72 スクリーンセイバー
技術が向上していくと、それに伴い製品に求められるスペックも高くなる。
最近では物理的なモニターの他に脳内モニターや光モニターと呼ばれるモニターが多用される時代になった。
脳内モニターは未来を舞台とした映画を見た人ならすぐに分かる。自分にしか見えないモニターのこと。
光モニターはプロジェクターとは違い、凸凹な岩壁やカラフルな壁であろうとも関係無い、空中に映し出す事の出来るモニターのこと。
この時代では、映画館のスクリーンのような大きさでもなんら問題無く投影が可能となっていた。
そんな技術を使い、日々を生きる我々に、大きな問題が起こっていた。
それは、モニターと名の付く物が突然使用できなくなるという問題。
ある日突然、メカメカしい人型のデザインのキャラが現れ、右手から剣のような形の光線を出して切り裂く動作をするのだ。すると途端にモニターは真っ暗になり、二度と動かなくなる。
被害者からの情報を総合し、そのキャラはスクリーンセイバーと名付けられ、恐れられた。
そして、警察が操作を続けていくと、とある共通点が見えてきた。
それは、低スペック。
世間で売られているモニターのスペックから一定の基準まで性能が劣ると、スクリーンセイバーが現れるのだ。
条件が知られると、人々は挙って高性能モニターを買い求めた。
高性能でなければ役に立たない。売れはしない。この二つの条件に、モニターメーカーは生き残るために必死になった。
一方で、世界シェアトップの岩清水ディスプレイの社長、岩清水は笑いが止まらなかった。
「スクリーンセイバーを放ったおかげで、我が社の業績は伸びる一方だな」
素晴らしい商品を生み出しても、価格のせいでお客に敬遠されては意味が無い。
せっかくの保有しているノウハウを腐らせる訳にはいかないと、この岩清水がスクリーンセイバーを生み出したのだ。
「来月発売のモニターも何処よりも高性能だ。他社の数歩先を行く我々の前にスクリーンセイバーが立ち塞がる訳もない」
高笑いする岩清水社長。
一か月後。岩清水社長は追い込まれていた。
「しゃ、社長。クレームの嵐です。発売されたばかりの新型モニターのスペックが低すぎて、スクリーンセイバーによって使い物にならなくなっています!!」
秘書の焦りの声。
「原因は……。原因は何なのだ……」
頭を抱えている岩清水社長の所へ副社長がやって来た。
「大変です。我が社の製品のデータが改ざんされています」
「な、何だって!?」
「想定していたスペックよりも一割ほど低下しています」
「何だと。すぐに修正をかけるんだ。商品も回収しろ。返金はせず、客には修正した物を送り返すんだ」
「わ、分かりました。ですが、社長。回収と修正。それに再送の費用を考えると……」
「分かっている。分かっているぞ」
大量出血で瀕死状態の会社になる。
そこに更に追い打ちをかける事態が。
「しゃ、社長。大変です。我が社の株が買い占められています。それから会社への評価が地の底へと落ちています」
会見を開き、対策しようにも、一気に攻め込まれては対処しきれない。
金を借りれたとしても返済の目途も付かず、一度悪評が付いてしまえば戻すことはとても難しい。
岩清水社長は、目の前が真っ暗になった。