将来への投資
「おい!そこ!よそ見をするな!」
「いや…………でも…」
討伐依頼も中盤に差し掛かり、今はナイティー領の商業都市であるナイトギルドである。
この都市はナイティー領から首都へ行く場合必ず通る場所である為、首都から沢山の人やモノも大量に入ってくる。
そんな場所であるが、この土地は魔物が切磋琢磨して弱肉強食が凄まじい場所でもある。
だから、森に野盗が潜んでいたりする事が無いと言うより出来ない。
出来る集団があれば野盗なんて安定しない職業に就きはしない。
この冬に近づく時期というより冬になってからがこの国で最も危険な土地になる。
「分かっているのか。ヒッポ様のお陰で他の依頼は滞りなく終わったんだぞ。他の隊より早くこの街についたからにはどの隊よりも万全な状態でいなければいけないのだ。」
毎年の討伐の締めくくりはこの都市での大規模討伐である。ナイティー領の大半の騎士達が集まり全力でこの都市を護るのが仕事である。
本当ならヒッポがいるこの隊も終盤に合流する筈だったが、アリクイ以外でハプニング無く終わりヒッポの結界によるサポートで瞬に終わったのである。
ヒッポに良いところを見せようと騎士のみんなが張り切ったのもある。
「ですが、あぁも目のやり場が困る状況では集中が………」
注意されている騎士達以外も視線は練習相手よりそちらに向かっている。
誰も訓練に集中ができていなかった。
「ふっ!はっ!ふっ!」
「まぁ、分からんでもない。」
その視線の先にはヒッポが素振りして筋トレしている姿があった。
筋トレしてどれくらい時間が経っているのかは滴る汗によってはっきり分かった。
足元に軽い水溜りが出来る程の筋トレを行っていた。
騎士達にとって問題なのは汗によってシャツがヒッポの素肌に張り付き透けて見えそうになっている事だった。
隊長も隊員達の内心は理解できる為、注意しにくいのだが、隊長としてしないわけにもいかなかった。
「ヒッポ様、そろそろ休憩されたどうでしょう?汗をかきすぎています。脱水症状になります。」
隊長が意を決してヒッポに近づいて休憩を提案した。
汗による女とは違う男らしいジューシーな匂いに雌を刺激されながら耐えていた。
誰もヒッポに近づかなかったのは自分の理性が勝てるわけがないと思っているからだ。
「そうかな?この後は皆んなと混じって実践訓練しようと思っていたんだけど?」
「やめてください!倒れてしまいます!」
私達が!という枕詞がつく言葉をグッと堪えて隊長はヒッポの体調を心配するように注意した。
他の隊員達も激しく頷いて遠くから同意した。
「分かったよ。じゃあ先に上がるね。」
隊長の意見を尊重してヒッポはそう言って訓練場から出て行った。
「はぁ、すぅ。」
「隊長、息止めていたのですね。」
「当たり前だ。息を止めずにして理性を止めれる訳がないだろう。」
隊員の質問に隊長に真顔で答えた。
吸わずとも鼻腔をくすぐるヒッポの香りでも理性が悲鳴を上げていたのにより濃い匂いを大量に吸ってしまえば自明の理である。
「それにしてもヒッポ様、強化魔法をせずにあれほどの大剣を振っていましたね。」
「知らないのか?ヒッポ様は魔力なしなら領内どころか国内一だぞ。」
ヒッポの力は世界一!!とは言えないが、国内一は確実だと断言できるほどの腕力を持っていた。
「あれで萌えないって貴族の令嬢達、節穴ですか?」
「まぁ、騎士以外の令嬢や外国令嬢の理想の男性像は華奢な花のような男性らしいからな。ヒッポ様のとは掛け離れている。」
隊員の一人がヒッポが貴族界隈でモテていない事に令嬢方面が悪いと発言した。
その事を冷静に他の隊員が教えた。
「あの筋力があったら独力でCランク程度なら捕獲可能なんじゃないですか?」
「ヒッポ様がCランクで筋力を使う事はないよ。」
「どうしてですか?」
逆にCランク超えの魔物にはあの筋力が有ろうとも討伐ならともかく捕獲は難しいだろうと考えていた隊員からしたらいつ筋力を使うのかと思っていた。
「結界で窒息させる事ができるからな。Cランクの力では窒息できる程密閉した結界でも破る事はできない。」
密閉力を上げすぎるのは効率を考えると力の無駄使いになる為、必ず窒息させてでの気絶が狙えないと使う必要がないのである。
「じゃあ、ヒッポ様の筋力は何のために?」
「言っては何だが、見せ筋及び対人専用だ。」
騎士の仕事は戦争でもない限り大半が魔物関連である。
対人なんて治安維持などでしか使わない。
そして、ナイティー領は世界一街の治安が良いと言われるナイトヘブル中でも最も良いと言われている。
つまり、対人は対外でしか使わないのである。
「だから、ヒッポ様は他国での対戦に備えていらっしゃるのだ。」
「なるほど、学園対抗ですね。」
隊長の説明に元学生の人達は理解して頷いていた。




