族がメイドを隠れ蓑に暗躍しているのだ。

 あの砦の存在に気付いて奪取したのか、それとも偶然か。

 なんであれ、ジュピターはその貴族を許さないと心に決めた。

 自分に恥をかかせた人間を彼女は決して許さない。



「そ、それが、その……、メイドの名前はサラ・クマサーン。あのクマサーン伯爵家の娘だそうです。女王陛下からもひどく気に入られており、メイド男爵の称号をも授かったとか……」


「は? い、生き残りがいたですって!?」


 ジュピターは耳を疑ってしまう。

 彼女とその父親が謀略によって没落させた伯爵家の娘が貴族位に返り咲いたというからだ。

 しかも、その爵位は女王にさえ認められているという。

 これでは王兄に働きかけて圧力をかけてもらうことさえ叶わない。


 いや、それどころではない。

 もしかすると、メイドはロンド伯爵家の陰謀に気付いている可能性もある。

 ことを起こす前にそれがバレてしまったら、これまでの計画は水の泡になってしまう。

 場合によってはこちらが貴族位を廃位させられる可能性すら出てきた。

 ジュピターは背中にぞくぞくと悪寒を感じる。


「一刻も早く、そのメイドをぶっ潰さなきゃいけないわね……。でも、武力で抑えることはできないし……」


 ジュピターはそれでも冷静だった。

 彼女は部下の報告から、メイドが女王に気に入られていることを把握していた。

 そんな相手に喧嘩を吹っ掛けることはできないのだ。

 武力でだめなら、違う方向から圧力をかける以外にない。

 ジュピターは頭の中で様々な策略を組み立てるのだった。


「ちなみにそのメイド男爵は領地に商人を迎えたいのか、王都中の商会をめぐっているようです!」


「それよっ! よくやったわっ!」


 ジュピターの部下はそれなりに優秀である。

 しっかりと彼女の知りたい情報を把握していた。

ジュピターはすぐさま次の手に打って出るのだった。



「ほうほう、それはただ事ではありませんねぇ。しかも、相手があのクマサーンとは、ぐふふ」


 ジュピターが急いで呼び出したのは、ウィンドル商会のトップ、ノートリアス・ウィンドルだった。

 巧みかつ強引な手腕で一代で大商会を築いた男である。

 彼はジュピターから話の経緯を聞き、驚きに顔を歪めるのだった。


「そうよ、あんたにも関係の深い、クマサーン伯爵家の生き残りよ。今は辺境の貧しい男爵家らしいけど」


「それはそれは、つぶしがいがありそうな相手ですなぁ。ぐふふふ」


 ノートリアスは笑顔を崩さない。

 彼にとって辺境の小さな貴族をつぶすことなど造作もないことだというような表情だ。

 事実、彼は様々な策略を持って貴族すらも震え上がらせてきた。

 いや、それだけではない。

 過去にはロンド伯爵とともにあのクマサーン伯爵家の没落にさえ関わった人物なのである。


「何笑ってるのよ? あんた、分かってんの? 緊急事態なのよ!」


 ジュピターは本心を出さず、にへらにへらと笑うノートリアスにいらだちを隠せない。

 彼女は自分に不運が起きたら、周りに当たり散らさなければ気が済まない女なのである。


「わ、わかっておりますとも! 伯爵さま、私めにお任せください!」


 ノートリアスはやっと笑っている場合ではないと気づいて、真剣な表情になる。

 もっとも、内心では「うるさいわ、この小娘が」などと毒づいているのだが。


「じゃあ、あんたに任せるわ。身分不相応なメイドに現実を教えてあげて」


「もちろんですとも。まずは王都の商会に圧力をかけて、取引をさせないようにいたします。それからは……」


 ノートリアスはぐふぐふ笑いながら、自分の策略をジュピターに伝える。

 それは善意でコーティングされた悪辣な罠と言えるものだった。

 ジュピターは満足してノートリアスに仕事を始めるように伝えるのだった。



「お、おい、ウィンドル商会がメイド男爵と取引しないように圧力をかけてきたぞ!」


「うちもだ。辺境で頑張ってるから応援してやりたかったが、ウィンドル商会ににらまれたらどうしようもないな」


「しょうがない、断っておこう」


 ウィンドル商会は王都にいる商人たちに露骨な圧力をかけた。

メイド男爵に同情する者はいたが、相手は王都の商売を牛耳ると言われている大商会である。

彼らはメイド男爵のもとに断りの連絡を入れるのだった。




◇ 女王陛下の苦悩は続く



「女王陛下、最近、商会の腐敗が酷いものになっているとのことです!」


 トルカ王国の女王、シュトレインは溜息をついていた。

 王位についてというもの、毎日のように問題が降ってくるからだ。


 先日は横暴を繰り返す王兄を辺境に追放したのだが、それは問題の一端にしか過ぎなかった。

 最近問題になっているのは、王都を拠点にしている商会の腐敗ぶりだった。

 正直な商売をしているものに圧力をかけ、賄賂が横行しているという。

 しかも、どこかの貴族が裏についているらしく、なかなか尻尾を見せない。


「まったく、この国はどうなってしまうのかしら……。とにかく、市民の生活を守るように、商業ギルドに通達を出しなさい」


 女王は溜息をつきながらも、一応の対策をとることにした。

 しかしそれはあくまでも付け焼き刃の対策である。

 それでもできることを一歩ずつ行わなければならない。

 それが彼女の目指す治世なのだから。

 

「そう言えば、メイド男爵は元気にしてるかしら?」


 書類に目を通しながら女王はふと先日のメイドながらに男爵になった娘を思い出す。

 何もかもが型破りの少女である。

 商会の腐敗を目にしたら、どんな行動に出るのだろうかと想像してしまう。


 もっとも、女王は知らなかった。

 メイド男爵ことサラ・クマサーンこそがその渦中にいることなど。

 


【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】


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