6 棚カット
とある国のリーダーが国民に対して呼びかけた。
テレビやスマホだけでは無く、商店街のスピーカーまで使っての完全同時放送だった。
突然そんな事を国がやり始めたから、これは大事に違いないと、多くの国民が心構えをしつて放送に目を、耳を傾けた。
「えー、国民の皆さんにお知らせがあります。この度、私は決断しました。これまで我が国が棚上げしていた問題を全て解決します」
リーダーの発言に、国民は正気かと思った。さぞ大きな発表だろうと身構えていたら、棚上げしていた問題を解決するという、明確なようで具体性にかける発表だったからだ。
それからリーダーは、何故今回のような決断をしたのかについて説明を始めた。
経済がどうの、国の循環がどうのと、長い話が続く。
国民の大半は、国が国を良くするのは当たり前だからと、経緯には興味が無かった。
国民の関心が向いていたのは、何が棚上げ事案なのかという事だった。
長らく上がっていない給金が棚上げでは無いとしたら。単身世帯の増加問題に対しての取り組みが棚上げでは無いとしたら。
と、自身の身で感じている不安が改善されるかが問題だった。
「えー。それでは、肝心の選定についてお話したいと思います」
長い話の後で、漸く本題に入り、国民達は発表を待つ。
「全ては、我が国が誇るスーパーコンピュータのスコンが決めます。もっとも中立で、平等な頭脳が見事に分けてくれる事でしょう」
皆がこれを聞いてざわついた。
この国のブレインとも言えるスーパーコンピュータは、国の住民達のデータにより、現在の地位にまで成長したのだ。
つまり、国民の子や孫と言える存在だった。スコンという名前も国民が決めた。なので、皆がスコンに愛着があった。
「スコンなら良い結果を出してくれるだろう」
「スコンだったら安心だな」
という声が国中から出ていた。
「では明日から、この棚カット政策を開始していきます。本日は静聴ありがとうございました」
これで国の放送は終わった。
皆、終了直後から、スコンがどのような活躍を見せるのかという話題で持ちきりとなった。
酒を飲める者は居酒屋などでちびりちびりと、知らない者とも膝を突き合わせるほどの距離で、スコンがどう出るのかを語り合い続けた。
スコンを信頼していても、リーダーの発言には懐疑的だった国民達。しかし、日毎ニュースではこれまでに棚上げされてきた問題の解決、改善策がリーダーから発表され、国が動いていた。
長期的なものから、早いものでは次の月始めから始まるという超高速な進展をみせるものまであり、国民達も次はどのような棚上げが解決に向かうのかと、ネットに新聞にニュースにと、情報を追い続けた。
一年後、国は驚くほどの変化を遂げていた。
未だ棚上げされた問題は残っているものの、現在でもその解消、改善に向けて国は頑張っている。
「最近暮らしやすくて良いな。金銭面以外にも、町並みは変わっていないのに、ごみごみした感じが無くなったように思うよ」
「そうね。国が変わったからか、私の生活も変化した気がするわ。最近は、溜める事が無くなったわ」
「なんか気づいたら、店や家に棚が無くなったよな」
このような会話があちらこちらで行われていた。
そして最後に、皆口々に同じ疑問を口にする。
「なんだか最近、人も減った気がするな」
「それ、私も思った。なんか、何時の間にか空き家になってる所も増えたよね。まあ、すぐに人が入るんだけどさ」
「それ、聞いたことあるな。なあ、その空き家になった家に暮らしていた人の苗字って田――」