69 一撃必殺刑事
とある民家で事件が起きた。
被害者は生足 柿さん三二歳。
状況的に、何者かに襲われ、首を絞められて殺害されている。
初動捜査を終え、帰り支度をする刑事や鑑識達。
「ちょっとっとっと、待ちなよ」
一人の刑事が全員を止める。
「どうしたんだ? 何か新しい証拠でもあったか?」
同僚が止めた刑事に尋ねる。
「ああ、見つかったぜ。証拠よりも犯人がな!!」
カッと目を見開き、決め顔で語る刑事。
彼は特に凄腕という訳では無いが、何故か発言が強烈な一撃を放つような勢いがあるため、仲間達からはこう呼ばれている。
一撃刑事
そんなでかい発言をした彼の言葉に、同僚達は驚く。
「さあ、参考人を集めてくれ」
「あの、ここに居ます」
おどおどした様子で手を挙げた男は、被害者の叔父。名を堂々 竹内と言った。
「まあ、まず聞いてくれ。犯人は仏さんと親しい間柄だった。な~ぜ~な~ら~? 部屋が荒らされていないからだ。そして、抵抗する力が無くなる時まで、仏さんは殺されるとは思っていなかったようだ。つまりは、何度も似た経験があり、何も問題が無いという認識だったということだ」
「なるほど。続けてくれ」
とりあえず最後まで聞くと、同僚。
「調べたところ、恋愛関係での人との繋がりは無かったようだ。ということは家族、或いは親戚の線が濃厚だ。ん? この場に一人、丁度良い条件の人間が居たな。そう、犯人はお前だ!! 堂々竹内っ」
決めポーズとばかりに堂々を指差す一撃。
「ま、待ってください。いきなり推理ショーを始めたと思ったら、自分が犯人だなんて……。酷い。でっち上げが過ぎる。横暴だ!!」
抗議する堂々。
「おいおい、急に元気になったじゃないか。犯人だってバレたからでちゅか~? そんな雑な演技で誤魔化せないでちゅよ~。やーいやーい、三文役者~」
煽りに煽る一撃。
「お、おい。まだ何も決まっていないんだぞ。そもそも、挑発をするな」
「そんなこと言ってもよ。職業が役者だっていうのに、偽装工作すらしないんだぞ。自分が犯人です。見つけてくださいって言ってるようなもんだ。自分が無実だって演技も出来ないなら、役者なんて向いてないんだよ」
そう、堂々は役者として花開くその日を夢見て、モブ役を受け続けている男だった。
そんな鬱屈した相手に対し、一撃は煽りに煽った。
その煽りは、堂々の堪忍袋も堪えられなくなった。
「あいつと同じで、何も知らないくせに。何も知らないくせにっ!!」
逆上し、一撃を突き飛ばす堂々。
一撃はそのまま後ろに倒れ、頭を打って倒れてしまった。
「お、おい? 一撃? 一撃ィィィィッ」
一撃は頭に強い衝撃を受けて死んでしまった。
こうして、一つだった事件は二つになり、一人の犯人を捕まえることで解決した。
その後、同僚は一撃の墓へ向かい、手を合わせていた。
「一撃よぉ。お前、いくら強烈だからって、一撃必殺で逝くんじゃないよ……」
同僚は墓に背を向け、歩き出す。
今日も眠らぬ街を守るために。
年末スペシャル単発ドラマ
一撃必殺刑事 ~煽りの悲劇 元は一つ、煽れば二つ~ 完