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ラネット、レイラの二人と食事の時間まで別れて俺は自分の部屋の中を確認する。部屋に入ると思ったよりも広くて驚いた。
扉と扉の間隔でおおよその広さは想像していたが奥行きまでは想像していなかった。
内装は華美ではないが装飾が施されており、もう少し減らしてシンプルにしたいところだ。
あとは備え付けにベッド、クローゼット、テーブルセット、ソファなどがあったが驚くことに室内シャワーとトイレまで付いていた。
それだけではなく、既に夜なのだが部屋の中はしっかりと明るかった。
火を使ったランプではないようだが、あまり高くない天井に取り付けられた装飾の中心で鉱石のようなものが光を放っている。
「こんなんちょっとお高めのホテルと同じ設備だぞ……」
一通り部屋を見たが、異世界であるというのにこの設備はちょっとおかしい。
師匠と住んでいた家はもっと不便で灯りや風呂、トイレは基礎魔法で動かしていた。
というよりも基礎魔法が扱えなければ生活もままならなかった。
攻撃魔法とは違って一定の魔力量でのみ発動できるが威力の上限が低いため、俺やレイラのように保有魔力の多い魔法使用者は魔力量の調節を訓練する。
調節ができるようになれば攻撃魔法や防御魔法を扱う力も強くなる。
魔法使用者にとっては戦えるようになるために必要な技術として考えられているため下級魔法と呼ばれているらしい。
そして一般人にとっては練習すれば誰でも使える便利な技術であるため、生活魔法と呼ばれているようだ。
つまりは基礎魔法を使えなければ生活ができない世界であるのに、俺が元居た地球と同じようにノブを捻れば水が出るというスタイルの設備であったことがおかしかった。
こんなに便利な部屋である理由はいくつか思い付きはするが、あとでラネット……いや、ムーイルさんに聞けばわかるかもしれない。
ビジネスホテルでは収まらないグレードの部屋と同じ内容に驚きつつも家具のガタつきがないことや水がしっかりと出ることを確認した後、換気のために窓を開ける。
すると城下町が一望でき、少し肌寒い風が吹き込んだ。
こうして高い所から見てみると国というだけあり、かなり広いようだ。
西門から中央広場までもそこそこ歩くくらいには遠かったし、南側と言われた商店街の先には家々が並びもう一つ別の広場もあった。
これだけ広いと巡回警備だけでも大変だろうな。
街並みは綺麗だが換気はこれくらいにしておいて俺はベッドへと横になった。
今日一日で色んな事があった。
狐のスカーデとの遭遇、門番との悶着、ジグとの戦闘。
シェネラのおかげで強くなり、師匠の下で修業したとはいえ、さすがに疲れた。
ベッドはふかふかで柔らかいが沈みすぎずで満足だ。
横になっていると少しウトウトしてしまうが夕食までは起きてないと――
瞼が閉じかけているところで不意にドアがノックされる。
「ウィレムさん? 私です、レイラです。」
急な来訪に驚き飛び起きてドア開ける。
レイラが先ほどまでの着の身のまま刀も置かずにやってきたようだった。
「どうした? 休まないのか?」
「ちょっと話がしたくて……。 もしかして寝ちゃうんじゃないかと思いましたし。」
俺の行動がわかっているのか気にかけてくれたのかはわからないが、なにやら話があるとのことで部屋の中へ入れてテーブルセットの椅子に座るよう促す。
もてなしの何かがあるわけではないので俺はすぐにレイラの向かい側へと座ると同時にレイラは話始める。
「今日はありがとうございました。」
どうやらお礼を言いに来たようだが、一日の内お礼を言われるようなことは一つしか思いつかない。
しかもその一つもよくよく考えれば俺がする必要のなかったかもしれないことだ。
「何が?」
「門番とのやり取りとジグさんとの戦いのことです。」
「門番のは別にお礼言われるようなもんでもないだろ。」
「いいえ、疑われた時に私は何も言えませんでした。 考えているうちに全部ウィレムさんが誤解を解こうとしてくれて…… あ、半分は誤解じゃないんでしたっけ……。」
