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クラムデリアに到着して門番との一悶着の後、迎えに来てくれた騎士団長:ムーイルさんの後について騎士団の詰所までの道を歩いている。
門のすぐそばは整っていたため綺麗な街並みだと感じたが途中にあるいくつかの小道の先には整っているとは言い難い暗い雰囲気と荒れた場が見えた。
いわゆるスラムというやつだろうか。
人はいなかったが良い環境でないことは見て取れた。
ファンタジー小説でよくあるし、転生後に貧富の差を見ることになる可能性も想像してはいたが実際に目にしてしまうと悲しい気持ちになった。
「ユーラと私は古い友人なのですが、お二人から見てどんな印象でしたか?」
気落ちしたのを悟ったのかムーイルさんが気を利かせてくれたようだ。
師匠:ユーラはエルフ族で、災厄の生き残り。
災厄とは『天禍の三竜』という強い力を持った三体の竜によって引き起こされた天変地異のことを指すらしい。
その災厄を師匠は乗り越えて生きてきた。
だが師匠は悪人で過去に虐殺を行った前科があり、五つすべての国に入国できない。
虐殺の理由は聞けなかったが何か理由があると俺は思っている。
だからこそ嫌いにはなれないのだが、修行内容はハードを通り越して死にかけることも何度もあった。
その点に関してのみ言えば嫌いである。
ぶっちゃけ複雑な感情で、印象を答えようにも一言で言い表せない。
なので今までのことを思い返して出た答えは
「人でなしです。」
こう答えるしかなかった。
悪人らしいがはっきりと感じてはおらず、恩義があるため一定の好意はある。
だが鬼畜な修行内容で好意はなくなり敵意が芽生え、殺してやろうと立ち向かっても返り討ちに会う始末。
その後にある修行中にはなかった小さな優しさが感覚を狂わせたからだ。
飴と鞭かと考えたこともあったがそのレベルを遥かに超えているとしか思えなかった。
「さぞ厳しい修行だったのですね……」
俺の答えを聞いてムーイルさんは少し頭を抱えていた。
その様子を見て師匠は無理に鬼畜な修行を課していた可能性を感じた。
ムーイルさんはおそらく見た目通り温和な老紳士だ。
清廉潔白かはわからないがある程度信頼してもよさそうな人だと思う。
だからこそ、そんな彼が師匠を『友人』だというのは社交辞令でもなんでもなく、本当にそうなのだと思ったからこその可能性だ。
もしかしたら今度師匠に会った時に見方が変わるのかもしれない。
ちなみにレイラは遠い目をして思い出したくなさそうな顔をしていた。
………………
…………
……
それからしばらく歩くと広場のような場所に出て足を止めた。
今まで通ってきた道を含め、車六台は並んで通れそうなくらい広い道が左右前後に通っている。
おそらく多くの人や荷車が通るためだろう。
だが今の時間帯は人の姿はちらほらといる程度だ。
「ここが中央広場です。人通りが一番多いのですが今は夕刻ですからほとんどいませんね」
「日中はどれくらいの人が歩いているんですか?」
俺たちは転生後、師匠を含めて三人でずっと生活していたため他人がいる環境は初めてだ。
純粋に人の多さが気になったであろうレイラの質問はどれだけの人がいて守る対象なのかという疑問からの質問のように思える。
「歩く人が途切れないほどです。ただ隙間がなく、歩けないほどではありません。」
答えを貰い感心するレイラの顔はすごいと書いてあるようだ。
なんとなくイメージしたのか、レイラの左手は自然と刀の柄の上に置いてあった。
俺も気になったことをついでに質問する。
「ここからどういった所に行くことができるんですか?」
俺の質問を受けてムーイルさんが指をさしながら説明を始める。
「今歩いてきた通りが中央東通りですから今は西を見ており、左手が南中央通りです。今は店じまいされて面影はありませんが商店街となっています。次に正面の西中央通りは西区居住地です。そして最後に右手の北中央通りには主に学校や大病院などの公共施設があり、一番奥に我々の詰所があります。今説明した以外にも食事の店や宿などもありますが追々で良いでしょう。」
説明された南の商店街は日中用なのか今は出店の天幕は下されており、商売をしている人は誰もいなかった。
西区居住地の方は明かりがちらほらと灯った家々が並んでいる。
おそらく一番大きく広い居住地なのだろう。
最後の北側は坂道と階段になっていて詰所は高い位置にあるように見え、それ以外には学校や病院のように見える建物や貴族でも住んでそうな大きな洋館がいくつかあった。
「遠目から見ていた時も思いましたが大きな国ですよね。」
「そうですね。他に四国ありますが一番大きいと思います。」
他の四国というのは西国:カラチェム、南国:ライオビス、東国:ノトルフ、中央国:オルトヴェリシェンだ。
それぞれ象徴がおり、カラチェムが不死鳥、ライオビスが金獅子、ノトルフが神狼、オルトヴェリシェンが人、クラムデリアは竜がそれに当たる。
「守るのは大変かと思いますが幸いにして仲間は多い。お二人にも身を粉にして働いてもらいますのでそのつもりで。さて、他の紹介は後日にして詰所へ急ぎましょう。紹介したい人たちを待たせてあるのです。」
