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なんだこれ劇場  作者: 鰤金団
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59 コマンダー箱勇者

「ん……。ここは……?」

 何も分からない。目覚めた時、彼は狭い箱の中に閉じ込められていた。

 起きて半畳寝て一畳とは昔の言葉。しかし、彼が閉じ込められた場所は、それよりも少し広かった。

 困惑していると、除き穴を見つけた。不安に思いつつ、彼は覗き込んだ。

(見た事の無い服装の人がたくさん!?)

 外の人達は互いに顔を見合わせ、困っているようだった。

「は、箱ですよね?」

「箱だな?」

「孫う事無く箱でしかない」

 そんなざわつきが数秒続いた後、誰かが声を上げた。歓声だった。それに引っ張られ、彼の周りが同じ声で包まれた。

「勇者様ー」

 方々から聞こえる声に、彼は考えた。

(異世界召喚って奴じゃない!?)

 まさかの展開に、少し胸が高鳴る。

「勇者様。失礼ながら、勇者様の力を把握させていただきたく、鑑定を行います」

「はい、どうぞ」

 彼は答えたが、相手に聞こえているのか分からない。そもそも通じているのだろうかと疑問が浮かんだ。

「分かりました。職業、コマンダー!!」

「お、おお?」

 周囲からは微妙な反応。

 駄目職業なのかと彼は戸惑う。しかし、司令官なら悪く無いはずだと、彼なりに状況を整理しようと少ない手がかりで考える。

「ああ、そういう事か」

 周囲の反応の微妙さの理由に彼は気付いた。

 外の様子は分からないが、彼が閉じ込められている箱のせいだろう、と。

 お互いにこの先の事を思い、戸惑いと困惑が入り混じった空気になっていた。

「た、大変です。魔王軍が。魔王軍がっ!!」

 兵士らしい存在が場に飛び込んできた。

(勇者には魔王が付きものだからな。けれど、どうするんだ?)

 状況を静観していると、誰かが言った。

「勇者様の初陣だ。皆の者、支度をっ」

 箱の視界では分からないが、誰かが指示を出した。

 かなり偉い立場なのか、誰も反対はしない。

 自分で動けないというのにどうするのか。彼がそう思っていると、台車が持ち込まれた。

 台車に乗せられ、どうする事も出来ずに運ばれていくと、空想上の存在だった生き物が眼前に。

 本当に異世界なんだなと、彼は思った。

(いや、その前にどうすれば良いのか……)

 困っていると、兵士が箱に話しかける。

「勇者様。さあ、指示を」

 自分の職業がコマンダーという事を思い出し、作戦を考える。

 だが、そんな立場であった事も、考えた事も無い彼にすぐに思いつけとは無理なもの。

 どうしたものかと悩んでいると、彼の前に選択肢が。


 兵士一人で突撃


 兵士全員で突撃


 この場に自分だけ待機


「いやいや、一も三も駄目だ。でも、二番目を選ぶというのも……」

 他に手は無いのかと悩んでいると、兵士達が叫んだ。

「魔王軍が来たぞー」

「え、嘘、ちょ、待ってっ」

 誰か運んでと、彼は助けを求めたが、それどころでは無いと置いて行かれてしまった。

 あっという間に囲まれてしまい、もうどうする事も出来ない。

 魔王軍は、謎の残された物体である箱を壊そうと攻撃を始めた。

 恐ろしい音に、もう駄目だと絶望する彼だったが、どれほど攻撃を受けようとも箱はびくともしない。

 とんでもなく防御力が高いらしい。

 しかし、このままでは状況が変わらないと彼が思っていたら、先ほどと同じようにメッセージが現れた。

「ゲージが堪りました?」

 よく分からないが、使ってみるしかない状況。彼は警戒しつつも実行するかどうかの選択肢から実行を選んだ。

 すると、途端に周囲が静かになった。

 何事かと、恐る恐る外を覗いてみると、ボロボロ散り散りになった魔王軍の残骸が。

(溜まったダメージを放出した感じなのか?)

 推察していると、兵士が戻って来た。

「こ、これは凄い。凄いですよ、勇者様」

 圧倒的な戦果を喜ぶ兵士。

 自陣に戻った後、この結果を聞いた者達はとある作戦を思いついた。



 数週間後、魔王城に彼の姿があった。

「魔王様、人間から贈り物です」

 配下がそう言って、箱を魔王の前に置いた。

「この四角い物体がか?」

 訝しむ魔王。自らも触り、どのような物かも確かめる。

「ふむ、開けられる訳でも無いとは、人間はどのような考えでこのような物を?」

 ただの置物だとしても、面白い形という訳では無い。観賞用には適さないだろうと、魔王。

「お前達も十分に調べたのだろうが、我も調べてみるか」

 魔王は自らもトラップの可能性を調べるために鑑定を使った。しかし、トラップでは無かった。

 ダメージを与えなければ無害な箱なため、反応が無かったのだ。

 やがて、魔王は一つの考えに辿り着く。

「そうか、分かったぞ。これは拮抗する我々の戦いの停戦の呼びかけだ。人間め、面白い事を考える。手を取りあい、この箱のようにしっかりとした世界を共に収めようと言いたいのだな」

 魔王は早速人間に向け、和平の使者を送った。

 そんなとんとん拍子に事が進むはずなど無いと思いきや、あっさりと魔王と人間との戦いは終わってし合った。

 その後、人間は彼を送った真の目的に関する情報は全て燃やして闇に葬った。

 そして箱勇者である彼はというと、今日も物言わぬ平和の象徴として、箱のオブジェとして、平和の指揮を取り続けている。

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