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夢は夢だった

「どうしてだよ!!!!!!!!!!!」


 子供が膝をついて大泣きしていた。

 それはものすごい勢いで大泣きしていた。

 その側には死屍累々に男女が倒れていた。明らかに大怪我を負っている。

 こんなことになったのは数時間に遡る。



 此処は世界一の軍事力を有するナイトヘブンにある騎士見習いが一流の騎士になるべく国中から集まる街、ナイトナイト。

 ナイトナイトの領主、ナイティー伯爵家の訓練場である。


「100!101!102!」


 そこで子供が大人に変わらない大剣を素振りしている。


「今日も息子はいつも通りか?」


「はい、いつも通り筋トレしています。」


 少し離れた場所で女性二人が小声で話していた。

 何やら頭を抑えて悩んでいるようだ。


「そろそろ、ヒッポ様も10歳です。現実を教えても良いのではないのでしょうか。」


「………………しかし…」


 メイド服に甲冑を合わせたような独特な衣装を着ている女性がヒッポと呼ばれる子供のことを息子と言った女性に意を決して提案した。

 でも、母親の方は勿体なさそうに渋っていた。


「このままではヒッポ様の結婚にも差し障ります。」


「いや、あいつは意外と家事もできるぞ。」


 母親はそう言って少し前の自分の誕生日にヒッポに渡されたペンダントを見ながら言った。

 細かい意匠があるペンダントは如何にも高そうな風格があったが、ヒッポの手製である。


「そう言う問題ではありません。男が戦場で戦うとしていることが問題なんです。」


 メイドは主人にこれ以上何言っても無駄だと考えて、罰を喰らう事を覚悟してヒッポに近づいた。

 それを母親は止めようとはしなかった。自分もいつかは伝えないといけない事は理解していた。

 でも、息子に嫌われるのではないかと及び腰になっていたのである。


「ヒッポ様!」


「どうしたの?アンダル?」


 素振りを一時中断してメイドの事をアンダルと呼んで振り向いた。

 凄い覚悟を決めた戦士の顔をしたアンダルに何を言われるのか不思議でしかなかった。


「ヒッポ様!」


「だから、何?」


「心して聞いてください!この世界に男の騎士は存在しません!」


 アンダルが言った事を一言一句聞き逃す事なく聞いたヒッポはポカンと呆けていた。


「?何言っているの?嘘つきの日は今日じゃないよ。」


「嘘ではありません。事実です。」


 ヒッポはアンダルが言った事が信じられなかったから。アンダルが嘘をついたのだと判断して注意した。


「だって、メイド達や母様が持っていた書物には血湧き肉躍る戦いを女の人と一緒に戦う男性が描かれていたよ?」


「あれは創作です。現実に戦場で隣り合わせで戦う男性など存在しません。」


 アンダルは淡々と事実をヒッポに伝えた。

 その顔は虚無の中に血涙を流してるように感じた。


「あっ!分かった!僕に才能がないから。諦めさせようとしているんでしょう。」


「そんなことありません!」


「そうです!ヒッポ様は天才です!」


「はい!私達の夢の結晶です!」


「そうだぞ!ヒッポ!お前は私の誇りであり息子だ!」


 ヒッポは落ち込みながら言った。

 悲しそうに言うヒッポの姿を見たアンダルや母親、その場にいた騎士達全員がヒッポの言った事を否定して褒め称えた。


「でも………マルサ姉様とデモンは……」


 自分より4歳上の姉と2歳も年下の妹の強さを思い出して自分の弱さを痛感していた。


「いえ、ですから男の子が女と比べる事自体が間違いなのです。」


 アンダルはひとつひとつ丁寧に説明した。

 この世界の生物は男は巣や縄張りを守る事が仕事である。狩りや外敵を追い払うのは女の仕事である。例外の生物はいるがこの世界の9割はこの生態である。

 それは人種も変わらない。

 身体能力も女の方が上、魔法も攻撃主体である。

 逆に耐久性や回復能力は男の方が上である。

 だから、男は後方支援が戦場での役割であり、決して女と一緒に戦う男など存在しない。


「じゃあ、あの本はなんなの。」


「私達の欲望の塊です。」


「バカ!やめろ!」


 純粋な目で聞いてくるヒッポになんで答えたら良いか頭脳をフル回転している者たちを無視して騎士の一人が正直に答えてしまった。


「よ、欲望?」


「はい、人間とは無いものが欲しくなるものなのです。」


「だから!やめろと言っているだろう!バカ!!!」


 これ以上ヒッポに自分達の醜いところを見せるわけにはいかないと暴走して高らかと語ろうとしている騎士を他の人達が取り押さえて物理的に黙らした。


「そんなわけない!男の騎士は実在する!」


「えっ!ヒッポ様!何処に行かれるのですか?!!」


 周りの騎士たちを押し退けてヒッポは屋敷を飛び出して行った。

 ヒッポのいきなりの行動に反応出来ずに皆は呆然とするしかなかった。


「アンダル達が言った事が正しいのか確かめに行く!」


 ヒッポが何処に向かったのか、皆が察した。

 この街が誇るナイトヘブン二大学園の一つナイディア男聖学園である。

 そこでは回復魔法と防御魔法など後方支援を学ぶ学園である。

 ヒッポには騎士としての技と信念を磨く場所と教えていたので、アンダルが嘘なら此処も嘘となると考えて行ったのである。


 そして、現在に戻る。


「ぐずっ。ほ、ほんとうに、存在しないのか……」


 道場破りの如く学園に討ち入りしに来たヒッポは出てくる人たちを片っ端から倒して行った。

 最初は男性を積極的に狙っていったが、情けなく倒れる男性に絶望し、男性を守る為に来た騎士たちを鬱憤を晴らすように蹴散らしたのである。


「弱い、皆が弱いよ。」


 ヒッポの身体は無傷だが、心はボロボロになっていた。

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