20.メイド男爵、アレを使ってドラゴンを駆除できるかな?
「あんたに人の心はないのかぁああっ!?」
砦を焦がしてくれたドラゴンをにらみつける私である。
もっとも、相手はドラゴン。
人間の常識なんか通用しないに決まってるけど。
「マツ、私、怒ったよ!」
あのドラゴン、タダで帰すわけにはいかない。
私の砦を焦がしてくれた報いを、花壇を焼いてくれた代償を払ってもらわなければ!
私はキッチンにだだだっと走り、必要なものを見繕い、再び屋上にダッシュする。
「あいつに飛び切りのごちそうを食べさせてやんよっ!」
「ええええ!? 今、お料理なんかしてる場合じゃないですよっ!?」
「いいから、いいから!」
私はまな板の上に材料を並べ、メイドスキルを活かして調理を始める。
とはいえ、やることは簡単。
魔獣の肉に切れ目を入れ、あれをしこたま挟みこむだけである。
調理時間、わずかに数秒。
よぉっし、完成!
私は叫ぶのだ。
「マツ、あんたのスリングショットでこれを飛ばすよ! あいつの口に!」
そう、私の狙いはドラゴンに特別メニューをご馳走しようというもの。
ふふふ、覚悟するがいいさ、迷惑ドラゴン。
「わ、分かりましたっ! さっきの要領で肉を支えておいてください!」
マツは先ほどのぐいんと伸びる紐をセッティングする。
私はというと、例のお肉を中央に置いて身構える。
「ぐぅむ、まだまだ引っ張りが足りません。皆さんも手伝ってください!」
「おうよ!」
「任せてください!」
紐の伸びがまだ甘いと思ったのか、マツは村人の皆さんに加勢を要求。
村人たちはこぞって私の体を引っ張ってくれる。
えぇええ、ちょっと待って!?
伸ばし過ぎじゃない!?
紐がみちみち言い始めてるんだけど。
「よぉし、さん、にぃ、いぃち、はいっ!」
「でぇえええええええ!?」
そして、放たれるのはドラゴンのための特別料理。
しかし、それだけじゃない。
なんと私の体も一緒に持っていかれてしまったのだ。
だって手を放すタイミングが分からなかったんだもの。
私の体重ごと飛ばすなんて、あんたたち、どんだけ伸ばしてるのよ。
「あぎゃああああ!?」
とんでもない勢いで砦の外に投げ出される私。
目の前に現れるのはドラゴンの大きな口である。
あわわ、このまま食べられちゃうじゃんっ!?
こんな時に思い出すのはメイドの訓練である。
『メイドたるもの、決して転んではいけません! 必ず優雅に着地しなさい』
教官はいつもそう言っていた。
私はあの鬼訓練を思い出し、足元にメイド魔法「落ち葉掃除風」を発動。
進行方向に向かって逆噴射する形となり、勢いを殺した私はなんとか着地に成功する。
「ぬおりゃああああ! これでも喰らいなさいっ!! メイドの土産だよっ!」
そんでもって、お肉をひょいっと放り投げる。
狙うは今にも炎が溢れ出しそうな、大きな口である。
「ごふっ……ぐふっ……!?」
奴は私のお肉をごくりと飲み込む。
さぁどうだと思ったが、反応はない。
いや、むしろ、である。
私に狙いを定めて噛みつかんばかりに大きな口をあんぐりと開ける。
や、やばいよこれ!?
あわわ、メイドの土産なんて寒いことを言ってる場合じゃなかった。
「ひぇええ、お助けを……」
目の前のドラゴンは高さが五メートルはあろうかという巨大なモンスター。
はっきり言って怖い。
さっきまではむやみに興奮していたので、恐怖を感じなかったのだ。
あぁ、天国のお父様、お母様、お家を再興できなくてごめんなさいっ!
懺悔とともに、目を閉じる私。
願わくば、もうちょっとだけ砦の謎を解いてみたかったし、お父さん以上の領主になりたかった!
「男爵! 前、前っ! 前を見てくださいっ!」
「あれ?」
身を縮こまらせて、噛まれるのを今か今かと待ち構えていたのだが何も起こらない。
逆に聞こえてきたのは、マツの上ずった声だった。
私は恐る恐る目を開ける。
すると、そこには赤い斑点模様のドラゴンが横たわっていた。
奴は口からは盛大に泡を吹いて、絶命しているようだ。
こ、これって……作戦成功ってこと!?
私の思惑通り、このドラゴンは毒を大量摂取して死んだのである。
あのお肉には先ほどのレインボーテングタケを挟んでおいたのだ。
ふははは、ざまぁみさらせ!
計画通り!
砦を汚した悪は滅び、正義は必ず勝つのだっ!
「メイド男爵、凄いですよっ! さすが、私の見込んだ人物です!」
「男爵様ぁああ、御見それしましたぁあああ!」
マツと村人たちがやってきて、拍手喝采を浴びせてくる。
「いやぁ、まあ、それほどでもあるかなぁ?」
誉め言葉には弱いタイプなので、ついついにやけてしまう私。
とはいえ、賞賛されても仕方ないよね。
ラッキーだったとはいえ、ドラゴンをやっつけたのだから。
「毒キノコを持ってきたときは毒殺されるんじゃないかと思ってましたが、こういう目的だったんですね! わざとだよの意味が分かりました!」
マツは目をキラキラさせて褒めてくれる。
いや、本当はリアルで食べられるって思ってたんだけどね。
今さらそんなこと言えないけど。
「男爵様、感動しましたぞ! 私たちをぜひ、男爵様の領民にしてくださいですじゃ!」
「お願いいたします! 我々は村をドラゴンに焼かれて帰る場所がないんです!」
しかも、である。
村長さんは私のところにやってきて、深々と頭を下げる。
確かに、彼らの村はドラゴンによって無茶苦茶になったと聞いている。
この辺境の土地は夜になると、さらにモンスターが増える。
ここまで言われて、ほっぽり出すのは人道的じゃないよね。
「もちろん、歓迎するよ! 一緒に強くて豊かな領地を作ろうじゃないか!」
そんなわけで二つ返事で彼らを受け入れることにした。
うふふ、領民の皆さんを大量ゲットだよっ!
もしかしたら、領民ボーナスもらえるかも!
「うふふ、やりましたねっ! ボーナス、ボーナスぅ! プリン、プリン!」
私の思惑に気づいたのか、マツがニタニタしながら近づいてくる。
この女、相当の好きものである。
「うひひ、全くだよ。楽しみすぎる! プリンパーティだね!」
とはいえ、私もまったくもって同じようにいやらしい顔をしていると思う。
だけど、今日ぐらいはいいよねっ!
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