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騎士団の仲間に入るため、俺とレイラは団員へと挨拶を済ませるも団員からの挨拶が始まる直前で横やりが入る。

先ほどまでラネットは穏やかで暖かく向かい入れられそうな雰囲気だったが横やりを入れられてしかめっ面になっている。

他の皆もあまりいい顔ではなく、むしろ暗く見える。


「ジグ、まさかずっと部屋にいたの?」


「あ? だったらなんだ。」


「声をかけたのに起きなかったのね。」


「起きるかどうかは俺が決めんだよ。起こそうとすんじゃねぇ。」


大きな溜息を吐いて、より顔をしかめるラネットは嫌悪感を隠そうともしない。

ラネットとジグのやり取りを見ていた俺のジグへの印象は見た目通りというか予想通りであまり変わらず、傍若無人な態度している。

あとはこの二人の関係は対照的であるがゆえにあまり良いわけではなく、睨み合っている視線からは不穏さが感じられ、仲が悪いことがわかった。

その睨み合いも数秒程度で終わったが、ジグの視線が俺の隣……というかほぼ後ろにいるレイラに向けられた。

あ……これは、まさか…………


「ほぉ~、良い女じゃねぇか!」


歓喜の声を上げるジグの目はレイラの全身を舐めまわすかのように見ている。

なんとも予想通りでやっぱりこうなったかと自分の直感に落胆した。

ジグはそんな俺のことは見えてないようでズンズンとレイラに向かって歩いてくる。

それに対してレイラは俺の背中に隠れるように移動する。


「隠れないで部屋に来いよ。俺は竜騎士だ、イイ思いをさせてやるぜ?」


俺のことは見えてないのか見ないフリをしているのかわからないが本当に俺のことなど意に介さずニヤついた顔でレイラに話しかけている。

一方、レイラは嫌がっているのは顔に出ていなくても背中に感じ取れるが


「お断りします……!」


少し強めの語気で断る。

自分で断るのは勇気が必要だっただろうなと思ったが俺の服を掴んだ手が震えていることから、本当は怖いのだとわかった。


「どうして女ってのは断るのかねぇ、抱かれるだけで気持ち良くなれてついでに守ってもらえるってのによ。 街の女なら聞き入れることもあるが、その珍しい黒い髪と体つきや肉付きの良さは見逃せねぇな。 どうせ同じ屋根の下に住むんだから黙って俺に抱かれろよ。」


