70 突撃!? 新人類
とある家。
「お、時間だ、時間。チャンネル回さないと」
家主が急いだ様子でフォークを上に載せたカップ麺を持ってお茶の間にやって来た。
そして、テレビの捻りを回して番組を切り替えた。
「えー、皆さんこんにちは。インタビュアーの喜木間 久留蔵です。岩清水TVドキュメンタリープレゼンツ。突撃!? 新人類と題しまして、巷で噂になっている新人類さんにインタビューをしていこうと思います。因みにですが、私は今、噂の新人類さんが暮らしているお宅の近くにやって来ています。閑静な住宅が並ぶこの土地に、本当に新人類さんはいらっしゃるのでしょうか? 早速お邪魔しようと思います」
そういうと喜木間は一軒のお宅の呼び鈴を鳴らした。
「はい、どちら様ですか?」
女性の声。呼び鈴越しに応対した。
「どうも、始めまして。岩清水TVの喜木間と申します。こちらに新人類さんがいらっしゃると聞いてやって来ました。よろしければ会わせてはいただけませんか?」
喜木間の申し出に、突然相手は激昂した。
とても世間には流せない言葉が並んだため、過程を省かせていただく。
一時間の交渉の末に、相手は喜木間達を招き入れることになった。
「では皆さん。私達はいよいよ新人類さんと御対面することになります。一体、新人類さんはどのような方なのでしょう?」
勿体ぶるようにイントロが流れ、番組はCMに入った。
「何を押しても反応しない。TVヒーローを真似た時の空しさだけを体験出来るnew玩具。がっかり変身ベルト、新発売。さあ、お子様達。現実を体験しよう!!」
CMが終わり、番組が再開される。
場面は新人類さんの居間に変わっていた。
「えー、今日は私達のお願いを受け入れていただき、ありがとうございます」
インタビュアーの喜木間がテーブルを挟んだ先に居る老夫婦らしい男女にマイクを向けつつ頭を下げる。
「改めてお聞きしますが、こちらに新人類さんがいらっしゃると言うのは本当ですか?」
「居るも何も、こいつだよ」
男性がテーブルの下を指差す。
カメラが動き、指差した先の存在を映した。
男性の脛に中年男がかじりついて離れない。
「か、彼はどうしてこのような行動を?」
「医者が言うには、すねかじりになったらしい」
喜木間の問いに男性は答えた。
「彼にインタビューをしても良いですか?」
男性に尋ねると、彼は頷いた。
「では、早速。ええっと、あなた。あなたはどうしてこのような行為をしているんですか?」
中年男は答えない。
「息子はもうずっと何も言わん。全く、どうしてこうなったのか……」
男性は、自身の息子の半生を語り始めた。
要約すると、幼少期からとても優秀で、成功者への道を歩み続けていた。しかし、ある時に会社が倒産し、部屋に籠るようになった。その時から変化が起こったという。
「すみませんが、その頃の写真か何かはありませんか?」
男性に尋ねると、隣に居た女性に視線を送った。
予め用意していたとばかりに、女性がテーブルに写真の束を置いた。
喜木間は、失礼しますと一言断り、写真に手を伸ばした。
芋虫のようだった。手は体にぴったりとくっつけていた。両足も人魚の下半身のようになっている。
「これは……寝姿、という訳では無いですよね?」
中年男性の目が開いていると分かる写真だったが、念のため確認する喜木間。
「医者に診せると、幼虫状態だと言われた」
「よ、幼虫ですか?」
「次の写真を見てください」
女性が喜木間を急かすように言う。
彼女の言葉に従い、次の写真を見る喜木間。
体を丸めた中年男性の写真だった。
「先ほどが幼虫でしたら、これはさなぎですか?」
「ああ、そうだ。腕や足を剥がそうとしてもびくともしなかった」
喜木間は、ここまで聞いて、ハッとした。
「もしかして、彼は今、羽化した状態なんですか?」
段階的にもそうとしか考えられないと喜木間。
「医者が言うには、脱皮前らしい」
「えっ!?」
幼虫、さなぎと来て、脱皮という単語が出てきたことに驚く喜木間。
「ちょっと待ってください。未だ成長……。進化中だということですか!? どこに行こうというんですか?」
「さてねぇ。親を取り込んだらあんたらが来た。だから、次はテレビ。いや、世間様を取り込むっていうのも良いかもしれないな」
人とは思えないニタァッとした笑みを浮かべる男性。
「あ、あなたはそこに居る息子さんのお父さん何ですよね?」
嫌な感覚に襲われ、喜木間が恐る恐る尋ねた。
「触って確かめるかい? もしかしたら、これは吸収された後かもしれない。そして、触れたらおたくも一部になるかもしれないなぁ」
すくっと立ち上がる女性。
「中止。中止だっ!!」
一目散に逃げ出す喜木間。
この後、急ぐ映像の後にテロップが入った。
喜木間を含めたクルーは全員無事に戻ってきました。
その後、青一色の背景にスタッフロールが流れ、番組は終了した。