68 考える味 前編
とある家。
「お、時間だ、時間。チャンネル回さないと」
家主がテレビの捻りを回して番組を切り替える。
「みなさんこんばんは。さあ、始まりました。今回のお料理キングダム。この番組は毎回出されるお題に対し、料理人たちがどのような料理を作るのかという番組になっております。では、審査員のお三方をご紹介しましょう」
はつらつとした司会者がそう言うと、カメラは、四角い顔に白髪オールバックながっしりした肉体の老人を映した。
「世界の海は全て平らげた。海の味は全て舌が覚えている。海の味覚のスペシャリスト、海千寺先生です」
「どうも、皆さん。最近は川の味しか食べていません」
と、挨拶と共に一礼する海千時。
「はぁい、お次はこの方。大地は俺の食糧庫。土に感謝を、俺に恵みを。でお馴染みの大地の味覚のスペシャリスト山羽刈先生です」
少しやけ気味に次の審査員の紹介に移る司会者。
カメラが切り替わると、やたらに痩せ越せた、見るからに不安になる体型の人物が映った。
「おっと、山羽刈先生。何時もに比べて体調が悪そうですが、大丈夫ですか?」
「はい。最近カキにハマりまして。食あたり怖い。でも食べちゃう。三食カキ三昧。野菜果物、もういらない」
「なるほど~。全国の大きなちびっ子も小さなちびっ子も、偏った食生活は止めようね~」
更に投げやりになる司会者。
カメラは最後の一人を映した。
「おふくろの味。母の味。ママの味。皆違って皆良い。私は全て知っています。どうも、全ての味のまとめ役。味見シーランでーす」
三十代のイケおじがチャラい手のポーズをしながら画面に手を降ってのご挨拶。
「ええ~、味見先生。世間を騒がせるのはお料理のことだけにしてくださいね~。という訳で、本日のお題はこちら!!」
カメラは司会者に戻った。にこやかに、それでいて冷ややかに釘を刺しつつ、司会者がすた字を中央の巨大モニターへと手を向けた。
デデンッ!! とモニターに本日のお題が発表された。
深い味
「ええ~、深い味、ということです。さあ、一体どのような料理が出てくるのでしょう。今回の挑戦者のお二人を紹介しましょう」
モニターを挟んでキッチンに立つ二人。
「それでは一人目の挑戦者。雇えば繫盛、抜ければ更地。腕は一流。座敷童か貧乏神か。猿間ネルソンさんです」
自分の力を誇示するように使い込まれた腕をアピールするネルソン。
「つ、続いてですが……。この番組の自由さを物語る挑戦者の登場です。おばあちゃんっ子の
マコちゃんが電車を乗り継いで参加してくれましたー」
小学生か、それ以下か。まだまだ幼い女の子が緊張気味にカメラを見つめていた。
「はあい、それでは両者構えてください。それでは行きますよー。調理、スタート!!」
その掛け声と共に二人は調理を開始した。
この間、二人のこれまでの経歴を紹介しつつ、時折調理過程を映しながら番組は進行していった。
「はい、それではここで一旦CM入りま~す」