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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
88/166

83 御社の手すり

「皆さまこんばんは。夜のニュース、次は話題のホットスポットについての話題です」

 ニュースキャスターがそう言うと、画面が映像に切り替わった。

「皆さん、ご存知ですか? 最近手すりが熱いそうなんですっ!!」

 コーナー担当のアナウンサーがそう言うと、目の前のビルへと向かって走り出した。

 また場面は切り替わり、今度はビルの中へ。

「見てください。この途切れる事の無い行列を」

 カメラが上に下にと動き、長い行列を映した。

 それが終ると、アナウンサーが近くの人に尋ねた。

「すみません。こちら、どうしてこんなに行列が出来ているんですか?」

「ああ、これはね。皆、手すりを触りに来てるんだよ」

 気の良さそうなおじさんがそう答えた。

「び、ビルの手すりをですか!?」

 アナウンサーの驚き顔がアップで映される。

 改めてビルの外観へと切り替わり、ナレーションが入る。

「人々が並んででも触りたいと集まっているビル。実は、とても不思議なビル何です。なな、なんと、階段と手すりしか無いんです」

 一階に三か所の入り口があり、それぞれに最上階まで続く階段と手すりがある。

 部屋と呼べる場所は無く、各階が蛍光灯で照らされているだけの不思議な建物。

 次に、インタビューを受ける人々の映像が流れた。

 何故手すりを触るためにこの列に? という問いかけに対しての人々の返答が次のこれだ。

「触ってい見ると、死んだ家内に触れられているような感じなんです」

「アイドルグループのまっきゅんと握手した時と同じ感覚なんです」

「初恋の人と握り合った手の感触と同じなんです」

「触れていると、愛しのあの人に撫で返されているような気持ちになるんです」

 と、自身が好印象の相手に触れているようだと口々に言っていた。

 触れると夢見心地になる、そんな不思議な手すりに、人々は集まっていた。

 ここで再びアナウンサーに場面が切り替わる。

「では、私もちょっと触れてみたいと思います」

 前後で並んでいる人達に会釈しつつ、手すりに触れるアナウンサー。

「あ、これ、大好きだったお祖母ちゃんとお爺ちゃんの手を思い出します」

 懐かしさに、その眼から涙を零すアナウンサー。

 そして、手すりに触れながら〆の一言を言ってコーナーが終った。



 番組内のただのワンコーナーだったが、これがネット界隈で話題となった。

 ビルのオーナーなどの情報が一切出て来なかったことが始まりだった。

 そこから興味を持ち、更に人々が集まるようになった。

 昼夜問わずの大行列。警察も動き出し、色々と対策はされたが、ここで新たな情報が出てきた。

 最近、やたらと行方不明者が増えている。

 個人個人の情報を物好き達が調べていくと、手すりのビルに行ったという共通点が出てきた。

 けれども、店がある訳でも無い建物に行ったというだけの話で、ビルが行方不明事件と繋がっていると考えるのは飛躍し過ぎて、突拍子も無い話。

 しかし、それでも好奇心で動く人はいる。

 ビルに何かあるのではと、一人の男が真夜中にビルへ向かった。

 二十四時間、施錠されている訳でも無いので、不法侵入という訳では無いのだが、男が行ってみると、あれだけ列を成していた人の姿が無い。

 不思議に思いつつ、男はビルの中に入った。

 人も機械も無く、ただ蛍光灯の輝きだけがある深夜のビル。音も当然無いのだが、男はたくさんの人の存在を感じ続けていた。

 これは何かあると、動画配信を始めた男。

 しかし、三か所とも回ってみても何も無い。起こらない。

 やはり、噂はデマで、事件とも関係無かったようだ。

 男はそう言って配信を終えた。

 その後、男はこれまで触れていなかった手すりに手を置いた。

 すると、置いた手から何かが自身に伸びていく感覚を感じた。

 だけれども、自分の目には何もおかしなものは映らない。

 気味の悪さで自分に限界が来たのだろうと、足早に帰ろうとするも、階段を踏み外してしまった。そのまま落ちるものだと思ったら、今度は手が離れない。

 まるで、手だけを接着剤で貼り付けたようだった。

 更に男を恐怖が襲った。

 立ち上がろうとしていないのに、体がどんどん上へ、上へと引っ張られていく。

 何事かと上を見上げてみると、自分の腕が肘まで手すりの中に入っていた。

 助けて、助けてと叫ぶも、人なんて自分以外には誰も居ない。

 そうこうしていると、片耳まで手すりに呑まれてしまった。

「出して。出して」

 男の耳に、確かに悲痛な叫び声が聞こえた。

 男は理解した。自分の考えは間違っていなかったのだと。だが、それが分かった所でどうにもならない。

 男もまた、手すりの中に入り、助けを求め続けるからだ。

 また一人、人が消えた。

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