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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
76/166

71 ばあちゃんにやり

 岩清水家は五人家族。

 お父さんとお母さん。それに幼稚園に入る前の男の子と女の子。

 そして、この四人が暮らしている家の持ち主のおばあちゃん。

 お爺ちゃん、お祖母ちゃんは頼んだら何でも言うことを聞いてくれるから好き。なんて話は古今東西よくある話ですが、この家のお子様達は違うようです。



 ケース1 男の子



 それは屋根の補修の為に家に足場が組まれていた時のお話。

 男の子は、足場が組まれている家を珍しそうに見つめていました。そのうち、屋根に上りたいと思うようになりました。

 日中になると職人さんが来るので、その様子をジッと見ていると、上に行くための階段に気付きました。

 男の子は、職人さんが帰った後、誰も居ないのを確認すると、階段に近づきました。

 よし、行くぞっ。と無限の好奇心でその一歩を踏み出そうとする男の子。

 ですが、見られているように感じ、片足を上げたまま止まりました。

 フラフラしながら周りを見て見ると、庭の木の影におばあちゃんが居ました。

 叱るでもなく、ただジィーッと男の子を見つめています。

 男の子がそれに気付き、視線が合わさると、お祖母ちゃんはへの字のように顔をにやりと歪ませます。

男の子は、それを見ると途端に家の中に駆けて行きました。

 そうです。おばあちゃんの無言のにやり顔が怖くて仕方が無いのです。

 なので男の子は、逃げ出しました。それから男の子は、階段の前までは行きますが、上に上がろうとはしませんでした。

 またおばあちゃんが見ているかもしれないからです。



 ケース2 女の子



 お洋服に最近夢中な岩清水家の女の子。

 今日は、赤いシャツに、青いシャツ。持っている色んな色のシャツを並べて考え中。

 その時、ふと閃きました。

 虹のお洋服を作ろうと。

 工作ばさみを探して、おもちゃ箱をひっくり返し、無いとなったら、お父さんやお母さんの机をひっくり返しました。

 そうやって見つけたのは、子どもには不釣り合いな裁ちばさみ。

 そもそも、はさみを使う時には大人が居ないといけないという岩清水家のお約束があるのですが、果ての無い好奇心に突き動かされた女の子は、頭の中からお約束が転げ落ちてしまっていました。

 大人でも中々に重い裁ちばさみを、えっさほいさと、覚束無い足取りで運びます。

 その途中でした。正面におばあちゃんの視線を感じたのは。

 おばあちゃんに見つめられ、ゴトッという音と共にはさみを落とす女の子。

 蛇に睨まれた蛙のように動けません。

 そこにおばあちゃん、駄目押しとばかりにへの字ににやり。

 わんわん泣き出す女の子。その声を聞いて、お母さんがやって来ました。

 その後、お母さんに叱られ、女の子は散らかした物を片付けることになりました。



 このようなことが多々あり、お子様達はおばあちゃんが嫌でした。

 なので、夜眠る時に、お父さんやお母さんに言うのです。

「ばあちゃんの居ない場所に行きたい」

「ばあちゃんのそばに居たくない」

 そう言って二人を困らせるのでした。



 ケース3 お母さん



 夜、お子様達が寝静まると、お母さんはお水を飲もうと台所へ向かいました。

 するとそこにはおばあちゃんが。

「今、お湯を沸かしている所だけれどね、お茶飲むかい?」

「ありがとうございます。いただきます」

 と、二人で湯飲みを持ちつつ腰を落ち着かせました。

「おかあさん、何時も子ども達のこと、ありがとうございます」

 日中には大人の会話が難しいので、ここぞとばかりにお母さんはお礼を言いました。

「なあに、気にしない、気にしない。子を見守るのは大人の役目。暇な年寄りにはうってつけなのよ」

 とおばあちゃん。

「ですが、そのせいで二人は……」

 言葉を濁すも、普段のお子様達の様子から意味するものは分かっています。

「嫌われてもね、良いのよ。子が大病、大怪我をしないで大きくなれればそれでね。それにね、もしも道を踏み外しそうになったら、あの子達はきっと私を思い出してくれる。ずっと私を覚えていてくれる。そう思うと嬉しいのよ」

 とお茶をすするおばあちゃん。

「何時か、二人も気付いてくれたらとは思いますけど……」

 そうならない可能性だってあると、お母さん。

「それでも私を覚えていてくれたらいいのよ。ぜーんぶ、覚えていてもらうためにしていることだから」

 おばあちゃんはそう言うと、お母さんに向かってへの字のにやり顔を見せた。

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