初めての討伐
「ふ、ふーん」
「ヒッポ様。今日はやけにご機嫌ですね。」
ヒッポは今、鼻歌混じりに歩くほど上機嫌だった。
「それはそうだよ。やっと狩りに出て良い許可が降りたんだから。」
ヒッポ達は街近くの森に来ていた。
この世界では騎士の仕事の一つに魔物が街や道路に侵入しないための見回りと討伐がある。
騎士に憧れるヒッポも前々から魔物討伐をしてみたいと思っていたのだが、母からの許可が降りる事がなかったのである。
それが今日解禁されたのである。
最近のヒッポはみるみると力を付けていた。
「ヒッポ様、油断は禁物です。今回の魔物は私どもが普段討伐している魔物より比較的弱い種ですが、それでも市民からしたら脅威となるレベルの魔物です。」
討伐する魔物にはその危険性に応じてランク分けされている。
今回の魔物はDランク。
戦闘経験のない人間では死ぬ危険性が高い魔物である。
「ですので、警戒は怠ってはいけません。」
「先輩はかたいなー。もう少し気楽に行きません?」
ヒッポの付き添いできた騎士はこの二人である。
本当は十数人付けようとしたのだが、ヒッポが拒否した。
その結果、双方の話し合いから騎士の中でも実力者の二人が付くことになった。
「ヤマハ……お前は軽すぎるのだ。少しは緊張感というものを持て。」
「これが私ですよー。」
「二人とも魔物が出てきたよ?」
二人が騒いでいると討伐目標ではない魔物が出てきた。
二人の声が大きすぎて、様子を見に来た感じがする。
「ヒッポ様、あれは殺してはいけません。」
「?どうして?魔物だよ?」
魔物なのに討伐してはいけないとはどう言う事なのか、ヒッポには分からなかった。
大人達は子供達に魔物は人を食べる恐ろしい生物と教える。
その結果、魔物=討伐対象と思っている者が多い。
「ですが、それは間違いです。魔物も自然の生態系の一部です。討伐し過ぎると生態系が崩れて巡り巡って私たちに罰が下ります。」
「なので、私達が討伐する魔物は増え過ぎている魔物や人的被害が出た魔物に限られるのです。」
「でも、あっちは僕達を喰おうと襲ってきているけど?」
魔物側からしたら襲って来ない獲物である。
当然、襲いかかって来る。
今はヒッポが結界を張っている為、問題はないが騎士のみの場合はどうしているのか気になっていた。
「はい。当然向こうは容赦なく襲ってきますので、怪我を極力負わさずに追い返せるレベルの実力差が必要です。ヒッポ様、危険ではありますが、手本をお見せするので結界を解いてください。」
「ミアー、そのまま通れるよ?」
「え?」
ミアーはヒッポに討伐目標ではない魔物の対処法を教えるために結界の解除を要求したが、ヒッポは外に出るだけなら結界を解除しなくても出れる事を告げた。
「本当に出れた。」
「ヒッポ様!凄いですよ!」
「この程度の事で?」
ミアーは自分が本当に結界の外に出れる事に驚いて放心していた。後輩のヤマハはそれがどれほど高等技術なのか知っているため、それを易々とこなしているヒッポを称賛していた。
「それよりミアー?大丈夫?」
「はい、この程度の事は片手間で対処できます。」
ミアーは放心しながら襲ってくるウサギ型の魔物を余裕で避けていた。
「まず、魔物を捕らえます。そして、傷つける事なく半殺しにします。」
死角から飛びかかったはずの魔物を片手で首を掴んだ。
ミアーはそのまま手に力を込めて魔物を締め上げた。
「これをしたら大体の魔物は逃げて行きます。」
窒息一歩手前まで締め上げられた魔物はミアーから逃げるように茂みに入って行った。
「このように討伐目標を見つけるまで討伐不可の魔物は逃します。」
「これ結構面倒なんですよねー。より強い人は殺気だけでBランク程度なら逃げるらしいですけどねー。」
ヤマハはこの作業が嫌いなので魔物討伐はあまり好きではなかった。
好きに殺して良い状況の方が楽なので魔物討伐より戦場の方が楽だと言う考えだった。
「お前はそうやって面倒がる。確かに戦闘狂のお前からしたら退屈だろう。」
「はい。なので、面倒ごとは先輩に任せます。」
「おい、コラ。」
また、2人のじゃれ合いが始まった。
「二人とも帰るよ。」
「あれ?ヒッポ様?」
さっきまでヤマハの隣に居た筈のヒッポがいつの間にか居なくなっていた。
いつの間にか居なくなっていたヒッポは森の奥から帰ってきた。
「ヒッポ様、その手に持っているのは………」
「討伐目標の魔物だよ。」
「え?!いつの間に?!」
「君たちが話している横でこれが見えたから。討伐してきた。」
二人の話を黙って聞いてるとヒッポは視界の端に討伐目標である馬型の魔物の鬣が見えたのである。
二人の話し合いの邪魔をしないように気配と姿を消す結界を張って移動したのである。
「でも、これだと暗殺者みたいで騎士っぽくないね。」
「「……………………」」
二人は戦慄していた。
二人はじゃれ合っていたが周りへの警戒もヒッポへの注意も怠ってはいなかった。
討伐目標が近くにいることを気がついていたが、もう少しヒッポに魔物討伐の講義をしようと見逃したのである。
それを二人が気が付かないほど自然と結界を張り移動して魔物を討伐したことを驚いていた。
討伐目標の魔物は強さはそこまでではないが大きさは普通の馬と変わらないどころか少し大きい。そんな魔物を音もなく倒したヒッポの手際の良さと暗殺適正に驚愕していた。
もし、その刃が自分に向けたらどうだろうか、と二人は考えていた。
己に向けられた殺気を気付かないほど弱くはないと言う自信はあるが、あそこまで完璧に消されたら瞬殺はされずとも傷を負う可能性は高いと考えた。
暗殺者相手に傷を負うことは全てが致命傷になると同義と考えるのが一般的である。
「二人ともだから帰るよ。」
ヒッポの後ろをとぼとぼと歩く二人はヒッポを内心保護対象として舐めていた己を恥じると共に自分らが仕える家は安泰だという安心が溢れていた