81 全否定探偵
とある一室で殺人事件が起きた。
被害者はコロン・ダダケー氏。
床には謎の欠片が散らばり、彼の右手は指差しの形をし、うっすらと白濁して固まった物が残っていた。
警察がやって来て捜査を始める中、とある人物が容疑者全員を集めろと訴えた。
「お集まりいただきありがとうございます。私、探偵の岩清水と申します。今回は、この家の住人コロン氏殺害の真犯人についてお話したいと思います」
と自信有り気に言う探偵。
傍に居た刑事は、調べ終わってもいないというのに何を言い出すのかと苛立ちの表情。
しかし、探偵は気にしない。何故なら彼は今、最高にハイになっているから。
「まず、注目していただきたいのは、コロン氏の右手です。俗に言う矢印棒と同じ形で固められています。実はこれ、ダイイングメッセージなんですよ。彼の指が指し示した先には、とあるメモが落ちていました。それにはこう書かれていました」
“発 森宮 十時二十三分 着 総森 十一時五十七分”
「どうやらコロン氏は何らかの悪事に手を染めていたのでしょう。そして今回、その尻尾を掴まれてしまった。このメモは逃走ように乗る電車のメモだったんです」
自分凄い。あっぱれ自分。と、自画自賛で浸り続ける探偵。
「あの~、それ違います」
冷や水をぶっかけてきた者が現れた。
「違うとはどういうことか?」
「はい。それはコロン氏の趣味の架空地域の電車の時刻です」
「な、何だって!? しかし、調べたら検索サイトの一番上でヒットしたぞ」
「そりゃあそうでしょう。そのまま打ち込んだら、一番一致するものが一番上にくるもんなんですから」
「な、なら、彼の右手は何だ? 何故あのような形になっているのか。それに、手に付着していたあの固まった物は?」
探偵の問いかけにまた一人、別の人物が口を開く。
「ありゃロウですよ。ロウソクのロウ」
「な、何でそんなものを手に付けていたんだ?」
「単なる興味本位です。自分の手の型を取って、大きな矢印棒を作ろうとしていたいんです」
「で、では、その型は何処に?」
「現場に散らばっていたではありませんか」
「ならば、散らばるほどに犯人と揉み合っていたということだな」
探偵が言うと、また否定が入る。
「それは私が足を捻って転んで壊してしまったんだ」
場に居る全員が驚いていた。
「あ、あなたは!?」
「私がコロンです」
「そんな馬鹿な。あなたは完全に死んでいたと聞きましたよ」
「ああ。それなら私の特技です心臓を止められるんです」
「いやいや、事件は今から二時間は前ですよ。普通に死んでる時間だ」
探偵の言葉に、スッと手を上げて前に出る人物が。
「探偵さんの仰る通り。ですが、私は秘孔を突いて仮死状態で維持させていたんです」
「な、何だって!? いや、それならそもそも殺人事件では無いということに……」
探偵はがっつり肩を落とした。
「これはとんだ茶番でしたな。まったく、いい迷惑だ。この通報をしたのはどこのどいつだったんです?」
刑事が言うと、ただ一人を覗いて場に居た全員の視線が一つになった。
「せっかく名探偵になれると思ったのに。がっかりだ!!」
悪態をつき始める探偵。
「あの、そもそもあなたは誰ですか? 今日は客人の予定は無かったはずですが」
コロン氏の発言に刑事が動く。
「ちょっと署まで行こうか」
「へ、へい……」
先程までとは見る影も無い探偵。
その後の調べで、探偵ですら無いことが分かった。
探偵はただのコソ泥だった。