再生
「ヒッポ様!」
「大丈夫。だから、早く捕らえてきて。」
舌らしきもので明らかに心臓を刺され、体を貫通しているのにまるでなんともないように言うヒッポにサラビアは恐怖を感じていた。
「行くわよ!新人達!」
「でも……」
「はやく!」
隊長に急かされて戸惑いながらもサラビア含めた新人達も先輩達の後を追って舌が伸びる方に向かって行った。
ヒッポをこの場に残しての隊総出の捕獲作戦はそれだけヒッポを貫いた下手人を警戒してのものだった。
「心配しなくてもヒッポ様は死なないわよ。」
新人達の青ざめた表情から隊長は安心させようと話し出した。
「ですが、心臓を刺されたのですよ!」
冷静に話せているのも不思議なくらいの重症だった。
普通なら即死でもおかしくない重体のヒッポを置いていくのも心配なのだ。
自分達よりヒッポを知っている先輩や隊長が大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろうがそれでもやはり心配だった。
「ヒッポ様が捕まえている間に捕らえないといけないのよ。」
「ヒッポ様が捕まえている?」
ヒッポ様なら後ろで刺されたままのはずだと新人の皆が疑問に思った。
「あんな傷、ヒッポ様にとってはかすり傷ですらないわよ。」
「え?」
かすり傷?そんなわけがない。
新人達の思いは一緒だった。相手の回復をも許さない速攻の一撃だった。
ヒッポの結界を容易く貫通させるほどの鋭さだ。ヒッポの体内は心臓だけではなく近辺の内臓もぶち壊しているはずだ。
「ヒッポ様は化け物みたいなものだからね。」
「おい、それは不敬だぞ。口を慎め。」
先輩達は何が起こっているのか分かっているようでヒッポの天災っぷりを思い出していた。
「ヒッポ様が最も得意な事は何か分かりますか?」
隊長が新人達に質問を投げかけた。
「それは結界術じゃないですか?あんな正確な防御と強度を見たことがありません。歴史に必ず名を残す才ですよ。」
「それもあるけどあの胆力も相当じゃない?幾ら力があってもそれを冷静に使える胆力があってこその力だと思います。」
新人達はここまでの旅で見たヒッポの有能さを思い出して各々意見を出していた。
「ざーんねーん。不正解。正解は回復魔法。特に再生術はピカイチよ。」
答えに辿り着けなかった新人達の代わりに先輩が正解を答えた。
この旅ではヒッポの結界によって一切怪我をすることがなかったため、新人達の中ではヒッポの回復魔法の実力は未知数となっていた。
「だから、先輩達は……」
それを知っているから。
ヒッポの心配を何一つしていなかった。
「そう言う事。心臓を貫こうが、内臓をぐちゃぐちゃにしようがヒッポ様を殺す事はできない。」
「それどころか、今回のように体の一部で攻撃したらその場を再生して捕らえる事が可能なのよ。」
今回のように舌で貫かれてもそこを捕らえることでトカゲの尻尾切りみたいなことでもしない限り相手は動けないのだ。
「さぁ、分かったら速度を上げるわよ。」
「それにしても長い舌ね。」
それなりに走っているのに未だヒッポ刺した下手人は現れていなかった。
だから、より速度を上げてはやく近づこうとしていた。
「いた!」
そして、その時はようやく訪れた。
「あれはアリクイ?」
「そうね。舌の長さから想像できない大きさね。」
その魔物はアリクイに酷似した姿をしていた。
明らかに何百メートルでは効かない長さの下をしていたのに本体のデカさは2メートルもない大きさだった。
一向に縮めれない舌に困惑しているようでこちらの存在に気がついても逃げる事も出来ないようだ。
「危ないわね。」
アリクイは逃げれないと分かると身体を起き上がらせて二足歩行で爪を攻撃し出した。
それを紙一重に躱していた。
「ヒッポ様のお陰で動きが阻害されているわね。」
伸ばしすぎた舌が邪魔して動きが鈍い。
そのお陰で未だに怪我人が出る事はなかった。
「この辺りに棲んでいる種ではないわね。」
隊員達は全部ではなくても自領の生態は把握していた。
その中でこの辺りにアリクイ型は生息していないことを知っていた。
「そもそもこの国にアリクイいたかしら?」
こんな長い舌を持っているのはこの国ではアルマジロがいる。
なので、今回の下手人はアルマジロだと誰もが思っていた。
殺傷能力の高い舌は危険だが、舌を伸ばしている間は防御形態ので楽勝な捕獲だと思っていた。
それがアリクイで皆が困惑していた。
「つまり、外来ね。」
何処かの貴族がペット目的に飼って逃してしまったのか?野生個体がここまで餌を求めてきたのか知らないが、取り敢えず外来だと断定して行動する事にした。
「新人達!今回は捕獲よ。」
「絶対殺すなよ。生け捕りにして人為的なら必ずそいつに報いを与えるのだからね。」
野生の可能性を考えてはいても、それより人為的な可能性の方が高いため、先輩達はアリクイだと分かった瞬間から内心は怒りに燃え上がっていた。
ヒッポ様を傷つけた罪は重い。
それが一同の心を一つにしていた。
それは新人達も理解し始めたため、新人達も殺気出してきていた。
「分かりました。生け取りですね。でも、外来なら多少傷つけても問題ないですよね。」
「程々にしなさいよ。」
隊長からの許可も降りたので、殺気を一層と隠す気を無くした新人達は涙すら浮かべるアリクイを容赦する事なくじっくり抵抗の意思を削ってから捕獲した。




