65 わらじぞう
お地蔵様と言えば、皆さんは微笑まれているお顔を浮かべると思います。
ですが、とある土地のとある地域では、一風変わったお地蔵様がありました。
これは、そのお地蔵さまに纏わるお話です。
むかーし、むかし。
この土地は米の産地として有名でした。
周囲でどれだけお天道様がへそを曲げようと、この土地の稲だけは立派に育ったそうです。
不思議なもんだと周囲の土地の人間は言いました。
交流がある時には、その秘訣は何かと尋ねる次第。
そんな時、土地の者はみーんな言いました。
「わらじぞうさまのおかげですじゃ」
土地の中心に祠を建て、そこに二尊のお地蔵様を祭っているというのです。
ある年のこと。
周囲はそれはもう稲が育たず、困り果てていました。
困り果てた周辺の土地の一つが、こんなこと思いつきました。
あそこのわらじぞうを連れてこよう
自分達が困っているんだ。力を貸してくれるに違いない。そう考えた彼らは、この時代にはとても危険な夜に、お地蔵様を盗みに行きました。
祠をに辿り着いた不届き者達は、扉を開け、そのご尊顔を拝見しました。
すると、不届き者達は一斉にギョッとしました。
自分達が知るお地蔵様とお顔が違ったからです。
一尊は藁のお顔。もう片方は、虫の顔をしていたのです。特に、虫の顔のお地蔵様を、彼らは気味悪く思っていました。
不届き者達は、こんな気色悪いのを祭っているなんてとんでもないと、身勝手なことにお地蔵様を壊してしまいました。
自分達の憂さを晴らした不届き者達は、見つかる前にと急いで逃げました。
翌朝、事態に気付いた土地の人間は、とてもとても悲しみました。
そして、このままではわらじぞう様達がお可哀そうだと、皆で新たにお体を作ることにしました。
一方の不届き者達はどうなったかというと――。
彼らは道中、何処からともなく現れた大量のわらじむしに襲われていました。
もうお判りですね。不届き者達が特に気味悪く思った、お地蔵様のお顔と同じわらじむしです。
彼らの体には、払っても払ってもわらじむしが集まりました。
断末魔以外、わらじむしが全て綺麗にしてしまいました。
ですが、これだけでは終りません。
わらじむし達が次に向かったのは、彼らの居た地域でした。
お話はここで終っていますが、同じ時代の文献に、この時について記されたとされる箇所があります。
隣りの奴が、血相変えてやってきた。
足は擦り切れ、顔中は汁まみれ。
よほど怖い目に遭ったらしく、自身の垂れ流したものにも気付いていないようだった。
虫が襲ってきた。そう妙なことを頻りに繰り返し、疲れ果てた奴を、仕方が無いからと開いていた古小屋の中にしまい込んだ。
翌朝、いい加減目が覚めただろうと、飯を持ってやったら、奴の姿は消えていた。
こう記されていました。
わらじむしが虫のお顔のお地蔵様の使いだったのか。藁のお顔の使いが虫のお顔のお地蔵様だったのかは分かりません。
ですが、もしもこのお話に出てきたわらじぞうを見つけたなら、決して粗末に扱わない方が良いでしょう。