籠の虫
6月から5日に一回から二回投稿に変更します。
「ヒッポ様、この先に生息する生物の大半は猛毒を所持しています。足元や頭上にも気を付けてください。」
この森には生息する生物が明確に二分している。
最初にヒッポ達が入った東側は比較的獰猛な種が少ない村人も春などには山菜やキノコを取りに来る程安全な場所である。
それは食料が豊富な時期だけのことである冬眠時期に近づくと安全とは程遠い場所に様変わりする。
そんな東側でも西側に比べたら安全である。
西側で何よりも注意しないといけないのは虫である。
草や木の葉に隠れて毒虫達がウジャウジャいる上にその体表には毒が巡っているので触れたりするだけで毒に侵してくる種が多い。
その上毒なしの生物の皆が毒耐性を持っているので、狩猟にも不向きなので、この時期じゃなくても村人がこのエリアに近づく事はないのだ。
そんな生物達が冬眠の為の栄養を得る為に東側にここ最近訪れるようになったと言う目撃情報があった。今までは東側で間引くか、冬眠用の餌をこっそり上げたりしていた。
そうする事で村を襲うことを防いでいたのだが、このままでは毒を恐れた東の生物が森から逃げて村に来る可能性がある為、今回は西側に入って東側にくる理由とその排除が最終目的である。
「毒抜きも出来るよ。」
ヒッポは毒に侵されても大丈夫だと暗に伝えた。
「それは安心ですね。ですが、中には特殊な毒を持つものもいるという話です。」
村の逸話には聖者でも解毒出来なかった毒を持つ魔物がいたと言う話があった。
この西の森は危険性が高いので調査がろくにされていない為、新種が数多く存在すると言われている。
「なので、ヒッポ様でも解毒出来ない危険性がありますので出来る限り攻撃は受けないようにしてください。皆もヒッポ様に注意が行き過ぎて自分への警戒を怠るなよ!」
「「「はい!」」」
隊長は部下の騎士達に警戒だけではなく、ヒッポにいい所を見せる為に張り切りすぎるなと忠告しているのである。
「隊長さん。」
「なんですか?ヒッポ様。」
暫く西の森を歩いているとヒッポが先頭を歩く隊長を呼び止めた。
「何か巨大なものが僕の結界に引っかかった。」
「っ!皆!警戒しろ!あちらもこちらに気がついた!」
ヒッポが警戒と謎の正体を探る為に自分から半径500メートルに展開していた探索用の結界に謎の巨大生物が入ってきた事を伝えようとしたが、隊長がヒッポを聞いた瞬間、こちらに高速で近づいて来る気配を感じた。
「サソリ?」
「デカい!!」
「ちっ!それに巨大に見合わない速さだ!」
森の木々を薙ぎ払いながら現れたのは巨大なサソリだった。
毒々しい見た目から明らかに猛毒を持っている事は明白である。
その上、一番近くの騎士にハサミで攻撃した速度はその巨大からは想像できない速い攻撃をしてきた。
「皆さん、僕の近くに来てください。」
ヒッポの言葉に反応してすぐに離脱してきた騎士達が範囲内に来たのを即座に反応して結界を張った。
ヒッポが張った鉄壁な結界にはサソリは壊す術はなかった。
「さて、どう倒します?」
「ヒッポ様、悠長に話している時間はないかと、あの虫は意外と賢いです。すぐに諦めて森に帰って行ってしまいます。」
隊長はサソリとの数手の攻防でサソリの学習能力の高さと狡猾さを見抜いていた。
サソリも騎士達の危険性と強さを知っただろう。
結界の硬さも理解したサソリは森に隠れてこちらを殺す期を待つだろうと隊長は推測した。
「それなら大丈夫。」
ヒッポがパチンと指を鳴らすとサソリを閉じ込める結界を展開させた。
それに気がついたサソリが外に逃げようと結界を全力で叩くが、壊れる気配がなかった。
これには騎士達もびっくりしていた。
通常の結界は外敵から身を守る特性上、外側は硬く、内側は脆いのだ。これにより力の消費を抑えている。
なので、内側も硬くすると力の消費量は倍ではきかない。二重の結界に村に展開している結界も合わさってすぐにガス欠になるのだが、ヒッポにはその様子は見えなかった。
「裏結界。展開完了。」
「裏結界?」
聞き慣れない言葉に騎士達はハテナマークを頭上に浮かべていた。
「裏結界。僕が相手を閉じ込める為に考えた。外は脆く、内は硬い結界だよ。」
つまり、裏返した結界である。
捕獲などに参加しない男子が考えつかないヒッポのオリジナルである。
捕獲するには相手を中心にしないといけないので思いついてもあまりの難易度に完成させるにはかなりの技量がいた。
それを容易くするヒッポは正に天才だった。
「さぁ、ゆっくりとこの籠の虫を観察するとしよう。」