それから緩やかな坂を上り、階段を上がり、また坂を上る。そうしてようやく騎士団の詰所へと到着した。
目の前の簡単な門扉は過度ではないものの装飾が施されており、如何にも騎士っぽい雰囲気を感じる作りだ。
門扉をくぐったあとはすぐに思ったよりも小さいが詰所のようだ。
「ここが騎士団の詰所です。隣の大きな建物が宿舎です。中を案内する前にこちらの訓練所へ行きましょう。みんな待ってるはずです。」
宿舎の大きさから大体100人は余裕で入っているように見える。
もし本当に100人と共に生活するのかもしれないと考えると少し気が滅入る。
迷惑をかけるつもりはないがかけられたくもないのでそこだけが心配だ。
そんな心配をしながらムーイルさんの後をついていくとイメージしていた訓練場よりもえらく広い場所に驚いた。
門扉の外からはわからなかったが東京ドームくらいの広さはあるのではないだろうか。
いよいよ仲間となる人たちと会うのかと緊張し始めたがあっという間に中央付近へと到着し、おおよそ20人ほどが並んで待っていた。
パっと見た感じの種族は人間、獣人、巨人、小人のようだ。
「みなさん、大変お待たせしました。こちらのお二人、男性がウィレムさん、女性がレイラさんです。竜騎士として本日より宿舎で寝泊まりし、明日より少しづつ仕事を覚えていただこうと思っています。ではお二人とも、挨拶をお願いします。」
挨拶を促され軽く頷いて一歩前へと出る。
「ウィレムといいます。本日よりよろしくお願いします。」
今日は疲れてるし簡単な挨拶で許して欲しい。そう思いながらサッと皆の顔を見ると大半が軽く頷き、笑顔でこちらを見ている。どうやら良い人達のようで安心した。
「レイラです。ウィレムさんと同じく頑張りますのでよろしくお願いします。」
レイラの挨拶にも皆は俺の時と同じように笑顔だった。
俺は歓迎はされても笑顔を見せられるとは思ってなかったため、少し戸惑った。
というのも国内は結界で守られているため、毎日のように魔物やスカーデの襲撃があるわけではないと師匠が言っていた。
ただそれでも人々が犠牲になることは少なくないらしいので、あまり笑顔の溢れるようなイメージができていなかった。
そんな俺に対してレイラは嬉しそうな表情をして、これから仲間となるであろう皆を見ていた。
「ではみなさんも挨拶を……、ラネットさん、ジグはどこにいるかわかりますか。」
俺の戸惑いをよそにムーイルさんは騎士団の仲間を紹介しようとするが、どうやら誰かがいないようだ。
溜息交じりにラネットと呼ぶ女性に誰かの居所を聞くが首を横に振り
「申し訳ありません、昼前に挨拶があることを伝えてはいたのですが現れず……。今どこにいるかもわかりません。」
ハキハキとした声で答える女性:ラネットさんは俺たちよりも少し年上のように見え、赤紫のポニーテールと灰色の眼が特徴的だ。
身長は俺とレイラの間くらい、大体162cmといったところだろう。
ピンと背筋が伸びた綺麗な姿はレイラといい勝負をしていると思う。
「仕方ありませんね、私が探して連れてきますので先に皆の挨拶を済ませておいてください。その後、私たちが戻らなければ宿舎の説明をお願いします。」
「承知いたしました。」
ラネットさんの返答を聞いてムーイルさんは素早く門を抜けてジグという人を探しに行った。
「ではムーイル様に代わって私から皆を紹介するわ。まずは私、ラネット=マリー=エンバーラストよ。ラネットと呼んでちょうだい。竜騎士としては先輩だけどここ数年でシェネラが発現したから竜人としては二人の方が先輩と聞いているわ。これからよろしく頼むわね。」
キッチリとした人なのだろう。
真っすぐに俺たちを見て挨拶を行う姿は少し堅物そうな印象を受けるが言葉は柔らかく優しみを感じるため素直に好感を持てた。
ちなみに『竜人として』というのは胸にシェネラが発現したことによって、種類別に新たな因子を持つのでヒト因子に影響を与えるらしい。
俺やレイラ、ラネットの場合はヒト種×竜種なので『竜人』となっていく。
過程については進化/覚醒/変化といった言い方で表現される。
シェネラについては胸の宝石のような魔石を指すがその形状によって名称が異なる。
竜の形なら『リュディーグ・シェネラ』
獅子なら『ライオス・シェネラ』
のように呼称されている。
「では次に、魔法隊の――」
「ふあぁああぁ……」
ラネットが魔法隊の紹介をしようとしたところで欠伸をする声で遮られる。
俺たちは後ろを振り返ると詰所の扉から出てきた露出の高い服装をした細身の男性が頭を掻きながらこちらに向かって歩いてきている。
派手な装飾を身に着け、ただでさえ露出の高い服を着崩している。
第一印象は『チャラい』だ。
見た目と先ほどの欠伸でなんとなく性格などはイメージできた。
その程度で判断するのは良くないとは思っているものの、この男性に限っては直感的に合っているとしか思えなかった。
そしてこの後、面倒ごとになりそうだというのも直感的に感じ取っていた。




