妹?
「君がヒッポかい?」
「誰ですか?」
ヒッポが一人で黙々とトレーニングしていると声をかけられた。屋敷では見ない顔でヒッポは困惑していた。
「僕の名前はナターハ。ナタリー・キングスの妹と言ったら分かるかな?」
「あの人の妹?」
ヒッポはこの男装女子があの猛獣の妹には見えなかった。
「今、僕が姉上に似てないって思ったでしょう」
「なんで?分かったの?」
一切隠す気がないヒッポは正直に答えた。
「君は正直者だね。昔から言われてきたからね。」
ナターハの顔に諦めような感情が見て取れた。
「それに弱そう。」
「へぇ、言ってくれるじゃないか。子猫ちゃん。」
あっ、少し似てるかもとヒッポは明らかに怒ったナターハの顔を見て思った。
でも、闘気はナタリーより見劣りしていた。
「うん。だって今の僕でも簡単に倒せそうだしね。」
「じゃあ、やってみる?」
ナターハはそう言うと腰にぶら下げていた剣を抜いてヒッポに切りかかった。
「いい剣ですね。流石、王族。」
少し傷がついた自分の結界を見てヒッポはナターハが持つ剣を賞賛した。
「くっ!硬いね。」
「貴方のお姉さんには素手で壊されたけどね。」
その事実を伝えるとより一層力と怒りをこめてナターハは剣を振った。
それでヒッポの結界が壊れることはなかった。
「力は増したけど弱いね。」
技術が未熟な力任せな剣にヒッポは酷評した。
期待外れ。ヒッポの脳内にはその言葉がよぎった。
「じゃあ、これならどう?」
ナターハの剣に熱が帯び始めた。
「…………手加減してたの?」
今度はヒッポが不機嫌な表情していた。
男だと侮って手加減される事をヒッポは何よりも嫌っていた。
「まだこの魔法を上手く使えないから。禁止されているんだけど舐められっぱなしってのは嫌なんだよね。」
そんな物を使うな。もしくは使いこなせる様になってから汚名返上しに来て欲しいとヒッポは切実に思った。
「そうですか。でも、僕には勝てません。」
確かに凄まじい熱だ。
結界を張っていても熱く感じる程の熱量は感嘆していたが、ヒッポはそれでも自分の結界が壊れる程の力は感じなかった。
「これを侮っていると、死ぬよ。」
ナターハが剣を結界に振り下ろすと一瞬にして結界が切れてヒッポの肉体を切りつけた。
「だから、言ったでしょう。侮っていると死ぬよって。」
「そうですね。想像以上の切れ味です。」
「っ?!」
ナターハは殺す気がなかったので急所を避けて切ったが、それでも重症で倒れているはずのヒッポが平然と無傷で立っていることに混乱していた。
「…………?どうかしましたか?」
「なんで?無傷なの?」
呆然としているナターハに声をかけたヒッポはナターハが何を驚いているのか分かっていなかった。
「回復したからに決まっているじゃないですか?」
それ以外何かありますか?と当然の様に言うヒッポにナターハは驚愕の表情を浮かべていた。
「僕の剣はそんな一瞬で治せる程ぬるくないと思っていたんだけど。」
「ぬるくはなかったですよ。すごく熱かったです。」
ヒッポに傷の深さも酷さも関係ない。
反射的に回復する事が可能にしていた。
「自動回復なんて君は化け物かい。」
「化け物とは君のお姉さんの事を言うんですよ。」
「それは違いない。」
ナタリーが化け物である事は妹であっても否定する事は出来ない事実だった。
ナターハは産まれた時から自分の姉が本当に自分と同じ人間とは思えなかった。
「もう分かった。貴方では僕は倒すことも殺す事も出来ない。」
「そうかな。僕の熱はこんな物じゃないよ。」
ナターハは更に剣に纏う熱を上げた。
「流石の君でも消し炭になったら回復も出来ないでしょう。」
「さぁ、どうかな?」
「ふっ、行くよ。」
ヒッポの挑発的な表情にナターハは乗って斬りかかろうとした。
「やめろ!バカ!」
「きゃふん!」
そんなナターハを急いで駆けつけたであろう母が殴って止めた。
「私の息子を殺す気か?!このバカ!」
「師匠!待ってください!まだ僕は舐められているそんな事は僕の美学が許さない!」
襟首を掴んで母に連れてかれようとしているナターハは引きずられながら抗議していた。
「何が!美学だ!それにアンタ!ほんの少し前までそんな話し方でもなかっただろう!」
「そんな事はない!僕は前からこんな話し方ですよ!」
そんなやり取りしながら抵抗できずに引きずられるナターハを見ながらヒッポはトレーニングに戻った。
「ヒッポ!必ず僕を君に認めさせてみせるからな!!」
そう叫びながらナターハ屋敷の奥に消えていった。