弱者は嫌いだ。
「限界のようですね。」
「はぁ……はぁ……………ま、まだ、だ。」
幾度も電撃を浴びせてもヒッポの結界を破る事は少年には出来なかった。
闘志は衰えてないが、魔力の底が見えているのは誰から見ても明らかだった。
「いいえ、おしまいです。貴方では僕にかすり傷一つすら与えることは不可能だ。」
少年にとっては決して受け入れ難い事実をヒッポは淡々と告げた。
「ヒッポ様、流石に可哀想では………」
「うん?…………そうだね。この子も身の程というものを知っただろうしね。これ以上は弱い者いじめだね。強者のやることではない。」
「ジャック!」
そんな事をしていると森の奥からシスター服を着た女性が現れた。
「その子の身内ですか?」
「貴方は騎士ですか?」
汗を滝のように垂らしながら息絶え絶えのジャックの呼ばれた少年を庇うようにシスターは前に立った。
「そうです。そこの子は法律違反を犯した疑いがあります。」
「そんなっ?!ジャックは良い子です!何かの間違いです!」
ジャックと親しいシスターはジャックが法律を犯す行為をするわけがないと確信していた。だから、騎士の言い分に即座に反論した。
「この子がいい子かなんて関係ありません。現に我が国、我が領土に被害が出ています。」
騎士はシスターの言い分を聞くつもりはなかった。村の被害理由が判明した以上この少年を見逃す理由は何処にもなかった。強いて言えばこの者が他国のものというだけだ。
「それに此処は治外法権で不可侵のはずです。両国の領土ではない中立な森だと記憶しています。」
もし、ジャックが幼いながら知らずに間違いが起きていたとしてもこの森での被害を自国の被害として罪に問える事はないと反論した。
「確かに此処は治外法権です。誰のものでもありません。」
「貴方は?」
明らかに騎士ではない格好と男である事から何者かは見当がついていたが、確認のためにシスターは質問をした。
「この者たちの主人です。」
「そうですか。貴族様なら自領の範囲を記憶しているはずです!」
シスターは地元の貴族ならこの場所事をよく知っているはずだと説得を試みた。
「はい。でも、僕たちが言っているのはこの西の森の被害ではありません。東の森、そしてその向こうにある村と事を言っているのです。」
「え?」
シスターはヒッポから知らされた事実に呆然としていた。
「この子はこの場でワニの魔物を狩っていた。そのせいで生態系が乱れました。それも秋になり冬に近づいているこの時期にです。弱肉強食に負けた生物が村にまで降りてきて被害が出始めている状況です。」
「そんな…………」
なんで、ジャックが魔物を狩っていたのか分かっているシスターはそれによって他国の被害が出ている事実に衝撃を受けていた。
でも、己が負けて折れたらジャックが犯罪者として連行されしまう。
それだけは如何にかして回避しなければとこの者たちが知らない情報で反論しようとした。
「言っておきますが、この子が狩ってきたワニの魔物を数は関係ありませんから。それで罪を誤魔化そうとしても無駄ですよ。」
「な、なんで………」
「それは自分の言おうとしたことが読まれた事にですか?それとも、狩猟の数が関係ないというところですか?」
シスターが口をパクパクしながら放心していながら告げた疑問にヒッポは首を傾げながら聞いた。
「この場所とこの森でのワニの目撃情報の無さから分かります。この場所は言ったら休息場と森の奥に隠れた餌であるヘビの巣まで安全に行くためのルートでしかありません。」
この場がワニとって危険であると認識して此処を通る頻度と現れる数が減ったことが問題であり、ジャックが絶滅するほどに狩っているなら問題になるが、この近くの川に生息するワニの生息数の多少減少したとしてもこの森には影響はなかったはずだ。
それはそれで別の問題なっていただろうが、ヒッポ達が出張る事はなかった。
「だから、この子がした事は国際問題なる凶悪犯罪なんですよ。」
「そんな………」
「な、なにが!国際問題だ!俺たちの村は!このワニに襲われたんだぞ!そのまま食われて死ねって言うのか!!!」
ヒッポの言葉に息を整え聞いていたジャックが怒りに任せて反論した。
「はぁ………論点が違う。良いですか?貴方が言っているのは抵抗でしょう。僕が言っているのは狩猟とそれによる生態系の崩壊です。僕らが止めていなければ被害はより大きくなっていたはずです。」
ジャックの稚拙な言葉に呆れながらヒッポは言葉を述べた。
「そもそも、この先の川付近で村を作るのは両国の決まりで禁止にしているはずです。その点においても貴方達は犯罪者です。」
「「え?」」
これで何度目になるか分からない無知な顔を晒しているこの者達にヒッポはほとほと呆れを通り越して可哀想になっていた。
「知らなかったのですか?禁止なんですよ。川には危険な種が多い上に過度に減らせば生態系を乱す可能性が高いと言う理由でね。」
まさに貴方達のことです。とヒッポは言っていた。




