74 カメに聞け
真っ暗な空の下でふと思った。
(このままでいいのかな?)
何が、と明確なものは何も無いけれど、漠然と不安が押し寄せてくる。
たまにあるそういった時期が来たのだと思った。
時間が経てば、まあ和らいだり流れていったりするものなのだけれど、まあ、とにかく不安になった。
そんな時だった。
「そこな悩める命よ。悩みへの対処を教えよう」
どこかから聞こえる声。
「ど~ち~ら~さ~ま~?」
間延びした声で呼びかける。
「悩み事はカメに聞け」
「ど~こ~の~か~め~?」
「それはこのワシにじゃ。人はワシを玄武と呼ぶ。とある偉大な存在から名を取ったのじゃ」
「そ~な~ん~だ~」
「そうなのじゃ。して、そなたの悩みは現状のままで良いのか? ということで間違いないのじゃ?」
「そ~な~の~じゃ~」
「真似するでない」
「ご~め~ん~」
「すぐ謝れるのは美徳なのじゃ。では、答えるのじゃ。共に歩みたいものが居れば、速度を合わせるのじゃ。その速度に合わせることで日々は変化していく。そうでないのであれば、変わらず歩み続ければ良いのじゃ」
(じゃあ、ただ理由も無く不安になっているだけだから、変わる必要は無さそうかな)
「ふむ、悩みは晴れたようなのじゃ。では、さらばなのじゃ」
「あ~り~が~と~お~」
このやり取りのおかげか、すぐに眠ることが出来た。
翌日。
「今日は一段とゆっくりねー」
「ほんと、悩みなんて無さそうで羨ましいわー」
とある動物園の飼育員達が、ナマケモノの部屋を掃除しつつ、そんな会話をしていた。
ナマケモノは、今日も変わらずゆっくりしていた。