54 巫女様の手料理
とある村は今、滅びの危機を迎えていた。
すぐそこまで鬼の集団が近付いているというのだ。
逃げようにも他の土地が村の人間を迎えてくれるか分からない。
村人達は、鬼に襲われるか、野垂れ死ぬかのどちらかしか道は無かった。
だが、そんな時に村に暮らす一人の娘が村長に言った。
「私が生贄となり、村を守ります」
娘の提案に、村人達は大喜び。
誰一人正常な思考を持たぬまま、娘の提案を受け入れた。
娘は、旅立つ前にと村の人達に言った。
「私の身だけでは鬼達は不足でしょう。なので、お米を炊いてください。私は、鬼達に手料理を持参で会いに行きます」
この時代、お米はとても貴重だった。だが、それでもお米と娘の命だけで村が守られるのならと、村人達は家中のお米を集めた。
そうして炊き上がったお米で、娘はおむすびを作った。
膨大なおむすびと共に鬼の元へ向かう娘。
村を出てから数時間後に辿り着くと、娘は鬼達に言った。
「あなた方に我が身を捧げに参りました。長い旅でお腹も空いているでしょう。まずはこのおむすびをお食べください」
と、鬼達におむすびを一個一個渡して行く娘。
鬼達は、これは良いとおむすびをあっという間に食べてしまった。
「皆さま、おむすびは美味しかったでしょうか?」
娘が尋ねると、鬼達は量に物足りなさはあったが、美味かったと口々に言った。
全鬼がおむすびを食べた事を確認した娘は、指をパチンと鳴らした。
すると鬼達の腹次々と内側から爆発していき、鬼達は死に絶えた。
鬼を退治した事を知らせに戻って来た娘を見て、村人達は巫女様だと崇めるようになった。そして、鬼に食べさせた巫女様の手料理は、おにぎりという呼び名に代わり、邪を除ける料理として大事にされた。
こうして村人達は巫女様の元で幸せに暮らした。
めでたし、めでたし。
とはまだいかない。
巫女様は倒した鬼がたんまり溜め込んだ財宝で商売を始めた。
鬼の下着を始め、鬼革の衣といった鬼グッズを売り始めたのだ。
巫女様の武勇伝も合わさり、正に鬼に金棒となり、売り上げは天に届くほど。
巫女様は村を一つの会社にし、村人達を全員社員とした。
こうして巫女様は、鬼ブランドで長者となり、築いた財は時代を幾つも超えるほどの富を生んだ。