たった一度の断りでずいぶんとイラついたようだ。

指や足のつま先でイライラしたしぐさを始めた。

俺としてはイラつくほどなのかと疑問が浮かんだが、まずは事を収めるために動こう。


「あなたは趣味じゃありませんし、守っていただかなくても自分で自分を守れます!」


「なんだと……? あー、うるっせぇな。 来い!!!」


俺が動く前にレイラが断りの追撃を入れ、それに反応したジグは強行策に出た。

短気すぎると思いつつ、ジグの伸ばされた手を俺が横から払うようにして妨害する。


「あ? なんだテメェは。」


「この子の兄だよ。」


「兄? 兄だからなんだよ、割って入ってくんじゃねぇぞクソガキが!」


「いやいや大事な妹に手を出そうとしてるんだから邪魔するに決まってるだろ。」


どんどん怒りのボルテージが上がっていくジグは先ほどラネットと睨み合っていた以上の眼光で俺を睨みつける。

俺は対抗するようにレイラの前から梃子でも動かぬ姿勢でジグを睨み返す。


「いい度胸じゃねぇか。 どけっ!!!」


有無を言わさず殴りかかって来たことで俺の中で正当防衛が成立した。

この国の法律に正当防衛があるか知らないがとりあえず、こいつは叩いておかないとレイラが危ないので戦いになって好都合だ。

ジグの拳は今まさに俺の眼前に迫っているが後ろにレイラがいることから受け止めるしかない。

俺は左手でジグの拳を受け止め、手のひらをを突き出すように力を入れてジグを押し出した。


「レイラ、下がってて。」


「すみません、ウィレムさん……。 でもやりすぎたらダメですよ……。」


「わかった。」


本来は自分がやることと思っているだろうレイラを下がらせて俺はジグに迫る。

対してジグも俺に向かって来ており、低く飛び上がりながら右拳を振り上げていた。


「らぁっ!」


奴の右拳を外側に移動するように避け、右わき腹に裏拳を叩き込んで呻き声を聞くまでもないように吹き飛ばした。

そのまま100メートルほど先にある壁に激突するかと思ったが、ものの数十メートルで空中に叩きつけられて地面に倒れこむ。

不思議に思った俺は魔力感知で結界が張られていることに気づいた。

先ほどまで自分がいた方向に目を向けると、ローブを身に纏ったエルフの女性が魔法を発動しているようで、こちらの視線に気づいたエルフの女性が軽く頷く。

どうやら思いっきり戦ってもいいように気を利かせてくれたようだ。

こちらも同じように軽く頷いてジグの方に向き直ると結界に激突した衝撃が強かったのか打たれた右わき腹を手で押さえながらようやく立ち上がったところだった。

そして痛みが和らいだのか収まったのかジグは突進して来る。

その眼にはまだ殺気が灯っており、まだまだ戦えるようだ。

今度は俺の数メートル前で止まり、しっかりと足を付けて右ストレートを放つ。

さっきから思っていたがこいつの速度は師匠どころかレイラにも及ばない。

本当に竜騎士かと疑いたくなるレベルだ。

俺にとって遅すぎる右ストレートを避けつつ、俺も今度は背負い投げでジグを地面に叩きつける。


「かはっ……!!」


背中を強く叩きつけられた衝撃で呼吸が短く止まった声が聞こえる。

そして衝撃によってまだ動けないところを狙い、ジグの右脇に素早く立って俺は右足を振り上げる。

足で狙うのは奴の股間。

潰してしまえば女性が泣くことはなくなる。

俺も男なので傍から見ていたら血の気が引いていただろうが、今は戦いの最中の興奮状態が故に躊躇なく振り下ろす。

しかし危機を感じ取ったジグに寸でのところで避けられてしまった。


「チッ……!」


「テメェ……!」


俺の狙いが解ったジグの顔は痛みが見える表情でありながらもさらに怒りが増していた。

怒りが増しつつも冷静さがあるのかはたまた警戒したのか先ほどまでの攻め気が無くなり、20メートルほどの距離を取ってこちらの動きを待っているかのように構えている。

戦い始めて10分ほど、だらだらと続ける気はないため決着をつけたい。

俺は短く息を吸い、ジグとの距離を数歩で詰める。

今までの倍の速度で詰めたため、ジグは知覚が遅れる。

視線がこちらに向いた時には俺の拳がジグの胸を突き、最初と同じように体を結界の境界面まで吹き飛ばす。

結界に叩きつけられたジグの体が落ちる時間を与えないよう間髪入れずに再度距離を詰め、後ろに引き魔力の込めた両腕を最速で腕を突き出して魔力衝撃波をジグの全身に叩き込んだ。

