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ドワーフと別れた後、宿舎への玄関口をくぐると広めのエントランスが目に入った。
だが俺とレイラが関心する暇もなくラネットはどんどん先へと進んでいくので話しかけてみることにした。
「ラネット?」
声をかけられてハッと気づいたかのように俺たちの方を見るラネットの表情は暗いくなってしまう。
「ごめんね。 あの人、ドワーフのドルグスさんって名前なんだけど、苦手なの……。 すごい人なのよ? ムーイル様の次に長生きで名匠って呼ばれるほどの鍛冶師で……」
そのドルグスさんのことは尊敬をしているようだが、言葉が続かないその先にある苦手な理由は言いたくなさそうだった。
「誰だって苦手な人はいると思いますから、言いたくないなら言わなくて大丈夫ですよ。」
「そうだな。 無視する人より良いと思いますね。」
ラネットのフォローをしたのはレイラだった。
同じ女性だからだろうけど、何か理由か気持ちがわかるのかもしれない。
「二人とも、ありがとう。 苦手ということは秘密にしてくれる?」
俺たちが同時に頷くとラネットは安心したような表情になった。
それから階段で最上階である3階まで上がると廊下の両側に扉があり、真ん中あたりの左側の部屋の前で足を止めた。
「ここが二人の部屋よ。 兄妹って聞いてるから隣同士にさせてもらったわ。 もし変えたい場合は私かムーイル様に言ってね。 ただ3階の中でしか変えてあげられないからそこだけは我慢して。」
「変えるつもりはないんですが、なぜ3階だけなんですか?」
「そうそう二人とも、敬語でなくてもいいのよ。 その方が話しやすいわ。」
「私はこの方が話しやすいので、すみません。」
「じゃあ、俺は遠慮なくくだけさせてもらう。」
俺が敬語だったのは名前以外に許可されてなかったからだが、レイラは前世でも誰に対してもずっと敬語だった。
俺と二人の時はたまにタメ口になる瞬間もあるが、今回と同じように敬語じゃなくてもいいぞと俺から働きかけた時も敬語のままを希望したので強要はしなかった。
「そう、それならそれで大丈夫よ。 で質問の回答だけど、なぜ3階だけかというと宿舎内での生活空間を分けているからなの。」
「竜騎士は3階だけってこと?」
「その通りよ。 竜騎士は3階のみだからムーイル様も私も同じ階よ。 ちなみにムーイル様は階段からすぐ右の部屋よ。 私は階段からすぐ左の部屋だからムーイル様の前の部屋ね。」
なるほど、たぶんバランス的に真ん中が空いてるから俺たちをあてがったんだろう。
隣同士なのはジグ対策かな……。
「2階は宿舎と詰所の掃除や炊事とかをする翼竜隊の子が寝泊まりする用にしているわ。 1階は夜間の警備とか早朝任務のある子の部屋ね。」
つまり俺たち以外は全員が翼竜隊の人ってことか。
「ちなみに翼竜隊ってどんな部隊なんだ? イマイチわからないんだが……。」
「あ、そうね! 翼竜隊はシェネラを持たないけど『翼竜の腕輪』と相性の良い人間で構成されている部隊なの。 その腕輪でワイバーンと契約してて、主な任務は巡回と荷運び、私たちの身の回りの世話をしてもらってるわ。」
「ほとんど雑用係みたいなものか」
「その言い方……、誤解しないで欲しいんだけど、私たちの身の回りの世話に関しては彼らから提案されてお願いしていることよ。 決して強要はしてないわ。」
「ごめん、俺も言い方が悪かった。 でもなんで進んでやるのかわからないな。」
人数はわからないが巡回はローテーションを組んでるとは言え空いてる時間は他の任務をしてるだろうし、荷運びなんかはそれなりに時間もかかる。
なのに俺たちの身の回りの世話は炊事、洗濯、掃除、片付けなど時間も労力もかなり使うためほとんど分担内容によっては1日作業になる。
そんな大変なことを進んでやってるのはおおよそ一つくらいしか理由がない。
「彼らが進んで雑用をやってくれているのは……、戦えないからよ。」
「戦えない? ワイバーンがいるのに?」
「ワイバーンにはこちらの意思は伝わっても100パーセント従うわけじゃないから、街中で戦わせることはできないの。 それに外だったとしても彼らはワイバーンがいなくなってしまえば身を守ることも敵に攻め入ることもできない弱い存在に変わってしまう。 だから彼らは戦えない代わりに私たちの負担を減らすことを考えて雑用でもなんでもやると言っているわ。」
そう語るラネットの表情はまた暗くなってしまった。
ただし先ほどとは違い、憂いの含んだ顔だった。
「その世話って俺たちだけじゃなくて、獣人とか巨人のところでもそうなのか?」
「私たちだけよ。 巨人は対格差がある以上に竜に連なる者からの支援は受けられないって。 獣人はそれぞれ人数もいるし自分のことは自分でやるから。 それにそもそも翼竜隊は今の人数でも巡回の手が足りてないのに頼めないってみんなわかってるのよ。 ただ私たちは竜に繋がる者として神聖視されている節があるから受けるしかなかったの。」
そんな経緯があったとは思わなかった。
ということは訓練場で皆が笑顔だった理由は……。
「神聖視か……、手放しで良くしてくれるのは気分がいいかもしれないがちょっと嫌だな。」
「私もそう思います。 ちゃんと見て欲しいですと思います……。」
「もちろん、みんながみんなそうじゃない! でもたった4人しかいないの! けど私たちが最終防衛線だから何があっても私たち竜人が何とかしてくれると、そういう声があるのもわかるのよ。」
大いなる力を持つものには相応しい責任がある……とかなんとか、ノブレス・オブリージュというやつかな。
なんかそんな感じだったような気がするけれど、俺たちには魔物やスカーデなどと戦うための力がある。
この力は誰かを助けるために使える力だ。
だからむやみやたらと力は振るわず、必要な時に使う心構えは持っておくべきだと思う。
ムーイルさんやラネットが同じように考えているとは限らないが、俺たちも今日からその一員となって責任を背負う。
ただ、街の多くの人が竜人や竜騎士だからとは言わず普通に接してくれることを願いたい。
その方が気が楽だから。
「とりあえずいろんなことがわかってよかった。教えてくれてありがとう。」
「うん。 街でみんなに会ってみて。ちゃんと私たちを見てくれる人は多いから。」
「あぁ。 それと翼竜隊の子たちには労いをちゃんと言おうかな。 それくらいしかできないのも心苦しいけどね。」
「そうですね。 声をかけて仲良くしましょう。」
「私もよくそうしてる。 恐縮されるけどね。」
「何もしないよりはいいと思うよ。」
「ありがとう。 そろそろ部屋の確認した方がいいと思うわ。 食事の時間までもう少しだけど、また声をかけに来るから。」
「わかった。」
少し長話になってしまった上にラネットの思いが弾けた会話になったが、少しでも騎士団の雰囲気がわかって良かった。
「じゃあまたあとで。」
ラネットからそう言われ、一度解散する。
さて、俺の部屋はどんな感じなんだろうか。
出来ればシンプルな洋室がいい。
そんな想像をしつつ、少し高揚した気持ちと共にドアを開けた。




