67 追放者ギルド 前編
「待ってくれ。どうしてだ。何故なんだ!!」
彼は叫んだ。しかし、聞き入れられることは無く、捨てられてしまった。何処へ繋がるかも分からなない暗い暗い穴の中に。
こうして捨てられてしまった彼の名前はポイスル。捨てられる前は世界を救うために旅をしていた、所謂勇者だった。
艱難辛苦を乗り越え、彼は世界を脅かしていた魔王を打ち倒すことに成功した。
その結果が、冒頭の届かぬ叫びだった。
「くそっ、ここは一体どこなんだ!?」
穴から出られたポイスル。周囲を見てもとにかく寂しい風景が広がっていた。
とにかく空気が淀んでいる。ポイスルは口に手を押さえそうになった。
「毒がある、って訳じゃないか。荒廃している訳じゃないのはありがたい。植物が育っていれば、一応胃も満たされるしな」
この先を考え、現状を確認する辺り、冒険は無駄じゃなかったとポイスルは思った。
とにかくもっと情報を得よう。そう考えたポイスルは、当ても無く歩き始めた。
どれほど歩いただろうか。彼は、小屋を見つけた。
「あそこを拠点に出来るか?」
雨風が凌げるなら尚嬉しい。希望を胸に、ポイスルは小屋の中に入った。
「な、なんだ!?」
小屋の中に入ったポイスルはまさかの光景に驚いていた。
「おーい。お仲間が増えたぜーい」
入り口の傍に居た男が、ポイスルの姿を見て場に居る全員に呼びかけた。
「よく来たなぁ。歓迎するぜー」
「大変だったな。まずは飲んどけ」
何故か初対面の大人数は、ポイスルを歓迎していた。
何が何だか分からなかったが、とりあえずカウンターの席から手招きしている筋骨隆々の男の所へ足を進めた。
「ほら、飲んどけ飲んどけ」
突き出されたコップからはアルコールの匂いがした。
「ここは……何処なんだろうか?」
コップを受け取りつつ、ポイスルは男に尋ねた。
「ここはあんたみたいな目に遭った奴らが集まる場所さ」
「俺みたいな? それって追放?」
「おうともさ。あ、名乗って無かったな。俺はどんな相手も一撃必殺が信条の戦士。オノカラーだ」
「一撃必殺だなんて、凄いな。さぞや凄腕の戦士だったんじゃ?」
「ドラゴンだろうと、ギョギョーンだろうと、一撃よ」
「ギョギョーン?」
「ああ、そっちの世界には居ないのか。俺の方じゃ、海の王って言われるぐらい手強い怪物がいたんだよ」
「そんな相手でも一撃必殺だなんて……。なのに、どうしてここに?」
不思議で仕方が無いとポイスル。
「どんな奴でも一撃必殺で倒しちまうから、他が育たないって言われてな。他所の国に行かれても困るからってな、放り込まれたんだ」
「そ、それは……」
「そっちなんかまだ戦果があるんだから良い方よ」
と言って絡んできたのは、どこか宗教的な雰囲気を感じさせる衣装の女だった。
「あなた、どのような理由でこちらに?」
ポイスルが尋ねると、女は嗚咽を漏らし始めた。
「あたしはさ、治癒師なんだけど。なんだったんだけどぉ」
「ええ、はい」
「回復したら逆に弱くなったって言われて、呪いかけただろって疑われて放り込まれたんだよぉぉぉぉ」
「そ、それは酷い。でも、どういうことなんですか?」
感情のぶつけ方が強く、ポイスルは引きつつ、宥めつつ尋ねた。
「分かりやすく言うとね。筋肉使うじゃない。その分鍛えられるでしょ」
「ええ、そうですね」
「そこに回復魔法を使ったら、使う前に戻るのよ」
「鍛えた意味が無くなるというのは嫌ですね。でも、それくらい強力な回復魔法が使えるなんて、凄いじゃないですか」
「ありがとー。今夜一晩、お付き合いしてあげるー」
「いえ、それはけっこうです」
酒癖が酷いのだろう。関係を密にはしたくない相手だった。
「まあ、今のは例えだけどね。実際の話だと違うのよ」
「と言うと?」
「そこの一撃に今、魔法を使うとするじゃない。筋肉が萎んでぷにっぷにになるのよ。未使用状態になるってこと」
「大問題過ぎる!!」
ちょっとどころの問題ではなかった。こんな治癒師には絶対に回復して欲しくないとポイスルは思った。
(ずいぶんと癖が強い人間が集まっているんだな……)
二人から話を聞いてどういう人がこの場に集まっているのかを理解するポイスル。
「まあ、人間ばかりが集まるから、同族同士である意味幸せだよ。あそこで酔いつぶれている奴を見て見ろよ」
オノカラーがとある席を指差す。
コップを握りしめたまま突っ伏している男の姿があった。