『魔女の子』だのなんだのと門番と一悶着あった時のことを思い出しているのか、少し暗い表情をするレイラは話を続ける。
「あの時、私も弁明のために何か言うべきだったのにウィレムさんが喋っているから口を挟まないようにしなきゃと自分に言い訳して何もしなかったんです。 すみませんでした。」
正直、そこまで考えなくてもいいのにと思うがレイラは相手や周りのことを考えすぎる。
弱点とまでは言わないが長所でもあり短所というやつだ。
「門番との件については偉そうなことを言うけど、次に何か似たようなことがあった時にでも一緒に弁明とか説明とかしてくれればいいと思う。 今回のはそこまで大変な事態になったわけじゃない。 チャンスが次にあるって考えて欲しい。 だからそんなに落ち込まないでくれ。」
フォローを入れたつもりなんだがレイラの暗い表情は晴れない。
「あとジグの件だけど、今思い返せば俺が割って入る必要もなくレイラなら倒せてたと思う。 ただ俺は咄嗟に動いちゃったんだ。」
ジグは相対した時にはわからなかったが、手を跳ね除けた際に一瞬触れたことでおおよその強さがわかった。
あの時ジグはかなりの勢いでレイラに迫り、無理やり掴もうとした手はしっかりと力が入っていたし、全速で迫っていた。
だが俺にとっては力は弱く感じ、遅かった。
それはレイラにとっても同じだったと思う。
俺とレイラの力の差は同じではないけど、そこらへんの輩にやられるような弱さじゃない。
だから俺が割って入ってしまったのはレイラに役不足を突きつけるような行動だったし、いくら考えても静観はできなかったから何度でも同じように割って入ったと思う。
「私は、咄嗟でも庇ってくれて嬉しかったですよ。 本当にありがとうございました。 でも次は自分でもしっかり戦いたいと思います。 今回は庇われたけどいつもお願いできるわけじゃないですし、ウィレムさんや他の人をいざという時に守れません。」
お礼だけではなく何か決意したような顔で俺を見るレイラはとてもいい顔をしている。
「そっか……たしかにそうだな。 庇わなくなるわけではないけど俺も協力するよ。 頑張ろう。」
「はい……!」
子供のころから何度もこういったことはあった。
転生してからファンタジーの知識とかシチュエーションの一部を教えたが生きるために必要なことは師匠が教えたことだ。
それでも体の動かし方や魔法の出し方などで理解が及ばないことが多い時は俺がアドバイスすることも多かった。
だが、レイラが教わったことを思うようにできなかった時は俺に対して決意表明のように話をして自分の中の整理を行い、乗り越えることがあった。
師匠は依存だと言ったが俺は嬉しさもあり構わないと伝えて、それ以降はいつの間にか当たり前となっている。
俺もなんでもできるわけじゃないし、まだまだ勉強することが多いからミスだってある。
だけどある程度コツを掴んだり、いろいろな動きを考えるのが得意なのでレイラよりも少しだけ前を歩いてる。
そんなところを尊敬してくれているのかもしれない。
レイラの決意が籠った顔から笑顔へと変わったすぐあと、部屋をノックする音が聞こえた。
「ラネットよ。 ウィレム、いる?」
「あぁ、すぐ開けるよ。」
どうやら訪問者はラネットのようでおそらく食事時となったため呼びに来てくれたのだろう。
どれくらいの時間かはわからないが解散してから1時間ほどは経っていると思う。
軽くレイラの頭を撫でつつ、ドアへと向かって開いてラネットを迎える。
「食事の時間になったから呼びに来たわ。 あら、レイラもいたのね。 一緒に行きましょう。」
ラネットに誘われ食事へと向かうため、椅子から立ち上がるレイラの顔は少し赤らんでいた。
無意識に頭を撫でてしまったからだろうか、少し気恥ずかしそうに俺たちのほうに向かって歩いてくる。
「お腹空いたね。」
「はい、ほとんど食べてませんでしたからね。」
「さ、ムーイルさんたちが待ってるわ。」
レイラがちらちらとこちらを見ているところ悪いが、今は腹いっぱい食べて早く眠りたい……。疲れから来る考えに抗えず、この後の食事は一体どんな料理が食べられるのかと意識が向きつつ、ドアを閉めた。




