77 野に咲く鼻
私は自然を愛する伯爵令嬢岩清水。
春になり、様々な命が芽吹く季節となりました。
今日は一面鼻畑だという土地にやって来ました。
馬車に揺られて一時間。
何時の間にか眠っていたのを起こされ、馬車の扉が開くと、飛び込んできたのは色んな種類の鼻。
「まあ、凄い。こんなに様々な鼻が自生しているなんて!!」
高い鼻、低い鼻。生えてる鼻につぶつぶな鼻。鼻の種類の多さに感動していました。
せっかく来たので、もっと近くで愛でようと、私は近付きました。
後ろから執事に止められていましたが、この興奮を抑えられません。
貴重な機会だったので、私はここぞとばかりに鼻を観察しました。
観察を始めてしばらくした時です。
鼻が一斉に揺れ始めました。
「お嬢様、離れてっ」
執事に注意され、何事かと立ち上がって振り返った時です。
はっくしょんっ!!
大音量の音。そして、ビシュビシュと鼻から飛び出しました。
「こ、これは鼻水!?」
私のドレスは鼻水だらけ。
鼻水は、花粉を捕まえるための粘着性のある水です。
花粉を捕まえると、鼻水を勢いよく吸い込みます。
それはドレスなど容易く引き裂く、ということはありません。
時が止まったような静けさが生まれました。
「……ジージマン」
私は言葉を失っていた執事を呼びました。
「火を放て」
ジージマンは静かに頷くと、鼻畑が温かくなりました。
「今日からここは焼き畑の実験地ね」
「畏まりました。すぐに手配します」
私は自然を愛する伯爵令嬢岩清水。
春になり、様々な命が芽吹く季節となりました。
今日は、新しい畑の実験地の視察にやって来ました。
馬車に揺られて一時間。
屋敷に向かって揺られます。