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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
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75 ぼっとんさん

「やあ、皆。やっと出番がやって来た。かれこれ五、六か月は放置されてたんじゃないかな。もうね、出番が無いかもと焦ったよ。さて、じゃあ、簡単に地の文で何がどうなっているのか説明しよう」

 全裸で自棄に明るい男は今、落下していた。

 何処から? もう何処から、何時から、などというのはただの言葉でしかなかった。

 上を見上げても始まりは見えず、時を知る意味が無いのだから。

 まさに筒。筒の中心からいまだ見えぬ底を目指して落下していくこの男。

 何故男は落ち続けているのか。今から語るとしよう。



 彼の名前は岩清水。ちょっと好奇心が強めな青年。

 面白い事は無いかと探しては、ちょっとのスリルを味わいたいと首を突っ込む、天啓的な早死にするタイプの男。

 ある日、岩清水は奇妙な怖い話を耳にした。

 それは、底無し穴。

 底無し沼、と言えばまあ、誰もが一度は耳にした事がある話。

 しかし、今回は底無し穴。何故穴だと分かったのか? 底無しだと分かったのは何故か? という疑問が岩清水の好奇心を刺激した。

 そして調べてみると、底無し穴のような話は各地に必ず一つはあるというような話だった。

 岩清水が暮らしている地域にもたまたま一つあった。

 この地域では、ぼっとんさんと呼ばれていた。

 そう呼ばれた所以は、底無し穴があるという場所は現在、ボットントイレになっているからという。

 そして、覗き込めばぼっとんさんに引き込まれるという話。

 調べると簡単に場所まで見つかったので、これは行ってみなければと岩清水は動いた。

 行けば、お約束な廃墟の中にぽつんとボットントイレ。周囲は長年ほっとかれて森に囲われている。人目を気にせず、周囲も気にせず、大自然の中で、人という獣の姿で行為に及べる場所だった。

「こいつは、解放的だ。よし、全開放だ!!」

 ここまでの道中が長かったため、下の準備は出来ていた。未体験の経験に興奮し、テンションがおかしい岩清水。

 どうせなら、人という服も脱ぎ捨てようと、彼は現代社会の重い枷を解いた。

 端的に言えば全裸だ。靴まで脱いで、裸人となった。この後、虫刺されで全身を掻きむしる羽目になる、などといった事を一切考慮しない愚策。しかし、こんな現代社会で犯罪認定される行為を犯したとしても誰に見つかる事も、咎められるような状況でもない状態で、人の皮を被る理由は無かった。

 安全だと謳われれば、それに手を伸ばすは人も畜生も変わらない。

 岩清水は、絶対という甘い蜜に誘われ、全てを解き放ったのだ。

 未知の場所でミチミチと腰を降ろして岩清水。

 一戦を終えて、ふぅっと岩清水。スッキリして立ち上がろうとするも、現代人の弱った筋力でのボットントイレの仕様は、足に多大な負荷がかかっていた。

 すくっと立ち上がろうとしてよろめく。更には足の裏も気温差のために若干の水分が発生していた。これでバランスを取ろうとして足を動かすと、つるんと滑って背中からボットントイレに背面ダイブ。

 穴に落ちなければ、一秒ないし、二秒以内には背中を打ち付けるような高さが本来のトイレ。

 大の大人が穴に落ちるなんてまず無い話。だが、岩清水は穴の中に落ちていった。

 始めは落下の感覚があり、驚きと恐怖で悲鳴を上げていた。

 しかし、落ち続けていると感覚が鈍くなる。悲鳴を上げ続けては喉が悲鳴を上げる始末。

 最初は数を数えてたりして、底の深さを測っていたが、百を越えれば数えにくくて諦めた。

 深さを確かめようと声を出してみたりもしたが、送り出した声が自分を通り過ぎていく。

 使用後のトイレの臭いは無く、ひたすらに自由落下が続いていた。

 時間の感覚は無くなり、一分が一月なのか、空腹がエンプティーの知らせなのかも曖昧になっていた。

 そうして、話は冒頭に戻る。

 岩清水は、ひたすらに一人遊びを続ける事で生き続けていた。



「さーて、過去回想が終った所で、ゴールの時間がやってまいりました。え? いや、底が見えてきたんじゃないよ。だって、真っ暗でそこが見えて無いからね。これぞお先真っ暗ってやつさ。ははは。よーし、次は次回予告っぽい設定で話してみるか。次回はハッと気付くんだ。にゃ~んと鳴いて、ネコ・ザ・ハット、なんちゃって。それじゃあ、次回もゴロネ~ン」

 光の無い空間で、彼は手を振った。何時終わるかも分からない空間の中を落ち続けながら。

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