汚名返上なるのか?!
「ヒッポ様、こちらです。」
「ねぇ、前の隊にも言ったけど、男だからとか、当主の息子だからって特別扱いしないで欲しいんだけど。」
「いえ、全くそんな気はありません。」
隊長の堂々とした態度に騙されそうになるが、ヒッポの目の前には明らかに豪華絢爛な馬車があるのだがと思っていた。
「これは?」
「はっ!最新の魔力馬車です!今回の討伐は領地でも悪路が多い場所が多いので、領の技術開発部から今年のコンテストに向けての試運転もして欲しいとの事なので、私達が用意したものではありません。」
どう見ても完成品にしか見えないが、そこまで言われたら駄々をこねるわけにもいかないので渋々ヒッポは馬車に乗り込んだ。
「よし、出発しろ!」
「良いんですか?隊長?」
馬に乗り歩き出した隊長に近づいて隊員の1人が尋ねてきた。
「良いんだよ。少しでも結界に集中してもらった方が楽な上に、盗賊が来ても場所に乗っている=守らないといけない人だと誤認してもらった方がいいからな。」
「?実際に守らないといけない人じゃないですか?」
ヒッポは当主の息子であり討伐にしても聖者が一人いるだけで仕事の難易度が雲泥の差である。
その為、この隊で最重要で守らないといけない存在である事は間違いないだと隊員は考えていた。
「…………お前、確か別の領地出身だったな。」
「はい。アディ出身です。」
隊員はナイトディア学園を卒業してから地元に戻らず、そのまま就職したのである。
「そうか、なら知らないのも無理もないか。」
「?」
学園生活の1ヶ月くらいは領地独自の文化の違いに戸惑ったりしたが、国が違うわけではない為すぐに慣れた。
なので、この数年でもう地元民と同じくらいの常識は身につけたと思っていた。
「いいか、ヒッポ様は他の男性と同じだと思うな。あの方は男性でありながら騎士を目指している人だ。胆力も並の騎士を超えている盗賊のような下劣な奴らが襲撃した程度で乱れる精神力はしていない。」
結界には相当の集中力がいる。
その為、この様に馬車移動なのではいかにして男性にストレスや不安など集中の妨げになるものを与えない様にするかが問われる。
護衛している騎士が優秀だと確信持たせて安心させないと何かが襲撃した時に逆に危険になるのである。
「だから、命知らずな盗賊や魔物が来たとしても重要な資材が載っている馬車などは結界の中だ。私たちは淡々と処理に集中出来る。それを知らない盗賊は恐怖感を与えようと無駄な事をするからな。より処理が楽になると言うわけだ。」
「へぇ、ヒッポ様ってそんなに凄いんですか。」
隊長の話を聞いて、あの歳の男子は自信過剰でいざ実践になれば使い物にならないことが多いのだが、隊長にそこまで言わせるなら常人ではないのだろうと新米隊員は考えた。
「そうだぞ。サワ。あの人を舐めたらいけない。」
「サラビアか、確かにお前は舐めれないな。」
サワと新米隊員の名前を呼んで近寄って来たのは前にヒッポにボロ負けしたサラビアだった。
「サラとヒッポ様は何かあったの?」
苦虫を噛んでいる様な表情で語るサラビアにサワはどんな因縁があるのか気になっていた。
「負けたのよ。」
「え?」
「だから!負けたのよ!ヒッポ様に!」
同学年でも速度はトップな上に技量もあるサラビアに男性であるヒッポが勝ったとは一瞬で受け入れなかったサワは思わず聞き返してしまった。
それにムカっとしてしまったサラビアは怒鳴ってもう一度言った。
「ププ。その上、素早いだけの雑魚ってヒッポ様に罵倒されたのよね。」
「いいな。ヒッポ様の罵倒。」
「お前らまで混ざろうとするな。」
大声で言ってしまったので、近くにいた先輩騎士達も話に入ってきた。
「ええ、そうですよ!」
その時の屈辱を思い出したサラビアの目にはうっすらと涙が見えた。
「お前もこの程度で泣くな!そもそも、この隊にヒッポ様と勝てる人は数える程だ。」
それも100%勝てる自信があるのは隊長のみである。
大半がヒッポが勝つ確率の方が高い始末だった。
「それでも雑魚扱いされない自信があります。」
「勝つ自信を持て。その言い分は情けないぞ。」
「私は雑魚扱いされたい。」
「その変態性を隠さないとヒッポ様に一切近づけさせないぞ。」
隊長の発言に情けない反論する者がいれば、変態性を全開にする者もいた。
「嘘。サラを雑魚扱いってヒッポ様はそんな強いのですか?」
胆力がある事は話で理解したが、男性が真っ向勝負で騎士に勝つなんて信じられなかった。
「それに私はあれから特訓に特訓を重ねたんです。この討伐でヒッポ様に認めさせて雑魚の汚名を返上してみせます。」
この隊にヒッポが同行すると知ってからサラビアは絶好の機会が来たと喜んでいた。
あの敗北から壮絶な特訓を重ねて実力を上げていた。
だからこそ、騎士としてナイティー家に就職出来たのである。
「気合を入れているのは良いが、ヒッポ様に気を取られて更に汚名を重ねる失態はするなよ。」
隊長はサラビアが空回りしないか心配していた。
どこかドジっ子の様な空気をサラビアから感じていた。




