50 どく電波発生装置
稀代のてーんさい岩清水は、憂いていた。
自身の発明を発表しても、何時も世間が受け入れないのだ。
雨水温水装置。森林爆上げ剤。身体鋼鉄剤などなど、ここでは上げきれないほどの発明をしてきたが、全てを一周されてしまった。
現在開発中の案件も、倫理だなんだと、何処から鍵つけてきたのか、抗議の嵐で頓挫しかけている。
天才を世間は理解しない。いや、世間が理解しないから天才と呼ばれるのだろう。
しかし、余りにも何から何まで妨害を受けてしまうと、岩清水の我慢も限界だった。
ぷっつんした岩清水の頭の中で、狂気の発明の設計図が浮かんだ。
本当に実現可能なのか、自身の研究室で脳内検証をする岩清水。
「私は世界が嫌いだ。ああ、嫌いだ。ならばどうする? 方法は二つだ。世界に従うか、従わせるかだ」
自分の中で浮かんだ設計図を実現させるか。その最終決定のため、岩清水は自問するように言った。
「決まっている。私は従わせるのさ!!」
自身の行動を決めたなら、止まる必要は無い。
岩清水は、狂気の発明を実現させるために動き出した。
数日後、完成した物を岩清水は装着する事にした。
腰に巻き付けることで、作業の邪魔にならない天才のこだわりポイントが光る一品。
その名は――。
「出来たぞ、どく電波発生装置がっ」
姿見の前で装着した姿を確認しつつ、満足げに高笑いする岩清水。
早速実験だと、外へ出た。
人の多い場所が良いと、向かったは人でごった返す真昼の繁華街。
狙い通り、右も左も前後も人、人、人。人ごみの中を歩き出す岩清水。
傲り、増長した人類に天才の鉄槌を下してやると、岩清水はベルトのスイッチを入れた。
すると、ベルトから音が鳴りだした。
モスキート音に手を加えた岩清水のオリジナル。
鳴っていても作業の邪魔にならないように、人間には聞き取れない周波数の音で鳴らしている。
「やったぞ、成功だ」
人ごみの中で作動したベルトにより、岩清水の回りから人が離れるようになった。
愚かな人間達は、何故岩清水に近付くと避けてしまうのかが分からなかった。
岩清水は、更に効果を試すため、ベルトの出力を上げた。
更に人は離れて行き、場所によっては店のガラスケースに人が押し付けられる場面まであった。
実験は大成功だと、満足げに帰る岩清水。
ベルトを外し、上機嫌な岩清水は、大成功を祝してコーヒーを飲もう台所へ向かう。
「ん? あれ?」
気付いた時には、岩清水は家の外に居た。
おかしいなと思い、家に入ろうとするも、何故か入りたいのにドアを開ける気にならない。
「しまったぁ!! ベルトのスイッチを切り忘れた!!」
永久的にエネルギーが切れる事が無いため、岩清水は全てが詰め込まれた自身の自宅兼研究所を失ってしまった。