88 年少探偵団
所長挨拶
ここは岩清水探偵事務所。
所長である私の下には優秀な部下達が居る。
早速だが、探偵の仕事に先入観を持ってはいけない。自身の思い込み一つで真実は歪められてしまうからだ。
そう、先程の部下達を成人だと思うようでは真実には決して辿り着けないのだ。
第一話
ここは岩清水探偵事務所。
今日もまた、迷い人からの依頼の電話が鳴る。
プルルルル、プルルルル
繰り返し鳴る電話を取る前に、事務所で騒がしい部下達に釘を刺しておかなければならない。
「君達、依頼の電話が鳴った。だから静かにしているのだぞ」
部下達は元気にはーいと返事をした。これで大丈夫だと、私は受話器を取った。
「あーくん、積み木貸してー」
「えー、やだよー。ぼくが遊んでるんだから」
「いーじゃーん。あたしもやるー」
「それならぼくもー」
「わたしもー」
積み木を求め、部下達の間で火花が散りだす。
私は、電話の主に聞こえないように手で通話口を塞ぎ、言った。
「君達、電話中だ。静かに。絶対に静かに」
繰り返すも、部下達の耳には届いていないようだ。
この後、数秒もせずに衝突が起きた。
手当たり次第に物を投げ合う部下達。泣き叫び、電話の声もちゃんと聞こえない。
私がジェスチャーをしようとも、部下達は気付きもしない。
あれほど言ったというのに静かにならない部下達に、私の我慢も限界が来た。
「静かにしなさいと言ったでしょうが!!」
通話口を抑えるのを忘れ、大声を上げてしまった。
場が静まり返り、私もハッと我に返った。
慌てて電話の主に呼びかけるも、既に切れた音が。
「ははっ。今月二十件目だよ……。」
頭を抱えると、目から汗がこぼれた。
第二話
緊急の依頼が発生した。
「諸君、二丁目の八百屋さんでおかしなものを売っているらしい。至急調査をしに行ってくれたまえ」
大きな事件の臭いがした。私の気合十分。意気込みが部下達にも伝わり、依頼は絶対に成功する。そう思っていた。
「しょちょー、三時のおやつの時間だから帰るー」
「あたしもー。今日はいちごのけーきなのー」
「うち、ほっとけーきー」
「ぼくんちはかるめやきー」
私の言葉も聞かず、皆がそれぞれの家に帰っていった。
「今度は何処に頭下げればいいかなー」
天を仰ぎ、視界を手で塞いだ。手が濡れていたのだろう。頬を雫が伝っていた。
第三話
色々あったが二年が過ぎた。
幾多の困難を乗り越え、四月になって年度も変わった。
心機一転、頑張っていこう。丁度依頼も入っていることだしと、私からの挨拶を終えた後だった。
「ごめん、所長。俺ら、もう年長だし、お遊びには付き合ってらんないんで。もうやめさせてもらっから~」
「私も~。後輩がまねしたらこまるし~」
と、この二年で成長し、年長になった部下達が、事務所に置いていた私物を纏めて出て行った。
やけに広くなった部屋に、私だけが残っていた。
昨日までの賑やかさが嘘のように静まり返っている。
「皆が帰ったら、部屋ががらんとしちゃったな……」
そもそもここまで続けられていたことが奇跡だったのだと悟り、事務所を畳んで故郷に帰ることにした。