全身にダメージを与えつつノックダウンを狙った死なない程度の魔力に留めているが、魔力衝撃波の凄まじさにジグの体が耐えられず、骨の折れる音が複数回する。

そして数秒の間継続された攻撃だったがだったが結界が割れてしまい、ジグは地面に倒れた。


「はっ、はっ……」


呼吸が浅くが乱れているのは先ほどの魔力衝撃波が技でもなんでもなく、咄嗟に思いついたものによる反動だ。


「ウィレムさん……!!!」


戦いが終わり、腰の曲がった俺を見たレイラが駆け寄って来る。

俺の正面に周ってきて見えた顔は心配そうだ。


「大丈夫ですか!?」


「あぁ、ちょっと雑に魔力制御したから呼吸が荒いけど大丈夫だよ。心配ない。」


「そうですか……。」


少しほっとした顔になり、俺を見る目が優しくなって安堵の表情になった。

そしてまだふらつく俺の体を支えてくれた。


「ジグはどうなったの?」


後からやってきたラネットは俺の横まで来て立ち止まり、ジグを見て聞いてくる。


「死んではいません。 気を失っていますが骨は複数折れて、内臓にもダメージがあるはずなので数日は動けないと思います。」


「そう……、ならしばらくはこのまま大人しくしていてもらうわ。」


ふと見えた横顔は怒りでもなんでもなく無表情だったのが印象に残ったが理由はわからなかった。

そしてこのタイミングでムーイルさんが戻ってきた。


「これは……、ジグが暴れたのですか。」


ジグは度々暴れていたのか、場の状況を見ただけでアタリを付けて聞いてきた。

俺の姿を見れば戦ったことはわかるはずだが……。


「暴れたというのは合っているのですが、レイラに手を出そうとしたジグをウィレムが返り討ちにしたのです。」


ラネットの簡単な経緯説明を耳にして、ムーイルさんは少し驚いたような顔で俺を見る。


「ウィレムさんが倒したのですか……。 申し訳ありません、そしてありがとうございます。」


謝罪と感謝を同時に述べられた上に頭まで下げられてしまい恐縮してしまう。


「いえ、こちらこそまだ団員でもないのに手を出してしまってすみません。」


「何を言いますか、お二人は既に竜騎士であり団の一員ですよ。 でなければ挨拶などさせませんし、そもそもここまで連れてきません。」


たしかにそう言われればそうかと納得する。

こんなにすぐに受け入れられるとは思っていなかったため、胸の中が嬉しさで暖かくなった。

その後、ムーイルさんはジグの容体を聞くや否や団員達に座らせて起こすように指示を出した。

魔法隊の一人が魔法で水をかけ、ジグを無理やり起こす。


「ジグ、気分はどうですか。」


急に起こされたためジグはまだ混乱しているようだ。

目は上手く見えておらず、耳も良く聞こえていないようだ。

もう一度、水をかけられてようやくジグははっきりと意識を持った。


「ぐあぁ、なんだ!? 水? それに痛ぇ……!!」


意識がはっきりして折れた骨や内臓の痛みを認識し、顔を歪める。


「ジグ、気分はどうですか。」


「最悪だよ……! クソジジイが!」


「あなたの行動が招いた報いです。 それに最悪な気分はこっちのほうです。」


そう口にしたムーイルさんの雰囲気は顔を見るまでもなく怒りに満ちていた。

しかし同時に悲しみの混じった声にも聞こえた。

何があったかはわからないがムーイルさんにとって悲しい出来事があったことだけはわかった。


「何言ってやがる……、この俺よりも最悪なんてあるわけねぇだろバカが……!」


「いいえ最悪ですよ。 あなたはついに罪を犯しました。 というよりも明るみに出たというほうが正しいでしょう。」


罪という言葉に反応し黙るジグの顔は未だ真顔だ。

理解していないというよりは分かっていながらしらばっくれようとしているような感じがした。


「先ほど城下町にてあなたを探している際に遺体が見つかりました。」


ムーイルさんの話す声は終始震えている。

怒りなのか悲しみなのかその両方か……


「はぁ!? 俺だって言いてぇのか!? だいたい……」


「証拠はあります!!!」


大きく荒げた声で言葉を遮るムーイルさんは……泣いていた。

握った拳は血が滲んで地面に滴り落ちていた。


「目撃者がいたのです。 あなたが遺体で見つかった生前の若い娘と連れ込み宿に入っていくところを見たと。」


「だから! 見ただけ入っただけで俺だって証拠にはならねぇだろうが!!」


「魔力の残滓です。」


「は……?」


「あなたは最近、竜人になったばかりだ。 それに性格上、魔力などについて性質を理解などしていないでしょう。 だから知らないんですよ、私たちは物に触れると魔力が残ることを……! これは個人の特性が出るため特定することが可能です。」


「なんだそれ……」


「あなたはもはや竜騎士どころか竜人ですらない。 ただの殺人者と成り果てました! よって現時刻をもってあなたを強制国外追放とします!」


「国外追放ですか……!? 断罪が適当なのではないですか!?」


ラネットの言うことはもっともだ、俺としても打ち首が適当だと思う。

人を殺しておきながら国外に追放するだけというのは生ぬるい気がしてならない。

そう考える俺の体を支えてくれているレイラの手が震えていることに気づき、おそらく追放処分が妥当ではないと感じているのだと思った。


「今、ジグの体はボロボロです。 この状態で野に放たれれば魔物やスカーデに喰われ、命を落とすことは確実でしょう。 亡くなった娘さんのご両親からなるべく苦しんで死ぬ刑を望むと頼まれましたのでそれを考慮して追放です。」


なるほど、遺族からの依頼ならある意味で妥当かもしれない。

ただ……


「……ご遺族のお考えを踏まえた上でのご決断であれば私に異論はありません。 ですがジグの死亡確認は誰がするのですか?」


それだ、追放して野に放置しても万が一助かってしまった場合が考えられる。

もしもそうなってしまった場合はジグの性格が傍若無人で粗暴であることからも時間がいくらかかろうと復讐のためにクラムデリアまで戻ってきて街の破壊や多くの人を殺しかねない。

