63 お前、お釜だったのか
最近、新人が職場に入った。
そいつは何時も作業帽を目深にかぶり、長袖長ズボンの作業服を休憩中だろうと捲りもしない。
常に表情を隠すにしているもんだから、感情が分かりにくい上に、ちゃんと反応しているかも分かりにくい。とにかく距離感が掴めない奴だった。
このご時世、色々と抱えているもんがあるんだろうが、まあ、壁を作っていた。
おまけに、他の仲間と更衣室で着替えることをしない。
いつの間にか着替えを済ませている。
自分のことも話さない。何も出さないとばかりに、新人の穴という穴にふたがされているようだった。
それでも俺が新人に関わり続けたのは、俺が教育係だったからに他ならない。
俺も挫けず、新人が打ち解けられるようにと、色々と頑張った。
しかし、返事は同じ。
「団体行動は遠慮します」
あんまりにも同じ事を言うもんだから俺は言ってやった。
「なら、二人でならどうだ?」
そう尋ねてみると、新人は驚いたように体を揺らした。
新人もこんなにしつこく誘われるとは思っていなかったのだろう。俺自身も教育係じゃ無けりゃ匙を投げている。
新人は、黙り込んで中々に長い時間考えていた。
「分かりました。二人なら」
新人が折れた。長い長い俺の戦いが実を結んだ。
そして、俺は新人と出かけた。
あくまで打ち解けるための一環だ。
仕事終わりに近場のゲーセンに連れて行った。
そこで俺は、新人の知らなかった一面を見た。
一度火がつくとなかなか燃える性格だった。
これ以降、俺達は仕事終わりにバッティングセンターなどで競い合うようになった。
会話もするようになり、俺達の関係は良好になっていった。まあ、ほとんど次の勝負をどうするかという話なのだが……。
ある日のことだ。
俺は何時も通りに出勤して、着替えのために更衣室に入った。
先客が驚きの声を上げた。
俺もその声に驚き、視線を向けた。悲鳴の主は新人だった。
俺はそこで初めて、帽子の無い、作業服に隠れていた肌を出している新人を見た。
とても珍しかったが、それよりも驚く事があった。
今まで隠されたいた肌が金属だった。
新人は、俺と目が合うと、再度悲鳴をあげた。
その瞬間、新人が居た場所に想い金属音と共にお釜が現れた。
ふと、付喪神という単語が浮かぶ。
最近じゃ、そういう類の奴らも人間社会で働いていると聞いた事がある。
「お前、お釜だったのか……」
俺の呟いた言葉に、新人が反応した。
「羽釜です」