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絶望と希望

「こ、これだけの人を子供一人が倒したのか。」


 泣き喚くヒッポの周りに転がる人達。

 大半が学生だが、中には教師も混じっていた。


「さすが、ナイティー家の子息、ヒッポ様。女顔負けの強さ。」


 ヒッポの後を追ってきた者達がヒッポがやった惨状を見て慄いていた。

 そんな中母だけがヒッポに近づいていた。


「これで分かっただろう。ヒッポが見ていたのは幻想である事を。」


「ぐずっ、かぁさま。」


 かつて見たこともない程のヒッポの泣き顔に母の心はボロボロと崩れかけていた。

 今すぐにでもヒッポが思い描く幻想を形にしたいと思ったが、そんな事出来る訳もないので此処は心を鬼して話を逸らすことにした。


「それにしても派手にやったな。ヒッポの前に倒れているのはサラビアか。」


 母の知っている顔もヒッポの倒した中に混ざっていたようだ。


「知っている人?」


「直接は知らん。ただ、今年の卒業生で有望株として写真と資料を見た事があっただけだ。」


 まだ未熟なヒッポにやられたからと言って過小評価するつもりはないが、思っていたより未熟者と言うのはあっているだろう。


「この人、速いだけの雑魚だったよ。」


 ヒッポが言うには速くて目で追えなかったが、自分の結界を壊さない程の攻撃力しかなかったから。

 持久戦に持ち込もうとヒッポは最初に考えた。


「でも、この人の攻撃パターンのレパートリーが少なかったから。即行でカウンターに対処が出来た。」


「そうか。目で追えないのになんで攻撃パターンが分かったんだ?」


 自分は見えなくても長年の戦闘経験から予測が出来る確信があるが、ヒッポにはそれが一切無い。

 それなのに予測が出来た理由が母には分からなかった。


「結界の感触で把握可能。」


 つまり、ヒッポは自分の作り出した結界をどんな武器でどんな風に斬られたのかを知覚してそこから相手の攻撃パターンを推測したのである。


「それでは何回か失敗したのではないか?」


 確かに原理は理解できるが、それもある程度の経験があって可能にする技術である。

 自分より勘の良いヒッポの姉や物覚えの良い妹ならその経験をカバーする事が出来るため同じ条件で一発で成功できるだろうが、ヒッポには経験をカバーするものは自分の知る限りないはずだ。

 だから、サラビアを倒せた要因がまだあるはずだと母は考えた。


「うん。だから、何度か斬られた。」


「?……っ!」


 よく見たらヒッポの衣服が切れて血が滲んでいる事が分かった。さっきまでヒッポは泣き崩れていたので影になって傷口がよく見えていなかった。


「大丈夫なのか?!すぐに医者を!」


 母は急いで医者を呼ぼうとして周りの者に指示しようとした。


「大丈夫。もう治っているから。」


「!」


 ヒッポはそう言うと斬られた箇所の衣服を引きちぎって傷口を見せた。

 いつもなら普通に脱いだり、捲ったりして傷口を見せただろうが、不機嫌な今はそれすら煩わしくて力の限り引きちぎって見せた。

 男女ともに異性の前で素肌を晒す事を良しとしない文化であるこの国ではヒッポがやった事は刺激が強く見える行いだった。

 母が連れてきた騎士の何人かは鼻を押さえている。


「オホン!ヒッポ。あまりそういうのは人前でしたらいけない。一瞬にして喰われるぞ。」


「?」


 喰われると言うもう一つの意味を上手く理解していないヒッポは母の発言に疑問を思ったが、別に良いかとその疑問を無視した。


「でも、これで分かったでしょ。傷口は完全に塞がっている事は。」


「あぁ、完璧だ。傷跡一つ残っていない。」


 この歳なら回復魔法を初歩的なものでも完璧に扱えずに傷あとが残ったり、あとあとで後遺症や感染症を発症したりするのだが、ヒッポの魔法は完璧だった。


「骨まで到達しなかったから。後はトライアンドエラーでたおした。」


 母はサラビアがヒッポが男であることに慢心して攻撃一辺倒になっていたのも勝因だろうが、治せると分かっていても痛みが消える訳でもないのに攻撃を受け続けて冷静に魔法と予測の補完をし続けたヒッポの胆力に称賛していた。


「さすが、私の息子だ。」


「……………夢は儚いんだね。」


 話を逸らすことには失敗したようだ。

 悟ったような顔をするヒッポになんで声をかけたら良いのか分からなかった。


「ヒッポ様。まだ、悲観するには早いのではないですか?」


「どういう事?アンダル?」


 さっきまで傍観をしていたメイドが諭すように声をかけてきた。


「ヒッポ様の読んだ書籍は男性が女性と肩を並べて戦う姿だったはずです。」


「うん。それが?」


 アンダルはニヤリと笑ってこう言った。


「なら問題ありません。ヒッポ様が女性と肩を並べれる騎士にならば問題ありません。」


「!!」


 雷が落ちたような衝撃がヒッポにはしった。

 つまり、男性騎士がいないのならヒッポが初めての男性騎士になれば良いじゃないのかと言うものです。


「?でも、なれるの?」


「問題ありません。騎士の資格には男女の性別による定義はありません。」


 女の夢である男性騎士の可能性を根本から無くすような酷い事は政治家の女達もしたくなかったのである。


「ほんとうなんだね。」


「ほんとうです。」


 ヒッポは覚悟を決めた表情て立ち上がった。


「僕は世界最初の男性騎士になるよ。」

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