目覚め
「う……うん?此処は………」
「保健室。」
「あっ、スン……」
気絶から目覚めたサイは寝ぼけながら周りを見ると本を読みながら自分が起きるのを待ってくれていたスンに気が付いた。
「あっ!試合!」
「もう終わった。」
「アンタ、6時間寝てたのよ。」
「アリサも、そっか私……負けた?」
サイは身を乗り出しながらスンに問い詰めた。スンは冷静に淡々と言った。
そこにカーテンの奥からアリサがやってきた。
「アンタ、何も覚えてないの?」
「えっと、確かアリサにボコボコにされて………それで私は最後の手段として魔食をして………あっ!」
そこで自分が誰にやられたのか思い出した。
そこで沸々と怒りが湧いてきたのである。
「なんでーーー!!あの人は!僕を倒したの?!!!」
「ドクターストップだってよ。」
「ドクターストップ?!!」
アリサが自分にされた説明をサイにもした。
それでも納得できるかは別だった。
「僕はまだ戦えたのに………」
「聖者の言う事は聞くべき。最悪、サイは死んでた。」
泣きそうになっているサイにスンはサイの身体がどれだけ大変な状況だったのか説明した。
外見は大丈夫でも、内臓、もしかしたら脳が死んでいた可能性もあった。
「魔食のリスクをあの場で彼が一番理解していた。」
「そうね。悔しいけどアイツ、凄いわ。」
「あれ?なんかアリサ、ヒッポ君の事を認めた?」
嫌悪を丸出しだったアリサがヒッポの事を認めている事にサイは野生の勘が囁いていた。
何かあった。
「アリサは彼に完敗した。」
「ちょっと!スン!!」
「すぐにバレる事。」
サイはスンから聞いた事が信じられなかった。
自分が完敗と言っていい実力差を見せられたアリサがヒッポには完敗したなんて信じたくなかったのである。
でも、悔しさを滲み出しているアリサの顔がそれが事実である事をものがっていた。
「本当なんだ………」
「えぇ、ヒッポが本気になった結界に誰も手も足も出なかった。」
試合結果はヒッポの全勝で終わった。
他とは別格だった推薦組の連中もヒッポの本気の前に膝をついた。
結界を自力突破する事なく、一方的に体力と魔力を消費させられてやられた。
推薦組もただやられた訳ではない。自分の持ち得る死力を尽くして挑んだのである。
「私の攻撃は全く通用せず結界に防がれた。ヒビも入れることも出来なかった。」
下唇を噛みながら悔しがるアリサを見て本当に何も出来なかった事を思い知った。
「あれが完全な化け物に化けた男の力。凄く興味深った。あの結界を壊すには並大抵どころか同じ化け物でもない限り正攻法での攻略は多分不可能。」
「つまり、僕も化け物になったら勝てる?」
「無理よ。」
サイの甘い考えをアリサは否定した。
スンも黙ってはいるが考えは同じだった。
「なんでだよー」
頬を膨らませて抗議するサイにスンは丁寧に説明し出した。
「化け物になる方法は一つだけ絶望する事。それも今までの生を否定されて死を恐怖するほどの絶望が必要。」
「だから、化け物になる希望を抱いている今の貴方には化け物になるなんて不可能なのよ。それは私達も同じよ。」
絶望に屈して受け入れた上でそれを抗うことで細胞が、魔力が、脳が、絶望を争う力を生み出して生まれ変わる事を化けると言うのだ。
だから、少しでも希望を抱いていたら一生到達できない領域であり、絶望で埋め尽くされてから這い上がらないといけないのである。
「それに化け物を倒せるのは化け物だけじゃない。」
「あの王女様はその事を分かっている。」
スンとアリサは唯一生徒でヒッポの結界にヒビを入れた存在を思い出していた。




