師団長会議
「では、師団長会議を始めるが、はぁ………今回は誰が来てない?」
「はい、第一師団長のメリッサ、第四師団のマリク、研究局局長のハーが欠席です。」
マジックヘルが誇る首都マーザックにあるマーザック城の会議室で元帥が緊急会議を開いていた。
「まぁ、今回の会議は緊急だから。大目に見るが、私を前にしてこの集まりの悪さには怒りを通り越して感心すらしている。もし次の定例会もこんな集まりなら連帯責任で全員にはきつい仕置きを課すからな。」
肝に銘じろと怒りを露わにして元帥は言った。
「それより、今回の議題はなんなの?元帥。」
「それは第五師団長が話す。」
皆の目はマッダーに注がれた。
そこには包帯を巻いた痛々しいマッダーの姿があった。
「ナイトヘブンの化け物の息子が化け物になった。」
その場にいる者の顔が険しくなった。
化け物の息子とはヒッポのことである。
化け物の両親からは高い確率で化け物に化ける為、化け物になる確率が低い男でも、圧倒的な才能を持っているヒッポにも化け物の子と言う要注意人物に挙げられていたのである。
その要注意人物の中でも今、化け物になって危険な人物の中のリストの上にヒッポの名が書かれているのである。
「それを回避するために行ったのに、何しているのさ。その傷を見るにその化け物少年に返り討ちにあった。」
他の者はマッダーの傷はヒッポに直接付けられたものだと思っていた。
でも、それはマジックヘルにとって喜ばしいものだった。
マッダー程の実力者に傷を付けて撤退させる男なんて戦闘能力に化け物のパワーが振られているに決まっている。
自分達が危惧していた戦場の敵が不死身の様な耐久性と化け物へのきっかけになる死への恐怖を浴びながら全力全開の身体という悪魔が生まれないと言う事だった。
それなら対処は可能だと結論づけていたのである。
「いや、悪いがこれは送還失敗での代償だよ。」
「そんな送還失敗。初期の装置を使った訳でもないのに不具合を起こしてもおかしくない?」
送還装置はマジックヘルの軍事においてはもう開発が完了しているものだった。
より小型と性能アップの改良、そして、民間で使える様にする為の調整に資金を注ぎ込まれていた。
だから、こんな大怪我の様な失敗が起きるなんて軍が整備している物である訳がなかった。
「化け物の息子の結界に送還が妨害された。」
「そんな事あるの?」
マジックヘルにも聖者は当然いる。
結界による不具合なんて最初に対処される事である。
そこから妨害実験とその対処まで、先の先まで開発終了している物なのにナイトヘブンでは初めて見たであろう送還をすぐに妨害できる結界をそれも数多の妨害に対処したものを妨害するなんて可能なのかと思ったのである。
「それが化け物だ。」
「元帥殿。」
この中で唯一己の化け物であり、化け物と一番戦ってきた先駆者の発言は誰よりも重みがあった。
「あれの祖母も母も化け物中の化け物だ。その息子も化け物中の化け物になったならこちらの想定も覆す結果を出しても不思議じゃない。」
元帥はヒッポの祖母ティラにも母エレファにも戦って生き残った世界で数少ない生存者だった。
だから、その息子のヒッポも規格外の化け物でも不思議じゃないと納得していた。
「だから、ハーが来ていないのね。」
今まで研究費が罰として引かれる事を恐れて会議には必ず参加していたハーが今日は来ていない事に不思議に思っていた。
「自分の作品の想定をあっさりと超えられたのだから。そりゃ悔しいわよね。」
「アイツはあぁ見えて負けず嫌いだからな。」
「それで国はどうするつもりなのですか?」
戦争を起こすのは自分達ではなく、国でありトップである人達だ。軍人である自分達は幾ら希望の少ない絶望的な戦争から希望のない絶望への戦争に変わったからと言って辞める権利も気もなかった。
国がやれと言うのなら死力をとして国を勝たせるのみである。
「休戦だ。あの化け物が死ぬまで永続的な休戦を決行する。実質的な降参……敗戦だ。他国とも連携して一斉に行う。」
共通の敵がいる為、マジックヘルは他国とは仲がよかった。
だから、連携して戦争も起こすことも出来た。
そして、今回は一切に敗戦を認めたのである。
「あちらからは金と後は交流戦くらいだろう。」
ナイトヘブンは戦争での被害が起きることは少ない為、賠償金くらいしか要求してこない。
強者との戦闘を楽しむ傾向がある為、交流戦を活発に行うことも要求してくるかもしれないと元帥は考えていた。
「今後はドラゴンの様な殲滅能力に不死鳥の様な耐久性が加わったナイトヘブンに勝つための開発と訓練に変更する。今より過酷な訓練にするその事を皆に伝えておいてくれ。以上だ。」
元帥がそう締めくくって会議は終わった。




