92 命を一つ持ってきた
とあるさびれた惑星に宇宙から巨人がやって来た。
未知との遭遇。異星人との邂逅。そんな期待に、惑星の住人は湧いた。
しかし、残念なことに巨人はとても衰弱していた。長旅の疲れか、病にかかったのか。
会話も出来ない程に弱っていた巨人に、惑星の人々は手を差し伸べた。
惑星の住人達の献身的な看病の結果、巨人は元気を取り戻した。
「皆さんのおかげで回復することが出来ました。ありがとう」
看病されている間に惑星の言葉を覚えた巨人はお礼を言った。
「一度、故郷にお礼を取りに戻ろうと思います」
加えて巨人はこう言った。
「私は命を一つ持ってくる。なので皆さんで相談をして、生き返らせたい存在を一つだけ決めておいてください」
住人達は、命を物理的に分け与えることが出来るという話に騒然となった。
「では、この星で一週間後に戻ってきます」
そう言い残し、巨人は惑星を去った。
そこからは、惑星の住人達の昼夜問わずの話し合いが始まった。
歴史上でもっとも優れた指導者を生き返らせるべきだ。
世界一の頭脳を持つ研究者を蘇らせよう。
私の国の偉人を蘇らせるべきだ。
等々の意見が次から次へと出て来て終らない、止まらない。
そうこうしている間に、巨人が光る玉を持って戻って来た。
けれども、まだ話は纏まらない。
考えた巨人はならばと惑星の住人達に言った。
「あなた達にとって一番大事な存在に命を渡すことに決めました」
惑星の住人達は、待ってくれと巨人を止めたが、巨人は止まらない。
光る玉が更に輝くと、周囲が光で真っ白になった。
光が納まると巨人は言った。
「それでは皆さん、また何時か会いましょう」
目的は果したと、巨人は星を去った。
惑星の住人達は、巨人は何に命を使ったのかと調査を始めた。
しかし、人が蘇った訳でもなければ、絶滅した生物が蘇ったという形跡も無い。
惑星の住人達は、巨人に親切にしただけで、何も返されていないという結論に至った。
住人達はまだ誰も知らない。
死にかけていた惑星が巨人により、息を吹き返したことを。
住人達が気付く可能性のある小さな変化が訪れるには、後五年はかかるからだ。