66 奴らが空からやって来る
男が二人、地下街から外へ出た。
「ん、ちょっと待て」
男AがBの前に腕を出し、歩みを止めさせた。
「どうしたんだ? あ、ああ~。これは降りそうだな」
上空には鉛のような色の雲が浮かんでいた。
「それだけで済めば良いけどな」
意味深な事を言い、険しい表情をするA。
「ま、まさか……。それだけじゃないっていうのか!?」
「ああ。きっと荒れる。俺の感がそう告げている」
「おいおい、こりゃあ、只事じゃないぞ」
「そうだ。付いて来い。まずは装備を整えるぞ」
Aはそう言うと、率先して歩き始めた。付いた先はコンビニ。
「ここは俺が贔屓にしている店だ。ここでしか俺は買わない」
「どう見たってただのコンビニじゃないか。ここにしかない商品があるっていうのか?」
「まあ、任せておけ」
フッと笑い、Aは目当ての物を手に取った。
そして、会計を済ませて外に出ると、Bに手渡した。
「これ、ただのビニール傘とレインコートじゃないか」
「そう思うか? だが、死にたくなければ着ておけ」
意味深な事を言うAは、既に袖を通していた。
「しかし、これだけではまだ不十分だな。よし、次の店に行くぞ」
空を見上げ、焦りの色を見せるA。
次にやって来たのは釣具店だった。
「おいおい、ここで何を買うっていうんだ?」
さっぱり分からないとB。
「安心しろ。これで最後さ。おっと、人生のってことじゃないからな」
軽いジョークを交え、Aは目的地へと迷いなく進む。
目当ての品を抱え、会計を済ませるA。
「よし。一刻の猶予も無い。早くこれを」
Bに渡したのは長靴とズック。それとゴム手袋だった。
「ああっと、悪い。手袋をする前に俺のをやってくれ」
Aはそう言うと、濡れに強いビニールテープをBに手渡した。
「これをどうするんだ?」
「手と足に隙間があるだろう。それをぐるっとテープで塞いでくれ」
BはAに言われる通りにした。
「よし、これで俺の準備は完了だ。手伝ってやるからお前もじゅん……」
Aの言葉が途切れる。
ぽたり、ぽつりとレインコートを叩く音。
「き、来たぞ……」
Aが両手を広げ、その正体を睨みつける。
「お、おい」
BがAを呼ぶ。しかし、続く言葉はAには届かない。
圧倒的な質量と衝撃と共に降る音が二人の間にあっという間に壁を作ってしまった。
「うっひゃほーい」
ほんのわずかな小さな音の隙間から、Aの歓喜の声が聞こえてきた。
目の前には、広げた傘と踊るAの姿が。
数分後、勢いが弱まり、轟音は納まった。
「なあ。Aよ」
「どうした、B?」
「これ、どう見ても雨だよな?」
「ああ、すっごい雨だった。気持ち良かったな」
Aを照らすように太陽の光が降り注ぐ。
「じゃ、もう終ったみたいだから脱ぐか。あ、あれ? ちょ、B。テープ剥がせないから手伝ってくれ。B。B?」
AがBの居た場所を見た時、そこにBは居なかった。