ヒッポの力
「此処が現場か。」
依頼場所は村から遠く離れた山の上だった。
魔物や危険生物がよく村に降りてくるそうだ。
「今回は原因が分かっているんだよね。」
「はい。既に調査結果は出ています。」
ヒッポは隊長に今回の依頼は調査済みであった事を確認した。
前の隊が既に念入りにこの山を調査していた。
その結果、調査していた隊では討伐が確実ではないと判断されてこの隊にお鉢が回ってきた。
「ドラゴンの類ですか?」
「はい。それも空を飛ぶタイプです。逃げられない為にヒッポ様に私達とドラゴンを隔離してください。」
今回の作戦は危険を感じたドラゴンが空に離脱して逃げる事を防ぐのが肝心である。
その為、通常は翼をへし折るか、ボロボロにして飛べなくしてから倒すのが定石だが、それは知能が高いドラゴンも分かっている為、中々壊せない。
その上、こちらが格上だと認識すると逃亡を選ぶので早期決着が要求される。
それをヒッポの結界によって逃亡を防止。
ドラゴンが結界を破壊しようとしてもその隙に翼か急所を狙う方針だ。
「ドラゴンの翼は高く売れる貴重品です。」
「技術開発部も欲しがっていたよね。」
ドラゴンの翼は先の理由から状態の良い翼は貴重だった。
その為、完全に綺麗な翼は高値で売れるドラゴンの素材の中でも特に売れる高級素材だった。
そうこう話しているとターゲットが山頂の巣に降りてきた。
「行くぞ!」
「結界展開完了。」
「はやっ!」
隊長の掛け声と共に瞬きする間にヒッポの結界が完全に展開された事を隊員達は驚いていた。
「グァ!」
「うわぁ、ドラゴンも驚いている。」
「そんな事よりさっさとやるわよ。ヒッポ様に良いところ見せるのだから!」
サラビアは最短最速でドラゴンに近づいてドラゴンに知覚される前に切った。
「なっ!硬い!」
「バカ!焦るな!よく見ろ!」
隊長の叱責にヒッポに良いところを見せようと焦り視野を狭めていたサラビアは冷静さを取り戻して今度は鱗の隙間を狙って切ろうとした。
「ガブゥ!」
「ちっ!」
二度も切らせる隙をドラゴンが見せるわけがなかった。
サラビアを食い殺そうと噛みついた。
それを紙一重で躱して皆がいるところまで後退した。
「だから、あれほどヒッポ様に気を取られるなと言ったんだ。」
「残念ね。最初から鱗の隙間を狙っていたら難なく斬れたのにね。」
「くっ!」
サラビアの普段の実力なら初めから切れたところを男にいいところを見せる為に功を焦り失敗したらダメだろうと隊長は呆れていた。
「ブレスが来ます!」
「皆!ぼ……」
「動かなくて良いですよ。」
隊長が回避を指示しようとしたところヒッポから待ての指示が飛んだ。
「え、結界が変形してブレスを防いでいる。」
「それだけじゃない。結界内がブレスで満ちてドラゴン自身にダメージが入っている。」
ヒッポは即座に結界の一部を使って結界を一瞬にして二分させた。
ブレスは自分で自分を殴る様にドラゴン自身にダメージを与える結果になった。
ドラゴン自身の攻撃で大ダメージが入る訳がないので倒せはしないが、それでも結界に警戒してこれ以上ブレスを撃つことはないだろう。
「すごい。」
「新人共、これがヒッポ様の実力だ。」
一つ動作で味方を防御するだけではなく、ドラゴンへの牽制も行ったのだ。
その事が分かった。
サラビア達、新人はヒッポに感嘆していた。
「早く終わらせてください。防御は僕がしますから。」
ヒッポは攻めにだけ徹してさっさと倒せと言っていた。
「新人達はそこで見とけ。」
「そうそう。まだ、ヒッポ様を信頼し切ってないでしょう。」
「それはどう言う事ですか?」
サワの疑問に答える事なく、先輩達はドラゴンに突撃していった。
「あれじゃ!ドラゴンに隙だらけじゃないですか?!」
「あれで良いんだよ。」
「え?」
先輩達の無防備な攻撃にサラビアは驚き困惑していた。
でも、隊長はそれを止める事なくそれで良いと肯定した。
「ガァーー!!」
「は?」
舐められていると感じたドラゴンの攻撃はヒッポの結界によって先輩達に届く事はなかった。
「これがヒッポ様の結界の中よ。どんな攻撃も味方に届くことはない。だから、私達は安心して隙の多い大技や完全に無防備になる技だろう確実に放つ事が出来るのよ。」
そんなの反則だろうと新人達はターゲットであるドラゴンが不憫になってきた。
「それにしても先輩達は的確に急所を狙っていますね。」
防御してくれると分かっていても至近距離で防がれる攻撃に全く反応することなく攻撃にだけ集中していた。
普通なら反射的に避ける動作を取りそうなものなのにそれを一切していなかった。
「ガァ!ガァ!」
ドラゴンは先輩達の死角や隙だらけな部分を狙わずに先輩達の進行方向に合わせて尻尾による広範囲に渡って薙ぎ払おうとした。
「なぁ!あれじゃあ!ぶつかる!」
「やっぱり賢いな。」
ドラゴンは結界が先輩達の進行の邪魔にならないものになっていることに気がついていた。
それは先輩達の死角などによってドラゴンの攻撃を誘導しているからだと理解したドラゴンは結界が邪魔になる方向の攻撃を繰り出したのだ。
「でも、その程度の攻撃が通じるほどヒッポ様の結界は生易しくないわよ。」
「うそ。」
サワはドラゴンの心情を代弁する様に呟いた。
結界が先輩達の下から急上昇してドラゴンの攻撃を避けさせたのである。
先輩達もそれが分かっていたので何も戸惑うことなく次の動作に移っていた。
「これがヒッポ様の圧倒的なサポート力よ。」
新人達は難なく討伐されていくドラゴンを哀れに思いながら傍観していた。
「みんな、お疲れ。」
「やっぱりヒッポ様のサポートがあると楽で良いね。」
ドラゴンの討伐を終えた先輩達は疲労を一切見せることなく戻ってきた。
「皆さん、お疲れ様で……」
「ヒッポ様!」
ヒッポが結界を解いて帰宅しようとした瞬間、ヒッポの結界を突き破ってヒッポの心臓を貫いた。




