原因の正体
「此処は池ですか?」
蛇を追ってきたヒッポ一行は森の奥にある隠れた池を発見した。
「森の動物達の水飲み場ですかな?」
「そうでしょうね。」
「水質に問題はありません。」
ヒッポ達はヘビの森での暴虐の全貌を知るために、池の水質を調べた。
もしかしたら、この池が汚染されたことによって餌が不足したのではないかと考えたからだ。
しかし、結果は正常。どれも異常な数値は示さなかった。
「これ以上の詳しい検査は屋敷か専門の施設に行かなければ不可能です。」
簡易検査では成分分析にも限界がある。
徹底的な原因究明にはより専門の機械が必要だった。
「多分、水に問題はないと思う。」
「それはどうしてですか?」
「動物達が安心して飲んでる。」
水を飲んで餌が減っているのなら、動物自体がいないか、水を警戒して恐る恐る飲んでいる筈だ。
それなのに、動物達は水の中や周囲は警戒しても水には何も恐れずに飲んでいた。
「確かに無警戒ですね。昔、鉱山による水質汚染があった場所に行きましたが、水不足による死体や鉱毒による死体が探さずとも見つかりました。ですが、この森にはありません。」
死体は虫に喰われたりしたとしても骨は残る上に、餌不足になるほどの死体なら分解が追いつかなくて中途半端な死体が残っていたりする筈だと考えられた。
「それならもう一つかしら。」
ヒッポ達はヘビを追う中で今回の原因を考え、意見の中で現実的なあり得そうな二つに絞って道中を探索していた。
さっきまでの話がその一つである何らかの原因により汚染されたものを口にした動物達が死に、死肉は食わないアシアリヘビが餌を求めて森を彷徨うことになり、それによって縄張りを荒らされた動物達が東に逃げてきた。と言う話だった。
そして、もう一つがヒッポ達の中で一番の有力視しているものだった。
「隠れて!」
ヒッポ達がいる方向とは別の方向で気配がしたので急いで隠れた。
因みにヒッポの探索用の結界は解いている。
あのヘビが元々こちらに近づいたのは結界を察知して獲物がいる事を知ったからと仮定したからである。
どのヘビ型の魔物も探知が得意な為可能性が高い。隠密での作業では返って枷になると判断して隠密用の結界を張った瞬間に探索用の結界は解いていた。
「………あれは?」
「男の子?」
「どうして、こんな危険な森に男の子一人で?」
明らかに不自然である。
通常男が森に来るなんてあり得ない(ヒッポが除く)。それなのにましてや一人で此処まで来るなんて自殺行為どころか此処まで来れたことに賞賛すら出来るものだ。
「貴族ではありませんね。」
「はい。武装も平均的な物です。」
男の子が貴族なら多少才能があったが為に結界を学んで調子に乗った子とも考えられる。
でも、身なりからそれはないと結論付けた。
それによってこの男の子の素性がわけが分からなくなっていた。
「あっ!あれは!ダイルゲーター!」
池の水が盛り上がると中からワニ型の魔物が現れた。
「この池は川と繋がっていたのか?!」
そのワニは西の森を抜けた先の河川に住むワニだった。
そこからこの池の中にその川と繋がるこの巨大なワニが通れる穴か洞窟があるのだと考えられた。
「ちょっと!あの子!あのワニに近づいていくわよ!」
男の子を見れば隠れていた茂みから出来る限り音を立てないようにワニに近づいていた。
「えっ?!魔法??!」
その男の子は手に魔力を貯めると一気に電気に変えてワニに向かって放出した。
「誰だ?!」
それはヒッポの結界により塞がれてしまった。
ワニはその轟音を聞いて水中に潜ってしまった。
「なんで?!俺の邪魔をするんだ!」
「君が法律違反したからだ。」
男の子は本当にワニ討伐を邪魔された意味を分かっていないらしい。ヒッポの言葉を聞いても納得していない様子だった。
「魔物討伐の何が法律違反になるんだ!!」
「なるに決まっているだろう。魔物だろうと自然の一部。それを度を過ぎて害す行為は法律によって禁じられている。子供でも知っている常識だ。」
「なんだと!!!」
要するにそれを知らないお前は馬鹿な常識知らずだとヒッポは暗に言っていた。
「魔物なんていくらでも湧くんだから!どれだけ討伐しても良いだろう!!」
「?君、もしかして魔物自然発生説を信じているのか?」
魔物自然発生説とは魔物は他の生物とは違って空気中の魔素から自然と産まれると言う俗説である。
昔は定説として流行った時期があったが、今ではそれを信じていたら馬鹿にされるくらいには荒唐無稽な説として知られている。
「魔物なんてそんな物だろう!」
「前時代的な説を誰に教えられたのか知りませんが、それは根拠のない説です。学び直してから狩猟に来ることですね。」
ヒッポは男の子に問答を問うのをやめた。
この男の子が誰に学んだのか知らないが、これなら無知な赤ん坊と話していた方がまだ話が通じると思っていた。
「馬鹿にするな!それにお前!貴族だな!」
「それがどうしましたか?」
ヒッポの身なりから平民ではない事を知ると男の子はより怒りを表していた。
「村を助けない!役立たずな貴族にとやかく言われる筋合いはない!」
「村?」
ヒッポはこの森に来る前に頭に叩き込んだ地図を思い出して西の森近くには村なんてなかったと記憶していた。
「そうだ!川近くの村へ救助を寄越さない!貴族に俺の邪魔をされてたまるか!!」
男の子はまた魔力を貯める素振りを見せていた。
それはさっきより強大な魔力だった。
「聞き分けのない子は嫌いですよ。」
「お前も子供だろうが!!!」
怒りに任せて男の子はヒッポに雷撃を喰らわした。
一面が眩い光に満たせるほどの閃光だったが、騎士達は一切ヒッポの心配はしていなかった。
それどころかヒッポに喧嘩を売った男の子を気の毒に思っていた。
「ば、馬鹿な!??」
「この程度ですか?」
光が消えた先には無傷なヒッポが立っていた。