そして最終的に騎士団の信用が落ちる可能性もある。

だからこそ命尽きる瞬間を見届け、確実な報告をすべきだがジグだけでなく報告者も同様に危険にさらされる。


「それについては断末魔を聞く仕事になってしまうので確認する人の精神が持ちません。 なので私が魔物かスカーデの多いところに放り込みます。」


ムーイルさんは長く生きているので本人が言うなら大丈夫なんだろう。

しかし本当に大丈夫かと思ってしまうのは今日出会ったばかりだからだと思う。

刑の詳細が決まっていく中、ジグは終始罵声を放ち続けるがムーイルさんとラネットは話を止めない。

殺人以外にも目に余る行為で迷惑がかかっていたのかもしれない。

詳しいスケジュールが決まったところでムーイルさんは改めてジグに向き直る。

ムーイルさんの決意が籠った眼を見て何がどうでも覆らないことを悟り、抗うことを辞めたジグはうなだれている。


「ジグを磔に……。」


指示を受けた巨人族の一人が人間より少し大きな丸太を運んでくる。

そして地面に突き刺した丸太に磔るために側にいるジグを立たせた瞬間、遠目にいたはずの狼の少女が瞬く間にジグの前にしゃがんだ状態で現れていた。


「エルs……」


事の結末を察したムーイルさんが名前を呼び止める暇もなく、エルなんとかという狼の少女は力いっぱいのアッパーでジグの胸を打ち、その衝撃音と共に遥か彼方へと姿を消してしまった。

その一瞬の出来事は俺やレイラを含めて皆驚いたまま固まってしまった。


「あちゃー……」


やってしまったと言わんばかりの声が俺の後ろから聞こえ、振り返ると狼人族全員が頭を抱えていたがすぐに数名の狼人が狼少女に駆け寄り、怒りはしないが咎めている。

その様子を見てか、ムーイルさんとラネットは怒ってはいないようだ。


「……やってしまったことは仕方ありません。 死亡確認はできませんが、おそらく生きることは不可能だと考え、断罪は完了とします。」


ムーイルさんは子供の行いは致し方なしと判断したようで、テキパキと団員に指示を出している。

俺が見た狼少女は少女というだけあってまだ子供、俺たちよりも若く見えるため頭で深く考えるよりも先に体が動いてしまったのかもしれない。

それだけジグに対して恨みを持っていたか嫌いだったのかはわからないが感情が爆発して動いてしまうほどの険悪な関係だったことだけは想像がついた。


「とりあえず夜も近いので本日は解散としましょう。 挨拶が済んでいない方々は後日に個別で周ります。 ラネットさん、ウィレムさんとレイラさんを部屋に案内していただけますか。 私は事後処理をしなければならないので食事の時にまた会いましょう。」


「わかりました。 じゃあ案内するわね、こっちよ。」


団員が解散して詰所を出ていく中、俺たちもラネットの案内で宿舎へと向かう。

宿舎へと続く道の途中、門扉の近くで数人が覗き込むようにしてこちらを見ていることに気づく。

小人……だと思うが一人は髭を生やした屈強な体躯をしているのでドワーフかもしれない。

そのドワーフは俺の視線に気づくや否やこちらに向かって走ってきた。

ラネットはドワーフに気づいて足を止めたので俺たちも同じように止まる。


「ラネット、少しいいか。 こいつらの装備の話だ。」


「はい。 さっきのことがありましたから、明日出なくても構いません。」


ラネットは話の内容を知っていたのか直接回答を返す。

おそらく俺たちの分の装備は事前に発注する手はずだったのが、ジグとの一戦で採寸などができなくなってしまったので納期が延びるってところだろう。


「おう。 わかったが挨拶兼ねて他よりも先に来るように調整してくれ。」


「はい、そのようにムーイル様と調整します。 それと、本日は無駄足を踏ませてしまい申し訳ありませんでした。」


「構わん。 その小僧の強さを見れただけでも来た甲斐があったからな。 気にするな。」


年齢的には合っているけど小僧呼ばわりは不服だ。

にしてもラネットはずいぶん畏まった態度を取るので気になった。

割と親しみやすそうな人だと俺は感じているのだが、何かあるのだろうか。


「ありがとうございます。 ではまた後日、お願いいたします。」


「またな。」


まるで嫌がっているかのように話を切り再度歩き出すラネットに少し遅れて付いていく。

歩き初めにドワーフを見ると俺を見て笑顔になり、軽く手を振ってくれていたので小さく会釈をしてその場をあとにした。

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