93 お料理生配信
とある公園の片隅でがさごそと機材を持ち込む男が居た。
持ち込んだ物の置き場が決まると、男はカメラの録画ボタンを押した。
「やあ皆。いつもアゲアゲ、料理専門チャンネルの岩清水だよ♪ 今日はなななんと、初めての野外料理企画で、生中継だよ♪ アゲアゲだね♪ そして~作る料理は~もう気付いてるよね? そう、アゲアゲな唐揚げさ♪」
男はそう言うと真っ白な粉の入ったボールを目の前に用意していたテーブルの上に置いた。
「これは事前に準備したアゲアゲな唐揚げ粉だよ♪ これをどうするのかっていうと~♪」
徐に服を脱ぎ始める岩清水。
「普段の僕はトランクスだけど、今日は紳士に新調したブリーフ♪ 小学生の時以来でちょっとアゲアゲだよ♪」
そう言ってカメラをブリーフにアップさせた。チャンネル登録数百人に対してのサービスのつもりで行っているようだが、彼のブリーフにはそこまでの価値は無かった。
「じゃあ、服を脱いだらこのアゲアゲ粉を全身に隙間無くまぶしていくよ♪ ううーんスッパイシー♪」
岩清水の体が酸っぱい訳では無い。数種類の調合したハーブの匂いを表現しただけで、スパイシーな香りを堪能しているだけだった。
髪の毛の間に耳の裏。手足の指の間にへその隙間。ブリーフの中までも丹念に刷り込んでいく岩清水。全て塗り終わると、彼は一枚の紙を取り出した。
「じっつはですね~♪ 今日の野外撮影は特別企画をするためだったんだよ♪ 動画をお楽しみの皆さんの中にはピンときた人が居るんじゃないかな♪ ふふん♪ これからあなたに会いに行きますよ~♪」
カメラを手に取ると、岩清水は走り出した。
白い粉を纏った男が住宅地をブリーフ一丁で駆けて行く。
その姿は孫う事無く変質者。そこに秩序の番人が現れた。
「はい、君、止まって~」
数名で岩清水を囲うは警察官。別名ポリスメン。
「君、白いねー。何でそんなに白いの? それ、粉吹いてない?」
「これはまぶしてるんです♪」
「テンション高いねー。今、ハイになってる? 最高に?」
「最高にハイってやつですよ。アッゲアッゲ~♪」
「あ、そうなんだー。決まっちゃってるみたいだねー。はい、現行犯で確保ー」
有無を言わさず身柄を拘束される岩清水。
「え、や、待ってください。撮影、撮影ですから」
「そんな許可出て無いんだよねー。それにしても君、スパイシーな臭いだね。臭いきつすぎない?」
「これは揚げたら香ばしくて良い匂いになるようにしたんですよ♪ この住所の所に行っってアゲアゲになって完成なんだぜ♪」
「あー、集団でやってるんだね。情報ありがとうねー。じゃあ、とりあえずこれ着て包まんなかに入ってねー」
コートを被せられ、連行される岩清水。
その後、彼が向かおうとしていた家の住人は、寝耳に水の状態で家探しと疑惑の追及をされるというどえらい迷惑にあった。
後日、外に出られた岩清水は拡散された今回の動画を目にした。
生配信時にはタイトルを唐揚げとしていたのだが、拡散された動画にはタタキ上げというタイトルが付けられていた。